かたより伝播③
土を固めただけの道の両隣に畑が広がっている。旬の野菜が実り、ぽつぽつと町人が数人ごとに集まり野菜や果物を収穫していた。
「あれかな?」
広大な畑を三つくらい越えたところに、広い赤い屋根でレンガ造りの一軒家が見えた。
後からいくつか増設されているような、一体感に欠ける平屋だったが、人の出入りは多そうだ。
広い敷地に馬や荷車が何台も置かれており、二つある玄関に農作業姿の町人や商人姿の人間が出たり入ったりしている。
「ちょっと聞いていいか?」
何人かに声をかけてみたが、忙しい人間は視線を向けるだけ、会釈するだけで足早に去っていく。
「困ったな」
どっちに入ればいいか聞きたかっただけだったんだが。
適当に入ってしまうか。そう思っていたところに
「どうしました?」
あたしとそう歳が変わらない少女が声をかけてくれた。
「聞きたいことがあって」
「私で良ければ」
「この周辺に災いがないか調べたいんだけど。食料店で聞いたら町長の家に行けばいいと言われて来たんだ。ここで合ってるのか?」
「はい、合ってますよ」
少女は小さく笑みを浮かべて「こちらからどうぞ」と、左側の玄関から中に入るように促した。
「右側の玄関が町長の家で、町長になった人が住む個人住宅です。左側の玄関は簡易役所になっています」
「そうか。ありがとう」
「いえいえ。では」
少女は軽く会釈をして足早にその場から去っていった。
人が多く行き来しているほうだったんだな。とはいえ、右側も結構人が出入りしているから、あたしは判断できなかった。
思わず苦笑いを浮かべながら簡易役所に入る。
室内は個人宅っぽい感じだったが、カウンターで仕切られた受付場所が二か所ある。
赤い札が置いてある受付は住民登録や作物管理など町の事業関連。
青い札が置いてある受付は犯罪や災害や冒険者用の依頼などだ。
受け付けの説明が壁に貼ってあるので分かりやすい。
あたしは青い札がある受付に向かって、暇そうに座って葉タバコを吹かせている中年の男性に声をかけた。
「この周囲に災いが起こってるか聞きたいんだけど」
「おはよう。お嬢さんは旅人さんか? 商人さんのお使いか?」
なんの違いがあるのだろうか?
とりあえず「旅人」と答えておいた。
男性は席を立ち、すぐ奥にある本棚の分厚い資料を取り出し、また戻ってくる。眼鏡をかけると最後のページから捲り始める。
「そうさな。このアコーナエリアで疑わしいのは焼失した村だが、その後、他の村や町が燃えたという報告がないので、災いは鎮火したと判断されている」
ページを捲る。
「次に不確定……というか、情報が殆ど入ってこないのが、隣のフィオヴィエリアにあるヂヒギ村だ。あそこの風土病が怪しいが現段階では判断が出来ない」
「風土病? 病が蔓延しているのか?」
「今は交流が途絶えているから、詳しくは分かっていないんだ」
「いつから途絶えているんだ?」
「一年前ほどからだ。風土病が流行ったという噂があったが、その後すぐにリアの森で、村に通じる道に妙な霧がでるとか。それで調査を依頼したんだが、ほとんどが戻ってこなかった。戻ってきてもすぐ死んだりしてな。災いが起こっていると言われているが、何が起こっているのか情報が全くない。あそこは通らないほうが良いぞ」
渋い顔で警告した。
「他には何もないか?」
「そうだな」
パラパラと資料をめくったが、他に必要な内容が記されてなかったようで、資料を閉じた。男性は腕を組んで天井に視線を移す。そして数秒間があり、ゆっくりとあたしに視線を戻す。
「面白い噂があるぞ」
男性は眼鏡を外し、肩ひじをついてニヤっと笑った。
「災いではないが、最近小耳に挟むことがある。災いを散らす二人組がいると」
思わず吹き出しそうになった。が、無表情で「それで?」と促す。
「大陸の東側と南側エリアの噂というか、伝説みたいなもんでな。何年かに一回、『災いのあるところに二人組の青年が現れ、依頼を受けて解決する』と噂が流れる。それがここ最近出始めて巷で噂になりつつある。どうだ、いい噂だろ!」
男性は大笑いをする。対してあたしは疑いの視線を向ける。
「男二人? それ本当?」
「そうさ。お嬢ちゃんと変わらない年齢らしいとも、二十歳前後とも言われているが。実際はわからない。とりあえず二人組の男性という話だ」
「男性……」
「お嬢ちゃんが疑う気持ちも分かる。もう少し活躍すればもっと噂があがるかもしれないな。そうすると人物像も伝わってくるさ」
「ふむ」
考え込むあたしに、男性は「信じられないが本当だぞ」と共感してくれるが、あたしが気にしているのはそこではない。
一瞬、あたしとリヒトの動きが世間にバレたのかと焦ったが、違うようだ。
だって、ほら、あたしはちゃんと女性に見られているじゃないか。
そうすると、他にも災い退治を行っている奴らがいるって事だな。
あと気になったことは。
「過去に何度も、災いを解決する二人組が出てくるの?」
「ああ。十年間隔ぐらいで、突然出てきて2年くらい動いた後、また姿を消すらしい」
「へぇー」と生返事をすると、男性は「信じてないな」と笑った。
いや、感心しているだけだ。
魔王を倒せる強さを持つ人材が出現するんだなー。世の中凄いなー。もっと増えるべきだ。
もしかしたら、数あるうちの一つが親父殿かもしれない。
あの人ならやりそう。
「そっか。それなら助かるな」
小さく頷くと、男性は豪快に笑った。
「ハハハ。そうだな! まぁ真実なのかどうか判断できないが、災いを解決してくれたら平和になるからね、有難い話だ」
「そうだな」
全部倒してくれると手間が省けて有難いんだけどな。
その後も雑談を交えながら噂について聞いてみたが、管理している災いはヂヒギ村以外に無いみたいだ。
次の目的地はヂヒギ村かな。要相談だ。
「ここ以外に噂が聞けそうな場所といえば?」
「やっぱり酒場とか馬車亭とかだろう。外から来る人の出入りが激しい場所なら、聞けると思う」
「馬車亭は聞いた、となれば酒場」
「この町の酒場は夕方から営業してるから、暗くなる前に行くか、大人と一緒に行くんだぞ」
心配されてしまった。
訂正するのも面倒なので頷いてから、あたしは役所を後にする。
次回更新は木曜日です。
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