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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――勇者信者の王国――
72/279

小さなハプニング⑤ ???視点有り

物語の都合上(というかページ変更できなくって)

某人物の視点が最後にあります。

 

 これはもう穏便に、地面に頭をめり込ませるしかない。

 正当防衛だ。青年の腕を折りながら投げて、地面に上半身埋めてやるか。


 冷たく笑いながら実行しようとした次の瞬間


「危ない!」

「ぎえっっ」


 横から結構な速度で蹴りが飛んできた。

 

 青年の顔面が風圧と蹴りの衝撃で歪み、2メートルほど吹っ飛んで、地面に砂煙をあげながら転がった。

よりによって、細かい石を敷き詰めた地面だったので、全身が大根おろしで擦られたような、痛々しい姿に変貌した。


 それでも見た目ほどダメージが少ないのか、四つん這いになりながら、あたしの方を見て睨んでいる。


「うう……うう……なに、すんだ、てめぇ……」


 否、あたしの横を見て睨んでいる。

 その視線を追って横を見ると


「あんたは……」


 朱色頭が辛うじて印象に残っている。

 二日前くらいに出会った少年だ。今日も皮の鎧を装備して、腰に長剣を携えている。


「あ、えっと、すいません」


 朱色頭は開口一番、あたしに謝った。


「咄嗟に、あの人の方を助けちゃった」


 確かに、あの動きはあたしを助けるというよりも、あたしのやろうとした攻撃から助けている行動だ。


 それは間違ってはいない。


 しかし今、そう聞くとあいつの仲間と思ってしまうので、一応確認しよう。


「あんたもあれの仲間?」


「いいえ。全然知らない人です」


 心外だと言わんばかりに首を左右に振る。


「本当は貴女を助けようと思ったんですが……、貴女から引きはがさないと、彼が大怪我をする気がしたので、咄嗟に回避をさせてしまって」


 良い勘している。

 結局、あいつの怪我は回避されていないが、あたしがやろうとしたことに比べれば、地面に擦り降ろされるなんて、些細な怪我に違いない。


 こっちは腰骨と首の骨折る気満々だったからな。

 剣であたしを攻撃しようとしていたのだ、五体満足で命があるだけ十二分にマシだろう。


「そっか。違うならいい」


 さて、あいつどう料理しよかな。って思ったところで、朱色頭がずいっと寄ってきた。


「そうだ。劇はどうでしたか? 見ましたか?」


 わくわくが止まらないという雰囲気で聞かれた。ドン引きだ。寄ってきた分、あたしは離れた。


「それ今聞く事? くっそつまらなかった」


「意見があいますね!」


 ぱぁぁぁと小さい花をポンポン飛ばして笑顔になる。


「どこら辺がつまらなかったですか? 僕は最初からです!」


「最初からダメ出しすんな!」


 ああああ、こいつと意気投合していると周りに思われるの凄く嫌だ。

 さっさと逃げよう。


 あたしは苦虫を潰したような皺い表情になって朱色頭を無視し、速足でその場を去ろうとした。


 まあ、予想通り、前回と同じく横についてきた。


「ついて来るな」


「どこへ行くんですか?」


「帰る」


「帰る? あ!」


 思いついたように表情を明るくする少年。


「僕が送りましょうか?」


「必要ない」


「でも絶対危ないですよ。今みたいに変な奴らに絡まれるかもしれません」


「あんたについてこられる方がよっぽど危ない」


 あたしは視線を合わせず前だけ見ながらザックリと断る。


「え……?」


 少年はちょっと立ち止まって、顔を真っ赤にした。


「いや! 僕は、送り狼だなんてそんなことしませんよ!」


 誰もそこまで言ってねぇ!


 眉間に怒りマークを浮かばせたあたしは、咄嗟にその辺で寝て居た猫を投げつけた。


「くらえ!」


「え!? ええ?! 猫ぉぉぉ!?」


 無機物だと回避されそうな気配がしたので、ここはあえて愛くるしい猫だ。


「にやああああああああああああ!」


 朱色頭は慌てながらも避けずに、絶叫する猫を優しく受け止めるが、突然の事で混乱して苛立った猫の爪の被害に遭う。効果は絶大だ。


「いたたたたた! ごめん猫ちゃん! いたたたたた」


 その隙に全速力で逃げ出す。

 追い付かれるとヤバイ。こいつヤバイ。

 またしても出遭ってしまうなんて、王都は案外狭いんだな。






 あたしは冷や汗とトリハダ全開で、兎に角、後ろを何度も確認して、気配がないか確認して慎重に宿に戻った。

 

 過去に変質者から追われている子を助けたことがあるが、彼女もこんな気持ちだったのだろう。

 確かに、涙ながらに助けを求める気分がよくわかる。


「ひええええ、ほんと気持ち悪いいいい」


 一度目は違和感だけだったが、二度目に会って理解した。

 あれは善意を貫くために悪意も辞さないし、正当な理由がなくても、自らを無理矢理正当化させて動き、相手にもそれを求める気質がある。

 あたしが苦手なタイプだ。


「うーん、上手くまけたと思うんだけど」


 あの朱色頭はなかなか強い。

 あたしよりは弱いかもしれないけど、それでも友人達よりは遥かに強いだろう。

 きっと、シュダルよりも強いはずだ。

 理由がない以上は喧嘩したくないし、そもそも関わり合いになりたくもない。


 頭痛が起こるのを感じながら、バタンと部屋のドアを閉めて、鍵を掛けてその場に座り込む。


「あー、やだやだ。人が多い分、トラブルポイントもあっちこっちにありやがる」


 ここに絶対住みたくないと強く思った。

 座ると少し落ちついてきてサムイボが収まったので、荷物整理をすることにした。


 憂さ晴らしに、夜になった酒場に行って噂を探しながらちょっと飲もうかな? とも思ったが


「いや。このパターンは酒場で何かに絡まれる。だ」


 結局、あたしはふて寝することにした。


 少し早い時間に就寝するが、布団で無意味にゴロゴロ出来る時間は貴重だ。


 久々の堕落を噛みしめながら、ふと今日の女性を思い出す。


 思い出すと不思議な感覚が浮かぶ。


「なんなんだ? あの使命感は……いとおしさは」


 縁も所縁もないのに、気になったから助けた。


 あたしにしてはとても珍しい事だ。


「そうだ、あと」


 ネックレスの石。あれに刻まれていた模様が記憶の片隅に引っかかった。

 どこかで見覚えがある。


「あのネックレスの水滴模様。以前リヒトが描いていた絵と似てた気がする」


 あたしの額に浮かんでいたというあの模様。


「呪印に関わりがある模様がペンダントに刻まれている? そんなばかな」


 これは偶然だろうか? 単なる似ているだけの別物だろうか?


 多分後者だろう。

 ペンダントの模様をずっと思い出していたら、急に心がモヤっとした。

 言いようのない不安と焦燥、そして恐怖。

 

 身の置き所がなくなりあたしは起き上がる。

 額に手を当てると、じんわり汗をかいていた。これは冷や汗だ。


「なんなの、もう……」


 明確な理由が見当たらないが、一瞬、何かに怯えたのだと思う。

 

 あたしは目をゆっくり瞑り、しばらく瞑想をして気分を落ち着かせてから、何か食べようと思い食堂へ向かった。





 客は少なく、あまり擦れ違うことなく一階に降りる。

 宿の出入り口からリヒトの姿があった。

 今、なんか調子悪いし、面倒だから無視して食堂へ向かう。

 

 夕食には早かったので人はまばらだ。適当な席に座りお勧めの定食を注文すると、五分もたたずにリヒトがやってきて、あたしを見つけると同じテーブルに着いた。


 くっそ。調子悪いから会いたくなかったのに


 深いため息を吐くと、リヒトは飲物を注文した。

 お互いに視線を合わさないまま、リヒトが話しかけてきた。


「資料漁って草臥れたか」


「その通りよ」


 あたしは頷く。

 疲れたのは本当の事だ。

 人酔いし後に、ごろつきに絡まれてる女性の加勢して代わりに絡まれたら、この前会った少年のキラキラ笑顔でメンタルガッツリ減らされてしまった。


 リヒトは呆れたように息を吐く。


「なんで疲れる。掲示板に貼ってあっただけだろうが」


「なんで知ってんのよ」


「前回役所に行ったからな。掲示板は大掛かりな噂しかなかったはずだ。それ疲れるなんでどうかしてる」


「この野郎」


 反射的に毒づくが、あたしはすぐに「はぁ」とため息を吐いて脱力する。

 今日は口喧嘩する元気が残っていない。














==???視点==



「あー。行ってしまった」


 ゴロゴロ喉を鳴らす猫を抱えながら、少年は少し名残惜しそうにミロノの去った後を眺めていた。


「まさかこんな愛くるしい猫を投げてくるなんて、容赦しない人ですねぇ」


 猫のモフモフの虜になりながら、その視線は青年たちに注がれている。


「おい、こいつが」

「なんだと」


 狙っていた女性を逃がした青年たちが戻ってきて、地面で擦り傷だらけになった青年を助け起こす。

 簡単に事情を聞いた彼らは、少年を取り囲んで難癖つけ始めた。


「てめぇ、よくも蹴りやがったな!」


 顔と腕から流血している青年が怒鳴ると、猫が吃驚して「シャァ!」と威嚇する。


「ああ、よしよし。ほら、ごめんね。お行き」


 少年は猫の頭をもう一度撫でて地面に放すと、猫はダーッとその場から逃げていった。

 苛立った彼等に蹴られなくてよかったと安堵する少年に、青年たちは代わる代わる威嚇しながら怒鳴る。


「なんだこいつ」

「ガキの癖に良い装備しやがって!?」

「こいつの怪我はてめぇの仕業か!」

「どうしてくれんだこの怪我よぉ!」


「知りません」


 少年は鞘を付けたままの剣を握り振った。

 青年たちの視界には認識されていないので、無防備のまま攻撃を受ける。


 パァン!


 乾いた音がしたかと思うと、青年たちは白目を向いて地面に倒れた。


「全く、無粋な人達」


 足先で小突いて意識がないこと確認してから、剣を腰に携える。


「やれやれ、長の言う通りだ。この町も年々治安が悪くなってるんですね。凶悪なる魔王が現れないからまだいいけど」


 肩をすくめながら少年もその場を後にした。

 まばらに居た見物人もいつの間にか消えていて、残されたのは白目を向いている青年たちだけだった。



次回更新は一週間から二週間以内です。

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