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三人目 騎士団

 数年前、俺は騎士団にいた。

 傭兵をやっていて多少は腕に覚えがあったから、定期的に募集がかけられる試験に出向いたのだった。兵士と迷ったが、戦争はもうこりごりだった。


 商人や職人になるという選択肢はなかった。学がない俺は、剣を振ることしかできない。


 運が良かったのか、たまたま人手不足だったのか。いずれにせよ、俺は騎士団の試験に合格した。


 傭兵団にいたことは隠して、他国からの流民ということにした。傭兵はどうしても印象が悪いし、戦争が多発しているため流民は珍しくない。

 良くも悪くも実力主義の騎士団では、特に出自が問われることはなかった。前科者や素行の悪い者は除籍される仕組みだが、記録にない過去をほじくり出すようなことはされなかった。


 最初に配属されたのは下っ端の警備隊だ。

 俺はそこで実力者たちに揉まれながら、剣の腕を上げていった。傭兵団ではそこそこやれると思っていたのに、自分より強い奴らがごろごろいて、わずかな自尊心は粉々に打ち砕かれた。


「なーにしょげてんだー?」


 そんな時に出会ったのが、アルフレッド・ダイヤモンドだった。

 彼は一年先輩だったが偉ぶったりせず、俺のことをよく気にかけてくれた。

 ツンツンと尖った短髪が特徴的な、爽やかな美丈夫だ。


「ほれ、飯行くぞ。食べなきゃ強くなれねー」


 彼とは年が近かったこともあって、よく一緒に行動した。

 実力も拮抗していた。俺たちは毎朝早くに集まっては訓練をして、汗を流した。互いに切磋琢磨し合える相手がいることは嬉しかった。


 同じ地区を担当していたので、いつしか相棒と呼べる存在になっていった。


 互いに拮抗した相手との鍛錬が、性に合っていたのだろう。俺たちは破竹の勢いで実力を付けていって、目覚ましい活躍を見せた。少しずつ地位も上がっていった。


 傭兵団にいたころのことは次第に思い出さなくなっていって、アンジェリカのことも吹っ切れた。

 アルフレッドに、女に捨てられたことを伝えると「いーとこ連れてってやる」と言って綺麗なお姉さんのお店に連れていかれたこともあった。それまで夜の遊びには無頓着だった俺にとって、新鮮な体験だった。


「なあ、俺お前とだったらビッグになれる気がするんだ」

「ビッグってどのくらいだよ」

「そりゃ、騎士団長だろー」

「夢見すぎ」

「ははっ。でも騎士団本部には呼ばれたいよな」


 在籍から数年経って、ある程度経験を積んだ自負があったのだろう。警備隊でそこそこ高い地位にいた俺たちは、いつか騎士団の本部に入って上り詰めてやる、なんて話をよくしていた。


 アルフレッドは所謂お行儀の良い剣を振るうタイプだった。しっかりとした師を持ち、流派に所属する彼の剣は乱れがなかった。確固とした拠り所のある、正義の剣。まさしく騎士団向けの男だ。

 技量も高く、隙の無い構えからはどこに打っても防がれる、そう相手に思わせるものだった。


 対する俺は、喧嘩殺法とも言うべき雑な剣だ。元より、誰かに剣を習ったことなどない。生き延びるため、相手を殺すため、戦いの中で身に付いた剣術だ。

 戦争というものは、生き延びた者だけが強者だ。どれだけの技術を持っていたとしても、うっかり落馬しただけで死に至るし、背後から突然斬られるかもしれない。連戦の疲労も、回復するまで敵が待ってくれるわけじゃない。

 度重なる戦争を運良く勝ち残った俺が持つ技術は、死に物狂いで命を狙い、どんな手を使ってでも勝ちを拾う。そんな戦い方だ。


 一見相反する俺たちだったが、いやだからこそ、背中を預け合うような信頼関係を築けた。


「くー、やっぱ強いな」

「あんたこそ、よく防ぐ」

「いやいや、本気で殺しに来られたら無理だって」

「それを言うなら、俺だって何度も首を斬られてるさ」


 そんなことを言い合うが、俺たちがやっているのは殺し合いじゃない。

 互いに高め合う訓練だ。欠点は指摘し、改善点をあげていく。

 実力は拮抗していて、警備隊内でも一二を争うまでになった。どちらが一番かは、人によって評価が分かれたが、多くの者はアルフレッドを推した。


 それには俺も同意だ。人柄や正当な剣術、生来の明るさ。何をとっても騎士団に相応しく、俺にとっても自慢の相棒だった。


 いつの日だったか、二人で酒場で飲んでいる時、ふと思い立って元傭兵だったことを打ち明けた。別に特別な覚悟があったわけじゃない。アルフレッドにだったら話しても問題はないと、心から思っていた。


「へー、それであの殺人剣なわけか」

「まあな」

「いーじゃん、戦争を経験した騎士なんて頼もしいや。それに、その頃の経験があるから今のお前がいるんだろ?」


 アルフレッドは曇りなく笑って、そう言ってくれた。やはりどこかで不安だった俺は、靄が晴れたような気分になった。


「昔何があったのかは深く聞かないけどさ、それを自分の力にして、今は市民のために身体張って戦ってる。それって、めちゃくちゃカッコイイことだと思うぜ」

「そう言ってもらえると助かる」

「俺はお前の相棒だからね」


 こいつとだったらどこまでも行ける。そう思える相手だった。


 アルフレッドが変わっていくまでは。


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