表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ドエゴウ町の不審死――
86/279

かたより伝播⑤


 歩いていると、ルイスが必死にあたしの横へ並ぼうとする。普通に歩いているだけだが、彼にとっては駆け足らしい。


「ところで、なんで手を握ろうとするんだ、気持ち悪い」


 ルイスは隙あらば手や腕を握ろうとするので、さっきから手を払いのけている。

 なんの攻防戦だこれ。


 ルイスは少ししょんぼりして、肩を落とした。


「お姉ちゃんもやっぱり……」


「やっぱり?」


 チラッと横目でルイスを見ると、彼もあたしを見上げた。


「!?」


 ルイスの目と合った瞬間、ゾワっと妙な悪寒が背中を駆け巡り、反射的に刀の柄を握り絞める。

 

 淀んで濁った憎悪の塊のような目だと!?

 これは…………


「ん? なぁに?」


 きょとんとしながら聞き返され、我に返った。見上げるルイスは普通の目だ。


 悪寒も消えた、が、気のせいではない。現に背中に冷や汗をかいている。


 今のはなんだったんだ?


 柄から手を離して深い息を吐くと、ルイスは不思議そうにあたしの顔色を見た。一瞬、青ざめたのがわかったのかもしれない。誤魔化す様に咳払いをした。


「なんでもない。それより、どこへ行くんだ?」


「食べてみたい定食があるんだ」


 そう言ってルイスが案内したのは、奇しくもあたしが朝食で訪れた食堂だった。


 また来るとは言ったが、お昼も来ることになるとは。

 まぁ美味しいからいいんだけど。


「ここのご飯、気になってたんだー!」


「そうか」


 テーブル席に座ったルイスは、期待に胸を膨らませていた。


「いらっしゃいませ。あ! ご利用ありがとうございます」


 注文を取りにきたのは、朝に挨拶をしてくれた店員だった。あたしは軽く会釈をして注文をする。


 あたしは昼の日替わり定食。ルイスはブタ丼と雑煮を頼んだ。


 店内で一番高い料理、もしくは品数を多く頼むかと思ったのだが、意外にお財布に優しい注文だった。


「いやだって、万が一にでも、お姉ちゃんが知っている情報だったら、飲食代返さないといけないから。念のために」


「そうか。良い心がけだ」


 しばらくすると、注文した料理がテーブルに置かれた。


「うわあ! おいしそう!」


 ルイスは目の前に置かれた料理に目を輝かせ、涎を垂らし、生唾を飲みこんだ。


「お肉久しぶりだ! わぁい! いただきまーす!」


 目の前の料理をガッツきながらむさぼり、呼吸も忘れたかのように一心不乱で食べる。


 予想はしていたが、炊き出しであまり肉は出ないようだ。長期間にわたる援助のため、当然のように質素倹約なのだろう。

 育ち盛りには少々物足りないはずだ。


「美味しかった! ご馳走様でした!」


 ルイスがお皿をピカピカにしたので、あたしはお茶を飲むのをやめて、会話を切りだした。


「で? 情報は?」


「その前に。お姉ちゃんに謝ることがあります」


「は? まさか。情報があるというのは、嘘か?」


「ううん、違うよ。仕事がもう一つあるの。お昼から夕方まで農作業のお手伝い」


「この野郎」


「だって、お金稼げって言ったじゃないか。だから片っ端からお手伝いしてるの。本当に会うとは思ってなかったもん。だからごめん。夕方、日暮前に終わるからその時にお話する! 場所はこの町の北の草原で! じゃあね!」


 早口で言いながら、椅子を引いて立ち上がるルイス。

 あたしは小さく牙を向ける。


「今の時点で信用できなくなった。先に聞く。情報はなんだ?」


 簡単にでもいいから答えろ。その内容によっては待ってもいい。

 

 ルイスはあたしの表情を見て、一瞬息を飲んだようだったが、すぐに返答する。


「スートラ―タエリアの山脈で起こっている災いと、リアの森のヂヒギ村の災いの詳細」


「よし、待つ」


「ありがとう!」


 パァっと破顔の笑みになり、ルイスは食堂の出入り口へ急ぐ。ありがとうございましたー! という、店員の声を振り切るように、颯爽と外へと飛び出した。


 あたしは二人分のお会計をしながら考える。


 待つと絶対、リヒトとの待ち合わせ時刻に遅刻する。

 遅れる事を告げなくては。無視すると、後から滅茶苦茶文句言われる。


 探しに行くか。


次回更新は木曜日です。

好みでしたら、また読みに来てください。

もし応援して頂けると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ