志操を改造するもの②
「なにを、した」
問いかけると、ルイスは「ふふふ」と笑いながら目を細める。
「おねーちゃん、つよいから、先制攻撃。ここ、誰もこない。ここ、じつわ、死体置く場所にしてる。だから指定、ここ、ここに、した。えらいでしょ」
「攻撃……」
ルイスは人差し指を側頭部に沿える。
「思考を、意識を、攻撃。よく効く、でしょ」
「くっ」
どうやら視線あった瞬間に攻撃を受けたようだ。
物理なら回避は出来たが、魔王が仕掛けたのは精神攻撃。
正直、どう回避していいのか分からない。
「魔王に教わった。僕だけでも、記憶を、つくれるように、かきかえ出来る」
ルイスはあたしの目を見ると、酷い頭痛が起こる。
もしや、と目をそらすと、痛みが少し緩和した。
目を瞑ってみるが、気配が周りに溶け込んでいて、正確な位置がつかめない。これでは戦えない。
直視しなければなんとかなるのでは?
苦肉の策として視線を下に向けながら、魔王ごとルイスを一刀両断する。最初は手加減をしようと思ったが、とんでもない、こっちがやられそうだ。
ギィン
ルイスの頭部から、30センチほど上空で刀が止まった。彼の目から黒い靄が昇っている。その靄が刀勢い相殺した。
「くっそ! 届かないか!」
更に斬撃をくらわせてみるが、全部靄に弾かれた。
通常攻撃では歯が立たないなんて。
「お姉ちゃん、がんばる。すごい。魔王も、すごい」
どっちにも声援を送りながら、ルイスが後ろに走りだす。
咄嗟にその背を目で追うと、すぐにルイスが振り返った。先ほどよりも大きくなった眼球が、あたしの視線を捕える。
「いぎ!」
頭に電撃が走る。
先ほどよりも遥かに強い力で、頭を押さえつけられるようだ。強烈な眩暈で頭が揺れて、ドサっと、地面に倒れ込んだ。
こいつ。わざと視線を追わせたな!
「い、って……」
草のおかげで体の痛みは殆どないが、脈打つたびに激しい頭痛と眩暈に襲われる。
ああもう、どうやって回避したらいいんだ!
行動を起こすときは相手を見ないと出来ない。ってことに、攻撃を受けて痛感する。
どう対策をとればいい?
目を瞑ると気配が読み取れない。
目を開けて敵を見ても、視界が合えば攻撃を受ける。頭部のダメージで、あたしの攻撃威力が削がれている。
どうやって相手すればいいんだよ! こんな敵!
でも、戦っているんだから、なんとかするしかない。
突破口はないものかと、高速で思考を巡らせていると、ルイスの足が視界に入ってきたので、慌てて起き上がって距離をおく。
うう。思った以上に、体が動けない。
刀の柄を握りながら荒く息をする。整えようとするが、整わない。
脂汗と、吐き気と、頭蓋骨を割られるような頭痛が襲ってくる。不調さえ何とかなれば動けるのに、と奥歯を噛みしめる。
ルイスは呆気にとられたように、感心した様に、両手をパチパチと鳴らす。
「気を失ってない! つよい!」
いやほんと、殺意沸く。
「ルイス……、あんたまだ、魔王になってない、よな?」
ルイスの体に黒い靄が漂っているが、まだ飲みこまれてはいない。
ルイスは複眼をぎょろぎょろさせながら、笑顔で頷いた。
「うん。飲みこまれ、は半分、だね。魔王、そう、もう一人の僕が魔王。魔王が、いろいろ教えてくれた。思考を読める、のは、意識を書き換えること、可能だから、使い方、教えてくれるって」
「いつからだ」
「いつからだっけ?」
ルイスは首を傾げて、「忘れちゃった」と笑った。
「でも、この力で、僕を、守ってくれる人を、探している。お姉ちゃんは、優しいから、僕を守ってくれる、ように、思考を、変えてあげる」
「ふざけるな!」
渾身の力で立ち上がり刀を振り上げる。
身勝手もいいとこだ! 確実に、ルイスごと殺す!
気を練りながら即座に立ち上がり、奥義を繰り出す。
「一刀両断!」
完全に破壊する気満々で振り降ろす。大振り過ぎるが仕方ない。
当たれば、普通の人間ならば、確実に肉片と化す威力だが、
「無駄だよ、支配権は、ぼく」
「ふ、ぐ!」
複眼に射貫かれた途端、心臓に矢が何本も刺さった痛みを受ける。急激に力を失い、技が不発に終わった。
バランスを崩し、ルイスの横へ刀を振り降ろした。
ゴッ!
少年のすぐ傍の土が少し削げたが、黒い靄が彼を包みこんだので、足元に土塊すらかかっていない。
「はぁ、はぁ……」
思わず心臓を押さえてしまう。
精神攻撃で、こんなに心身に影響がでてしまうなんて、初めて知った。
緩慢に体を起こすと、手の形になった黒い靄が、あたしを軽く弾いた。
まともに受けてしまい、二メートルほど吹き飛ばされて、全身を強かに打ち付ける。
やばい、刀がどこかに飛んでいった。
直ぐに上半身を起こす。前方に転がっている刀を見つけたが、ルイスが踏みつけた。
「こら! 相棒を踏むんじゃない!」
あたしが睨むと、ルイスは不可解そうに首を傾げる。
「お姉ちゃん、人間なの? こんなに、抵抗できる、なんて、吃驚する、んだけど」
あんたに言われなくない! と声を大にして言いたかったが、
「うぐ!」
その前に意識に攻撃を受け、体が硬直した。
でも痛みを食らい続けて慣れてきたのか、痛みが麻痺してきた。頭痛も吐き気も、今はまだ我慢できる。
一撃。
一撃でも入れば、流れは変わる。
その瞬間を待つ。
「僕と魔王は、共感した」
ルイスは刀を踏み越えてあたしに近づいた。
頭を振り子のように振りながら、複眼をぎょろぎょろ動かして、腕をだらんと垂らし、体中に黒い靄を纏わせている。
一般人がこれを見たら、悪夢だと思うに違いない。
「僕は魔王を、受け入れた。おねえちゃんなら、きっと、耐えられる。ずっといっしょに、いてよ」
口の端だけが笑みを浮かべるその姿は、大変気持ち悪かった。
「え……?」
ルイスがぴたりと立ち止まり、ショックを受けたように小さく言葉を発した。
「気持ち、悪い?」
動揺したように複眼が蠢く。
そりゃそうだよ。
眼球が飛び出した風貌は、人間の顔と認識できない。
醜悪だ。
「僕が、気持ち、悪い?」
「うぐ!」
徐々に大きくなる複眼が、あたしを視野に納める。
ダメージを軽減させるため、目を合わせていないのだが、連続で刺さるような激痛が走る。
「があああああ!」
出血も欠損もしていないのに、頭の血管が何本も破裂したようなひどい頭痛と、肺が引きちぎられているような息苦しさ、心臓が大きく脈打ち胸が痛む。
それが連続して、体中を巡った。
意識を手放してしまえば、どんなに楽かと思ってしまうほど。
だが楽になんてならない。痛みに解放されるには、こいつを倒さないといけない。
あたしは意識を途切れさせない様、下唇を噛む。血の味が分かるなら大丈夫だ。
ゆっくり立ち上がる。
「はは、心を読むのも、あんたには悪手だな」
空笑いをすると、ルイスが涙を流し始めた。
「おねえちゃん……僕がきもち、わるい?」
「ああ。その姿はとても気持ち悪い」
「うぐ。うううう……お姉ちゃんも? 僕が気持ち悪いって、いうの?」
ん? 気のせいか、ルイスの意識が強く浮上した気がする。
「ああ。魔王と同化している姿、とても気持ち悪い」
「うう、うう、うう。どうすればいいの。僕は……魔王だけが、魔王だけが」
大量の涙が頬を伝い、それを手で拭い始める。
次回更新は木曜日です。
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