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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ドエゴウ町の不審死――
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心を読む少年③


 馬車亭で用事を済ませたので、今度は宿屋を探す。

 流通の通り道なので旅人や商人向けの宿が多かった。宿は中位ランクに泊まることにした。二階建てのこじんまりした民家の様な宿だが、防犯がしっかりしており二重窓に頑丈なドア。部屋の内装は質素だが、シャワー完備トイレありで設備も宜しい。


 この宿屋に食堂がないので、外に食べに行くか買わなければならない。後で時間を確認しないと。

宿を出る時にリヒトに会った。


「俺は今日、買い物で一日潰す」


「あたしも今日は買い物だ」


「じゃぁな」


 短い会話を終わらせてさっさと行くリヒト。お互いの行動が一致したからと言って、一緒に行動するわけはない。

 あたしは少し周囲を散歩してから店へ向かう。


「はぁ。のどかだなぁ」


 この町は広い領地に密集しておらずまばらである。

 住宅地や商店街や宿の間を縫うように原っぱや畑が広がっているので、畑の中に建物を建てているようだ。


 最近、石畳がある立派な町が続いていたので忘れていたが、町は大抵こんなもんだった。村と町の中間みたいな。ちょっと寂れた風景みたいな感じだ。街灯はないか。夜出歩くと余計なトラブルに遭いそう。

 

 宿近辺を軽く散歩して風景を覚えたので、土道を歩いて商店街に向かった。

 その道中、人が道の端に座っているのがよく目につく。

 遠目から気づかれないように観察すると、火傷を負った人や子供、ボロ布に寝転がっている者ばかりだ。火事で焼失した村の住人に違いない。


 村人達は心あらずの表情をして、行き交う人を虚ろな目でぼんやりと眺めていた。

 聞いていた通り、町に受け入れてもらえず、行き場を失っているのだろう。

 

 まだ暖かい気候のため、凍死はしないだろうが……このままでは近い将来、その末路を辿る者は多いだろう。


 あたしと同様に、町の人も彼らを無視している。まるで彼らの存在がないような立ち振る舞いだ。

 でも関係ないので、特に何も思わない。


 情けを出しても、助けられるのはせいぜい数人。それをやったところで、何かが変わる訳ないし、逆に助けた人間が他の人間から恨まれる可能性がある。余計な火の粉を与えるのは宜しくない。


 更に、最後までそれの面倒が見られないなら、手を出すべきではない。生半可な優しさは人を絶望へ押しやってしまう。

 

 何もしないのが一番だ。

 這い上がる為には他人からの力も必要だが、まず自分で動かなければならない。座っていて救いの手がくるなんて、そんな幻想に囚われているようでは……



「厳しい事言うね、お姉ちゃん」



「!?」


 不意な声にあたしは思考を中断して周囲を見渡した。

 今は商店街の中にいる。商店の外壁が連なっている細い道で、あたしはキョロキョロと見回した。


 あたしは思考を言葉にしていないはずだ。

 通常ならば『たまたま会話を拾って、それが丁度思考に合う内容だった』と思うのだが、なんだか違う気がした。


 まさか……? いや、違うか。


 一瞬、リヒトが近くに居るかと思ったが、立ち去る買い物客がちらほら見えるだけで、彼の姿はない。

 否、そもそも、お姉ちゃんとか言わないから違う。


 あたしは首を捻った。


「うーん、やっぱ気のせいか」


 そもそも立ち止まって談話している人がいない。

 立ち止まるあたしを数人が行き交ったが、適度な速度で通りすぎており、会話をしている者はいない。


 また歩きだそうとして、ふと視線を感じてそちらへ目を向ける。

 年端もいかない子供が一人、2メートル先に立ってあたしを見ていた。


 10代にも満たない年齢。焦げ色の髪の毛に焦げ色の瞳を持ち、右顔全体に青い痣がある。継ぎ接ぎだらけのブカブカで暖かそうなセーターに、長ズボンを履いているが、裸足だ。

 足が寒そうと思うよりも、痣に目が向いた。


 うん、あれは痣……だよな?

 デッカイ痣だなぁ。子供に苛められそうだ。気になるだろうけど強く生きろよ!


 心の中で少しだけ励ました。

 すると少年は目を見開いて、口をポカンと開けた。


「……僕を、励ましてくれた……、あ! 」


 ハッキリ聞こえる口調で言った後、少年ははっと気づき慌てて口を塞いだ。

 あたしは目つきを鋭くして少年を凝視する。


「あんた……」


 あたしは心で考えた言葉を声に出していない。それを何故少年が知り得たか。


 一つ思い当たる能力がある。

 確か、心を読めるサトリという能力だ。


「違います! 違います! 心読んでません! 僕はサトリじゃない!」


 子供は青い顔をしながらブンブン首を振り、カタカタと体が震え始める。


「いや、しっかり読んでる」


「!」


 断定すると、少年は冷や汗を浮かべながら首を左右にプルプル振っている。

 もうその態度で確定なんだよなぁ。

 呆れたように少年を眺め、あたしは頭をカリカリと掻いた。


 迂闊にも程がある。

 サトリ達は他人にバレないよう巧妙に隠している人が殆どだ。こんな風に自分から暴露するのは珍しい。

 更に、触れずに人の心を読むなんて、上位のサトリの力がありそうだなぁ。

 

 とはいえ、あたしも親父殿から聞いただけだから、詳しく知らないんだけど。


「ご、ごめ、ごめんなさい! 殺さないで!」


 ガタガタ震えていた少年が、大粒の冷や汗と涙目になって叫んだ。


「え? 殺す? しないぞ?」


「たすけてええええ!」


 否定した言葉を聞く前に、少年はダッと逃げ出した。


「誰かあああ! たすけてええええ!」


 「って、ちょっと!! 人聞きの悪い!」


 誰もいないから良いようなものの。


 しかし大通りで叫ばれて、在らぬ誤解を招くのも癪なので、少年の誤解を解こうと思って追いかける。


「あ」


 あたしはすぐに走るのをやめた。


 なんということでしょう。

 丁度いいタイミングで、買い物袋を持ったリヒトが曲がり角から現れた。


 あたしを警戒して後ろを向いて走っていた少年は、前方に気づかず、リヒトに全力でぶつかった。


「!?」

「ぎゃ!?」


 それを見て咄嗟に思う。


 ざまぁ。


「いたいっ!」


 弾き飛ばされた少年はコロンと地面に尻もちをついて転がる。

 一方のリヒトは体幹がしっかりしているのか、少しだけ腰を屈めて重心を下に移動させて踏ん張り、突然の突進に耐えた。


 チッ。尻もちつくかと期待したのに、ダメだったか。


 リヒトは少しぐらついたが、荷物を落すこともなくこけることもなく仁王立ちで、


「何だ? このガキ」


 と苛ついたように眉を潜めた。


「他所見て歩いてんじゃねぇ! 荷物が落ちるだろうが! 落ちたらどう落とし前つけるつりだ!」


 怒涛の文句を浴びせられ、少年は先ほどとは違う恐怖で引きつっている。


「ひ、あ、う」


 言葉すら発せられないほど硬直している少年が、少し可哀想になった。


「で?」


 リヒトがあたしに視線を向けた。居たことに気づいたらしい。


「お前の差し金か? 最悪だな」


 怒りの矛先をあたしに向け、噛みついてきた。


 どうしてそうなる。

 笑いたくなるほど心狭い。もっと広い心で対応してくれよ。

 逆に呆れて笑いそうになるのを堪え、あたしは肩を竦めた。


「そんな暇ない」


 リヒトがあたしの考えを表情から読み取ったのか、何かを言おうと口を開く。だがその前に、立ち上がった少年が半泣きになりながら、リヒトに深々とお辞儀をした。


「ご、ごめんなさい! 前をちゃんと見なかったからぶつかっただけです!」


 目を吊り上げたリヒトが少年に視線を戻したので、少年はまた恐怖で体を硬直させ


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 声を震わせながら同じ言葉を何度も繰り返した。

 うん、滅茶苦茶少年が可哀想になってきた。


 あたしは苦笑いを浮かべてリヒトに話しかける。


「あんたが怖い顔で睨むから、必要以上に謝ってるじゃないか」


「しらねぇ」


 全然許す気配ない。

 こんなに謝っているのに許さないなんて鬼畜かよ。リヒトは怒ると平気で人の心折る暴言連発するからなぁ。

 気乗りしないが、少年を手助けするか。


 あたしは「はぁ」とため息をついた。


「もう」

「こ、こここ、このお兄ちゃん鬼畜なの!? ひひひ酷い人なの!?」


 少年があたしの言葉を遮った。


「……!」


 ハタッとリヒトの顔色が変わる。


「ねぇ! おねえちゃん! 僕を助けてくれるの!? さっきはごめんなさい! 助けて!」


 少年はあたしの所へパタパタと走ってくる。

 うん、少年はやっぱりサトリだな。

 そして、自分の都合の良いほうへコロッと流れる性格のようだ。この少年、大丈夫かな。


「!?」


 あたしの考えを読んだのか、少年が途中でピタリと足を止め、怯えた様子でこっちを見た。そして何かの選択を選ぼうとしたのかリヒトに振り返ると、少年は彼の表情が変わったのに気づき。

 

「?……………!!」


 少し考えて、じわじわと冷や汗を浮かべながら口をゆっくりと押えた。

 どうやら、同じ轍を二度踏んだことに気づいたようだ。


 口を押えながら前後どっちにも行かず、ゆっくりと後退する。キョロキョロと逃げ道を探すが、両脇にあたしとリヒトで。後退した少年の背に壁が当たった。


 まさに前門の虎、後門の狼。もしくは四面楚歌な状況。

 見事に自分を追い込んだ。

 

 少年は涙目になりながら「あうあ。あうぁ」と言葉にならない声をあげ、壁にへばりつくように両手を壁に引っ付けた。


 ツカツカと足音を立てて、リヒトは少年の正面に立ち、ドスを効かせた声で少年を詰問する。


「お前……。心が読めるのか?」


「!」


 更に怯える少年は金魚のように口をパクパクさせていた。呼吸困難を起こしているようにみえる。

 うーん。これはリヒトを止めた方がよさそうだな。


次回更新は一週間から二週間以内を予定しています。

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