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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ドエゴウ町の不審死――
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心を読む少年⑤


 呆れながら思うと少年は激しく首を左右に振って、上目遣いのまま、涙目で泣き声だったが力強く返事を返した。


「だってお姉ちゃん! 僕の事庇ってくれたし、あと、僕のこと気持ち悪がってなかったから……だから! 優しい人なんでしょ?」


 うっわ、超めんどくせぇ。

 声かけるんじゃなかった。


「だからどうした。珍しい反応で興味を覚えたか? あたしは興味ないからさっさと失せろ」


「や、やだ! 僕はお姉ちゃんと一緒にいたい! 僕、家族がいなくて、だから!」


「はぁ、売れるかなこいつ」


「!?」


 追い払いたくて小さく呟いたら、思いのほか声のトーンが低くなった。

 少年は震える小鹿になり、泣き出しそうなのを堪えたまま、じっと見つめてきた。


「……ち、違う」


 震える姿に反して、少年は凛と答えた。

 

「違う。お姉ちゃんは人攫いじゃない。俺の相手が嫌だから嘘を言ってる! 心を読めるからわかるよ!」


 ああ、やっぱり。

 でもそれ言われても困るだけなんだけど。


 あたしは「ふぅ~ん」と曖昧に返事して、「それで?」と促す。冷たく突き放す態度は変えない。


「では、あたしが人攫いじゃないとしよう。あんたはあたしと話をして、どうする気だった? 運良く食べ物とか、お世話になろうって魂胆か?」


 それならそれで話は早い。

 飢えによる一時しのぎなら適当に渡せばあたしの前から姿を消すだろう。どうせそんなに長く滞在しないから、すぐにさよならできる。


「ほら! サトリだって言っても、僕に乱暴しない!」


 少年はニコッと笑った。


「最初は、路地で見かけた時は、とても綺麗な人だなって。もしかしたら食べ物貰えるかもしれないって思ったりしたけど。今はただ、お姉ちゃんと普通に話しがしたいんだ」


 少年は怒ることも泣くことも立ち去ることもせずに、下を向いて頭を左右に動かした。


「こんにちは、とか、こんばんは、とか。最近の面白い話とか、他愛もない話をしたくて」


 うっわ。面倒。

 自分で愛情に飢えた子供だと説明している。


「あたしは別にしたくない。以上だ」


「まって! 少しだけ! 少しだけでいいんだよ!」


 少年は涙目で訴える。


「僕の村は焼けてなくなっちゃったんだ、家族も全員死んじゃったんだ! 一人ぼっちなんだ! 誰かと話をすることも出来ないんだよ!」


「五月蠅い」


 思わず反射的に声を挙げたら、少年は吃驚するように口を閉じた。


「自分の不幸を盾にして人を誘導するな。タチが悪い」


 睨みつけると少年は視線をそらした。


 ん? 今、村が焼けたって言ったな?

 そうか。こいつは生き残りだったか。

 これだけ幼いと逃げるのに必死で、村に何が起こったか詳細な情報なんて知らないだろう。


「なら、どうすればいいの? お姉ちゃんは僕と喋りたくないんでしょ? でも僕はお姉ちゃんと喋りたい。どうすれば、お喋りしてくれるの?」


「そもそも、あたしは旅の途中にこの町に寄っただけで、用がなくなれば去る。そして談話するほど暇じゃない。時間を割く理由が無い以上は、あんたと話をするつもりはない」


 しょんぼりと少年は下を向いた。

 押し問答をするつもりがないので、あたしは踵を返す。少年が追いかけようとしたら全力で走るつもりだ。


「お姉ちゃんが時間を割いてくれる理由って、どんな事なの?」

 

「それを知ってどうするんだ? 物騒な話だぞ」


「……村、炎に焼かれる前の異変。僕、知ってるよ」


 あたしが振り返ると、少年はぱぁっと表情を明るくした。


「さっき、思ったでしょ? 僕が幼いから村に何が起こったか詳細な情報なんて知らないだろうって」


 ちょっと心臓に悪かった。 

 そうか、これがサトリの本質。

 思考が筒抜けと言うのは、こーいう状況を示すのか。


 なるほど。嫌われて警戒されて軽蔑される理由が少し分かる。だが、この能力が戦争を左右したのも頷ける。


「僕、知ってるよ。サトリだもん」


「そうか」


「お姉ちゃん、少しだけ話聞いてくれる?」


「わかった」


 断る理由がなくなった。


「やったぁ! じゃぁ! そこの土手で話しようよ!」


 少年はぱああと更に表情を明るくして、近くの土手に座り込んであたしを呼ぶ。

 ため息を吐きつつ、二人分の距離を開けて少年の横に座る。


「もっとこっちに寄らない? それとも僕が寄ってもいい?」


「あたしの間合いに来るな。いざと言うとき、巻き込むぞ」


 腰の刀を見せ睨みつけながら言うと、少年は「うっ」と言葉に詰まってそれ以上近づかなかった。

 会話はするが、慣れあうつもりはない。


「暗くなる前に早く話を始めてくれ。…………」


 少年の名を呼ぼうとして、まだ名前を聞いていなかったことを思い出した。


「僕はルイスだよ。お姉ちゃんは?」


「…………ミロノ」


「わぁ! おねえちゃん、伝説の勇者様と同じ名前なんだね!」


 笑顔で言われて、あたしは全力で帰りたくなった。



年内の更新はこれで最後です。

今年も読んで頂き有難うございました。来年もよろしくお願いします。

次回は1月6日木曜日更新予定です。

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