プロローグ
俺は全てを失った。
最初に失ったのは故郷だ。
俺の故郷は貴族の戯れで火を放たれ、村ごとなくなった。家族は炭になった。
恋人を失った。
愛する恋人は、信頼する傭兵団の上司に寝取られた。
地位を失った。
俺の出世を煩わしく思った騎士団長に、罪状をでっち上げて追放された。
金を失った。
再会したかつての恋人に騙され、全財産を巻き上げられた。
あの日から、俺は地獄のような日々を送って来た。
憎しみで身を焼き、後悔と呪詛の言葉を吐きながら眠りにつく日々。
だが、それも今日で終わりだ。
俺は手元の用紙に目を落とす。
己の復讐心を風化させないため、なんども読み返し、握りしめたそれはしわくちゃになっていた。
『復讐リスト
1、侯爵 ハーバー・ベルクローバー
2、傭兵団長 スペードル
3、騎士団長 アルフレッド・ダイヤモンド
4、元恋人 アンジェリカ・ハート』
俺を絶望のどん底に突き落とし、わずかな希望、日常の小さな幸せを奪っていった者たち。
俺はこいつらを、絶対に許さない。
準備に一年間も掛かってしまった。
だが、おかげで復讐の準備は整った。
本名は捨てた。それは復讐に必要のないものだから。
あらゆるものがこぼれ落ちていくこの掌。少しも満たされない心。
俺に残されているものはただ一つ。
絶対に復讐を止めないという、堅い意志。
さあ、始めよう。
血塗られた復讐劇を。
俺はジョーカー。
憎しみに取り憑かれた、名もなき復讐者なり。