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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ドエゴウ町の不審死――
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かたより伝播④


 また畑の中を通って、中心地に戻りながら思考を巡らせる。


 災いと世間で認定される基準は、規模の大きさや期間の長さが関係している。

 突発若しくは端的期間ならば、単なる事件や事故や不運や寿命として、置き換えられている。


 あたしですら、印に反応がなければ気づかないこともあるのだ。


 災いと気づかれず、密かに発生して鎮火したモノも多いだろう。


「まぁ。目についたモノだけ対応すればいいし」


 だって世界は広い。発生する災いを全部退治するとしても、生涯を賭しても、多分成し得ることは出来ない。つまり呪いは解けず、一生このままの可能性が高い。


 ひぇ。考えて絶望しちゃうなこれ。無理ゲーやってるだけじゃん。

 独りじゃ挫けるし、投げ出すわ。


 その辺も考慮して、リヒトは大陸を横断してまで、あたしを引っ張ってきたはずだ。

 妙に生真面目なのも、あたしが途中で逃げないように監視しているだけに過ぎない。

 あたしも彼が逃げるなら全力で追っかける自信がある。

 おそらく性格の根っこの部分は良く似てるんだろう、癪だ。


 あたしは不毛な思考を止めて、周囲を眺める。

 涼しくなってきたが、日差しが強いから、緑と黄土色の二色に近い景色が油絵絵画のようだ。


「……」


 うーん。お腹空いてきた。

 太陽が真上を照らしている。時刻的にはそろそろお昼だろう。


 今日は夜の鐘の鳴るころに集合だったはず。となれば、夕方に酒場に行って、鐘の鳴る一時間前には聞き込み完了、って事にしたほうがいいな。

 災いの噂が聞ける保証もないが、情報を得る手段だから……



「お姉ちゃん、災いの噂を集めてるの?」


 不意に、本当に不意打ちで声が聞こえた。


 すぐ傍にある小麦が茂っている畑で数人作業している。道の脇の草影に『一人』いることは気配で分かっていた。草刈りをして穂を集めているから、気にも留めてなかったが。


 まさかこんなところに……。


「ルイス」


 吐き捨てるようにその名を呼ぶと、草影から顔を覗かせたルイスはむぅっと頬を膨らませて、不機嫌になった。

 小さな穴が開いた麦わら帽子をかぶり、昨日と同じ服装のルイスは小麦を掻き分けながら、こっちにやってくる。


「誤解しないでよ。僕は今日、小麦収穫のお仕事してただけ」


 手に持っていた鎌をそこら辺にぺいっと投げて、服に着く葉を見える範囲で払い落とす。

 あたしはその姿を苦々しい物を見るように眺める。


「読んだ内容を不用意に喋る事はやめておけ。勘の良いやつなら一発でバレる」


「お姉ちゃんなら平気だと思って」


 平気じゃねぇよ!

 マズイ内容を読まれてしまったんだ。口封じしたくなるわ!


 眉間にしわを寄せると、ルイスは苦笑した。


「怖い。でも思うだけでやらないでしょ?」


「ああ、今はな。あたしの考えを即座に忘れて何も聞かなかったって事にすれば、だ」


 低い声で警告をするが、ルイスはにへらっと無邪気に笑った。


 くそが、脅しが効かない。

 苛立っているが、本気ではないと分かっているのだろう。小癪な。


 ルイスは腰につけていた紐を解き、刈った小麦を束にし始めた。


「お姉ちゃんちょっと待ってて。お仕事の時間が丁度終わったから、お話しようよ」


「盛大に殴られる覚悟はできてるのか?」


 眉を吊り上げて見下ろすがルイスは平然とした態度だ。手際よく束をいくつも作って行く。


「殴られたくないけど、情報が欲しいんだよね? 僕は他の災いの情報持ってるよ」


「ん? 持っている?」


 サトリであるルイスが言うと真実味が増す。


 あたしの心が少し揺らいだのを読んだのか、ルイスがほくそ笑む。


「じゃぁ決定! この束持って行くからちょっと待っててね! 先に行ったら嫌だよ!!! 絶対にここで待っててね!」


 そう早口でまくしたてると、束をいくつも纏めて持ちあげ、ルイスは駆け足で畑の中心に向かった。あそこで集まっている人達の元へ向かうようだ。

 走る姿を目で追いながら、あたしは走って帰りたい気持ちと戦う。

 

 結局のところ、あたしは待つことにした。


 もしかしたら、知らない噂を知っているかもしれない。という理由と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をするためだ。



 災いを倒しているという噂でも流されたら、たまった物じゃない。

 こっちが適当にやる場合と、最初から期待を込められてやる場合じゃ全然違う。逃げなければいけない時に逃げられなくなる状況、これが一番怖いからな。


「おねーちゃーん!」


 時間にして10分ほどでルイスが戻ってきた。

 読まれても大丈夫なように、思考を切り替える。


「良かった! 待っててくれてた! ありがとう!」


「あんたの能力を信用してみることにした。何を聞かせてくれる?」


「その前に!」


 声を弾ませながらあたしの腕にルイスが絡みついてきた。身長が低く、あたしの胸くらいの高さの少年が腕にギュッとしがみつく。

 馴れ馴れしすぎて。気分が悪い。直ぐに腕で振り払うと、ルイスは軽く後ろに飛んで尻もちをつく。


「いたたた」


「不用意に触れるな。次は反射的に投げ飛ばすぞ」


「ううう。冷たい」


 あたしが無言で歩くと、ルイスは直ぐに立ち上がり、駆け足で後を追う。


「で? 情報は?」


「先にお昼奢ってよ、お姉ちゃん」


「それが対価か」


「うん! 先払い」


「わかった」


 あたしも腹が減ってるし、先にお昼にするか。



次回更新は木曜日です。

面白かったらまた読みに来てくださいね。


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