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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ドエゴウ町の不審死――
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志操を改造するもの④

<うーん? これは夢……いや記憶か?>


『おお、そちらもおめでたか! めでたいなぁルーたん!』


 聞き覚えのある声が聞こえて、パチっとあたしは目を開けた。


『いやいや、大変なのはリーンじゃ』


 これは親父殿の声だ。でも、とても若い気がする。


 視界はぼやけて輪郭も何も分からない。色がぼんやりとついているような気もするが、そうでもない気もする。


 なにより体が全然動かない。

 自分の体じゃないみたいだ。


『うむうむ。殆ど同じ時間じゃな。…………そちらは男児か! 跡取りができて安心じゃの! こちらは女子だが後継者の一人として…………! おお。有難う有難う!』


 親父殿は誰と話をしているのだろう。


『生れた子は大変健康で元気が良いんだが、その、相談事というのは、娘の額に宿意(しゅくい)の印が記されているのだ。その昔、双子の勇者ミロノが負ったとされる呪いの印が……』


 なんだと!? 

 今、なんて言った親父殿!?


『びえーーーー!』


 叫んだつもりが鳴き声を出してしまった。


『お? お? どうした? わが娘よ』


『あなたは通信中でしょ? 私がやります』


 抱き上げられる。

 柔らかい、そして乳の匂いがする。安心して身を任せる。


『お腹空いたのかしら?』


 母殿の声だ、こちらも若い気がする。


『よーしよし』


 ゆらゆら揺らされて、心地良くて寝そうになる。目を開けて周囲を見ようとしたが、視界がぼんやりしていて、まるで水中にいるようだった。


『え? なんと、そちらの男児にも宿意(しゅくい)の印が胸にあると!? リヒトの負った呪いか。これは? そう、そうか。だとするとこの子たちは、我が一族の宿命に選ばれてしまったということか……。ななななんということだ! 娘は玉のような可愛い女の子なのにあんまりじゃあああああ! 宿意(しゅくい)の印は男児が受け継ぐのではなかったのかああああ!?』


 親父殿の声が途中で泣いていた。クスンクスンと鼻をすする音がする。


『ううう。すまぬルーたん。ううう、怒るでないルー。そうだのぉ。逃れられないのであれば、鍛え上げるしかない。のう。のう。あんまりじゃ。うう。ではまた後程……』


『あら、あなたの一族の宿命、この子が請け負っちゃったの?』


『そのようだ。わし、女の子が生まれたら家名を甥っ子に任せて、この子を可憐な娘に育てようと思っていたのに、夢が、うううう。お父様って言わせたかったんじゃ』


『あらあら。乙女チックね。笑っちゃう』


『ルーたんが言っておった。応急処置は、我が娘にミロノの名を与える事。宿意(しゅくい)の印が体に馴染む為、時期が来るまで呪いが潜み、魔王ミロノに発見されないだろう。向こうもそうするつもりだそうだ』


『あらあら、運がない子ねー』


 運がなくて悪かったな!


『では。我が娘の名をミロノとし、その時がくるまで鍛え上げる。わしらよりも先に死ぬでないぞおおお!!』


『もう一人作ります?』


『いや。一人生まれれば奇跡だったんじゃろ? 次はお主の命がないから反対じゃ!』


『ふふふ、そうでした。私の子宮はもう使い物になりませんし、外で(めかけ)でも作って子供だけ引き取っても怒りませんよ?』


『いやいや。目が笑ってない。恐い。殺されたくないぞ。そもそも儂はお前一途だし』


『私嫉妬深いので、作る際には声をかけてくださいね』


『そんなとこも可愛いのお。心配はいらんぞ。ルーフジールの跡継ぎは、血族であれば性別関係なくセンスと努力で決まるから問題なかろう。この子を正式な跡取りで鍛えるぞ!』


 母殿! さっきから問題発言多くないか!? 


『で……』

『……とは』


 段々、二人の声が遠くなる。

 あたしの意識が消えかかっているのか?

 そういえば、ちょっと眠い気も……


 って、ちょっと待て。

 もう一人の男子。

 ルーフジールってことは、親父殿の喋っていた相手はリヒトの両親!? 


 ええええ!? どうやって通信してるの!?


 あたし達はどこからどこまで、

 いや。最初から、凶悪なる魔王と戦うことが予想されていた、のか?


 意識が覚醒してしまったが、視界が徐々に黒くなって、更に深く落ちたのが分かった。


 真っ暗の中に落ちるのって、変な感じだ。



【■■■】


 不意に音を拾い始めた。


【■■■、■■■■。■■■■】


 声だ。


【■■■■。■■■■■■■■? ■■■■■■■■■■■■】


 聞き覚えがない声だが。


 地の底から響くような低い音程の、


【■■■■■■】


 怨みがましい誰かの声、


【■■■■■■■■】


 誰かの叫び、


【■■■■■■■■■■■■あにうえ】


 誰だ? 

 

 あたしは兄じゃない。



次回更新は木曜日です。


読んで頂き有難うございます。

好みでしたら、次回も読みに来てください。

応援して頂けると、とても励みになります。

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