かたより伝播②
早朝、本日も快晴だった。
簡単に身支度を整え、装備を終えてから食事処へ繰り出した。
昨晩は簡単な食事だったので、今朝はガッツリいきたい。
早い時間でも営業しているか歩いて探そうと思ったが、案外すぐに見つかった。一件や二件じゃなく、営業している食事処が結構多い。この町は早朝から勤労者が多いのかもしれない。
少々迷ったが、一番おいしそうな匂いがする食事処にした。
「席空いてる?」
開き戸を開けて店内に入ると、八つある四人掛けのテーブルのイス席がまばらに埋まっていた。働き盛りの男性が多く、女性は一人、二人くらい座っている。
「どうぞ、お好きな席へ」
店員が会釈して空いているテーブルをいくつか指し示す。端っこが空いていたので、そこに座った。
よし! 朝飯はすこし豪華に!
と決意していたので、日替わり定食の大盛を頼んでしばし待つ。
あちこちから飯の良い香りが鼻腔をくすぐる。店内はお一人様の客ばかりだったので会話がなく、咀嚼音や汁を啜る音が店に響き渡って、余計にあたしのお腹が減った。
待つこと十分くらい。
「おまたせしました! 日替わり定食大盛です!」
中央の大皿に揚げたチキンがありサラダが敷かれている。固めのパンが6枚とソースが三種類。あとはコーンスープと紅茶がある。チキンはパンに挟んで食べるようで、切れ目が入っていた。
サクサクパンにチキンとサラダを挟んで、ソースを好みで垂らしサンドして、被り付いた。
口の中でチキンとソースが絡み合い、その肉汁をパンが吸い込んでしっとりとし、サクサクからホクホクな触感になる。
甘辛い! スパイシー! あっさり! の三種類の味が堪能できる。
スープで時々口の中を潤し、最後の紅茶で口の中を整えてから、ホッと一息ついた。
やっぱり熱々作りたては美味しいなぁ!
ほっこりして、少しだけ余韻を味わってから、あたしは会計に向かった。
「美味しかった! また食べにくる!」
勘定を払いながら若い男性店員に伝えると、彼は愛想笑いを浮かべた。
「有難うございます」
「そうだ。ちょっと聞きたいんだけど、災いの噂って耳にした事ある?」
「んー? そうですねぇ。焼失した村に災いが出て、もう去ったと聞きますけど、それ以外は知らないです」
言いながら、少し年上の女性店員にアイコンタクトを送ると、彼女も分からないと言いたげに首を左右に振った。
どうやら変死事件は災いと思われていないようである。もしかしたら、一部の人しか知らない情報だったのかもしれない。
「そっか。ありがとう、ご馳走様」
あたしは食事処を後にして食料店に向かった。
開店してすぐに入ったはずだが女性客が多かった。棚には旬の野菜や果物やパンや穀物などがあり種類が豊富だ。凍氷石が使われているようで店内が若干ひんやりしている。鮮度は良さそうだ。
携帯食を購入して外へ出ると、店の傍に荷卸しをしている中年女性がいた。腰を叩いて背伸びをし、重たそうに箱の上に座る。休憩するようだ。
丁度いい、話しかけてみよう。
「おはよう。聞きたいことがあるんだが、今は大丈夫か?」
「おや? 可愛い旅人さんだね。少しならいいよ、なんだい?」
汗を拭きながら女性はにっこりと笑った。
「この辺で災いが出たとか、噂とか聞いたことある?」
「噂ねぇ。火事で焼失した村以外だよね?」
「ああ」
女性は腕組みをしながら「うーん」と唸る。
「あたいはこの町から出ないから、それ以外だとわかんない。でも町長の家に行けば分かると思うよ。自警団や業務とかは町長が全部管理してるからね。あっちなら詳しい事がわかると思う」
「わかった。町長宅はどう行けばいい?」
女性はどっこらしょっと重い腰をあげて、二時の方向を指し示した。広大な畑が広がって、ぽつんぽつんと小さな民家がある。
「あっちの畑の向こうだよ。町の中心から少し離れたら大きな家が見える。それさ」
「ありがとう」
「いやいや、災いは近寄らないのが一番だからね」
豪快に笑った女性に軽く会釈を返して、あたしはその足で町長の家に向かった。
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