表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ドエゴウ町の不審死――
80/279

心を読む少年⑦


 本当にめんどくさいなこいつ。

 帰りたくなったが、ここで止めてしまっては今までの時間が勿体ない。

  このまま傍観しても話の進展がなさそうだ。少しだけこのノリに乗ってみて、促すようにしてみるか。


「気づいた段階では、もう遅かったのか?」


 あたしが話しかけると、ルイスの表情が変わる。悲しみから嬉しさに変換され、泣き腫らして真っ赤に充血した目に、安堵が浮かぶ。


「うん、遅かった」


「ああ、そうか。そーいう事か」


 あたしの言葉はルイスに対してではない、彼の態度についてだ。


「今でも、その、区別があんまりついてないから……ええと」


 まぁ、あたしに話しかけたのもその迂闊さだったからな。自業自得といえばそれまでだけど。


 途端に傷ついた表情になるルイス。また勢いよく立ち上がってあたしに訴える。


「酷いや!」


「酷くない」


 あんたはやっぱりサトリをしっかり活用している。自分の思う通りに動かない人間を、どうやって動かそうかと常に打算している。


「そ、そんなわけないじゃないか! そんなこと、出来るわけ!」


「あたしが話しかけないと、しおれた姿を見せて、話しかけさせようとする」


 話しかけても自分の希望通りの反応でないと、すぐに対処するだろう? 

 人の感情や気持ちをコントロールしようとしている証拠だ。


「違うよ!」


「それだよ」


 あたしは呆れた。


「あんたはさぁ。迂闊(うかつ)じゃなくて狡猾(こうかつ)だ。自分を優位に立たせようとしてる。その自覚を持って注意して動けば、あたしにここまで言われなかったはずだ」


「な? え?」


 無自覚は質が悪い。


「無自覚……って」


「この時点でも『あたしと会話』ではなく、あたしの『その時に思った事と会話』している」


「え? でも、お姉ちゃん、全然話してくれないじゃないか!」


「あたしは言ったぞ。昔話を聞くつもりもない、焼けた時の状況を聞きたいだけだ、と。それを無視して、あんたが勝手に自分の身の上話をしているだけだ。聞きたくもない話を聞かされる、こちらの身になってみろ」


「そ、れは…………」


「少し話してみて思ったが、あんたは相手に気持ちを押し付けすぎている。心を読んで動きを把握しながら、同情心を惹こうとしてくる。不愉快だ」


「そんなことない!」


「あたしがそう思っている」


 「酷い……酷いよ」と、かすれた声でこちらを見つめるルイス。

 裏切られて傷ついた表情になりボタボタと涙を流す。


「お姉ちゃんも僕を責めるの? 僕は何も悪いことしてないのに……。ちょっとだけ、ちょっとだけでもいいから、慰めてほしいって思っただけなのに、悪いことをしようなんてこれっぽっちも」


 「ぶは!」と思わず吹き出した。


 あたしが突然笑ったので、ルイスは怪訝そうに首を傾げる。


「悪い悪い。やっと本心を出したかと思ってつい」


「本心?」


「そうだ」


 あたしはルイスをみながら口角をあげる。


「あんた、単に自分の境遇を慰めてほしかっただけなんだろう? 可哀想とか、頑張ったなとか声をかけてほしかったんだろう」


 カァ……っと、ルイスの頬が赤くなった。


「ははは、それにしては随分遠回りな言い方だったな」


「そんなことない、よ!」


 ルイスは赤い顔のままそっぽを向いたが、すぐにチラッとこっちを一瞥して「なんで、分かったの……?」と、不思議そうに言葉を付け加えた。


「なんとなく、だ」


「そう?」


 腑に堕ちないと言わんばかりの表情だったが、少年は口を噤んだ。


「忠告の続きをしよう。責めるつもりはない。確かに、あんたは悪い行動はしていない。でも不愉快な気分にさせられるのは間違いないな。それが積もれば人は遠ざかっていくさ。そこを直さなければ、あんたはずっと独りのままだ」


「僕は、不愉快な気分にさせてるの?」


「ああ、かなり不愉快だ」


 ドキッパリ言ったらルイスは押し黙った。

 なんだか段々苛めている気分になってきた。でも慰めるつもりはない。


「…………どうすれば、不愉快な気分にさせないの?」


「言葉をちゃんと耳に入れろ。心の声ばかり聞くな」


「…………」


「あんたは人の事が解かりすぎるんだよ。一つの言葉で多数の感情や思考を感知してしまって、自分の中で処理できない。まずはちゃんと相手の、声でだした言葉を聞いて、それに受け答えする練習をしろ」


「会話……」


 話は相手の波長に合わせないと、うまくコミュニケーションできない。それには相手の声をよく聴くことが必要だ。

 聞いてほしい事があるなら、より一層、相手の性質を確認しながらでないと、一方通行で終わってしまう。


「要は、相手の気持ち寄りそうことが出来れば、会話は成立する」


 ふと、リヒトが浮かんだ。

 最初は会話がギリギリ成り立っていたが、今は少しずつ、落ち着いて会話が出来るようになってきたと。

 これもまぁ、コミュニケーションの積み重ねというやつだ。


「……」


 ルイスは草むらに座り込んだ。

 そのまま少し考えるように膝を折り曲げて、そこに顔を置いて身を小さくさせる。


「僕の村は、燃える前に少しだけおかしい事件があったんだ」


 ルイスはそう切り出した。


 「村人が、一人ずつ、自分で自分の体を傷つけてたんだ。最初は、僕の家の隣のおじいさん。頭を何度も壁に打ちつけて死んじゃった。次のそのおばあさん。土を口いっぱいに入れて死んじゃった」


 その後も、1人ずつ、奇妙な死に方をする人間が出たそうだ。


 「頭がおかしくなったから伝染病と言われたけど、前日まではまともな人が殆ど。全然病気しない人も、一晩でおかしくなって、自分の首を何度も刺して死んじゃった。それが続くと、それは僕のせいだという人が出てきた。お父さんたちは僕を外へ出さなくなったよ」


 ルイスは顔をあげる。目が虚ろで血の気が引いていた。


 「そして村が焼けた。あの日はお祭りだった。みんな殆ど広場にいたよ。僕は家の中に居たけど、妹が踊るのを見たかったから、こっそり抜け出して舞台を見に行った。妹が舞台で踊っていた。それを眺めていたら突然、背筋が恐ろしくなるほどの、奇声があちらこちらで起こった。僕の家族も全員、奇声を挙げて……。急に……」


 その時の恐怖を思い出しているのか、ルイスの体が震え出す。

 顔が徐々に強張り、口も引きつっていき……


 いや、でも……なんだ? 


 こいつの表情に、違和感がある。


 恐怖……? いや? 恐怖もあるが……?


 「奇声を挙げた人達が大勢いて、松明を振り上げて、周りの草や建物に。お祭りで用意してあった花火とかにも、火の石とかも、使って、辺り一面。真っ赤で……」


 ルイスは手で顔を覆った。


 「止めようとした人も体に火をつけられた。火をつけられた人は水を求めて家の中に入って、家に燃え移った。あちこちで火が上がるとみんな火の中に飛び込んで、楽しそうに踊っているのに助けてと悲鳴をあげてた」


 そしてルイスは少し沈黙をして、意を決した様に声を出した。


 「それを見て、誰かがずっと笑ってた。頭の中に響くくらい、笑ってた」


 「笑っていたのは誰だ?」


 聞くと、ルイスは首を左右にふる。


 「分からない。あの地獄の中で、誰かが楽しそうに笑っていたんだ。僕はそれを聞いてた。耳じゃなくて、頭で。多分、心の声、だったと思う」


 逃げ惑うふりをして、心で笑っていたということか。


 「村がなくなったらその声は消えたか?」


 「ううん。続いている。この町に避難しても時々聞こえてくるんだ。多分、一週間に一回くらい」


 「一週間に一回?」


 脳裏に馬車亭で聞いた話が浮かぶ。

 だが、安易に結び付けない方がいいか。


 「一応聞いてみるが、誰が笑っているか知っているか?」


 ルイスは蒼い顔をしてブンブン首を左右に振った。


 「知らないよ! 声が聞こえたら逃げてるもん!」


 「それもそうか」


 君子危うきに近寄らず、だよな。


 そうなると、火事の原因を作ったやつが、避難と称して町に来て、定期的に人を殺している。ってことになる。

 村と同じように、町も劫火に飲まれる可能性がある、ってことか。


 こいつの話全を鵜呑みにするわけにはいかないが、もう少し詳しく調べる必要がある。


 「なんで調べるの?」


 きょとんとしながらルイスが聞き返してきた。

 ハッとして、あたしは軽く頭を掻く。


 あー、そうだった。

 こいつには思考が筒抜けだった。


次回更新は木曜日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ