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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――勇者信者の王国――
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小さなハプニング③

 朝はすっきりした気分で目を覚ました。軽く体操をして手入れを行った後に、貴重品をポーチに入れて部屋を後にする。

 今日の予定は換金と災いの噂だ。

 目立つので腰の刀は置いてきた。代わりに短刀とナイフを多めに装備しておく。

 あ、そうだ。懐が肥えたので服や下着も新調しよう。


 早朝、まだお店の準備をする人達が出入りしている中、散歩もかねてのんびり歩く。道は地図で確認したし、役所の建物が見えるのでそっちへ向かって歩けばいい。


「ここだな」


 あたしは建物を見上げる。城を囲う防御壁が間近にあり、その脇に役所の名が刻まれた塔があった。


「高い……大きい……」


 遠くから見えるので大きいだろうと思っているが、こう見上げると空へ続きそうと錯覚する。

 10階はありそうな気がする、うわぁ、らせん階段多そうだなぁ。

 鉄で出来た広いドアを開けると、既に業務を行っていたようで、人が大勢行き来していた。

 内装は石をくみ上げて出来ているようで、花や鳥や勇者などの装飾が壁に彫られている。艶々に磨かれた大理石の床が滑りそうだ。


 受付と待合室があり、待合室は四つぐらい目隠しの壁で区切られている。中を覗くとソファーと椅子とテーブルがある。そこで書類を書いていたり、飲物を飲んでいる人がいた。


 そして等間隔で並ぶ受付のカウンターに並ぶ、人。人。人。人。

 うん、帰りたい。 

 思わず回れ右しそうになったが、思いとどまる。


「目的がある、忘れるな」


 自身を奮起させて、とりあえず並んでいる人が少ない列に並んでみる。

 30分ほど立っていたら順番が回ってきた。


「はい、ご用件をどうぞ」


「旅をしている者だけど。この町や周囲の治安を知りたいの。最近大きな事件とか災いとか、気を付けないといけないことを知りたい」


「それについては資料や掲示板を調べたほうが早いと思われます。場所は三階の資料室、現在の注意勧告の記載がされているのは四階の安全推奨室です。どちらも自由に閲覧できます。尚、閲覧時間は五時までとなっております。施設内の地図はこちらです。資料室、もしくは安全推奨室でご不明な点がございましたら、中に担当の者がおりますのでそこで質問して頂くとスムーズかと思われます」


「分かりました」


 すごく丁寧に対応されて役所内地図もくれた。

 礼を言うと、受付の人は素っ気なく会釈をして、「はい。では次の方」と次を呼んだ。忙しいそうだなぁ。





 地図を見ながら階段を上がり、資料室へ向かった。

 それっぽい場所に到着する。


「ここかな?」


 資料室と書かれているプレートを確認して、観音開きの重そうなドアを開ける。

 ここも人の出入りは多いが、極力小声で話していてとても静かだったし、湿度温度とも丁度良い空間で、居心地がいいなと思った。


「おはようございます」


 入り口のすぐ横に小さなカウンターがあり、係りの人が大きめの机で作業をしていたので、声をかけた。


「あ! おはようございます。どうしましたか?」


「閲覧方法を知りたい。最近の災いの噂に関したモノがあれば読みたい」


「はい。ええと、それでしたら、この三番目の棚の列になります。入り口から新しく、奥に向かうほど古いです。現在発生してる災いならば、そちらの掲示板に貼ってますので、旅人さんならそちらの方を確認した方がいいですよ」


「わかった。ありがとう」


「いえ。また分からない事がありましたら、声をかけて下さい」


 丁寧に会釈された。ここの住人は結構親切なんだな。

 あたしは礼を言って掲示板に近づく。


 縦3メートル、横5メートルほどの大きな掲示板だ。そこに地域ごとに区分けされ、日付順に紙が貼られている。流し読みをする。


「あ。ストライト湖のやっぱり災いとして書かれてる。鎮静化で解決済みか」


 更に読んでいくが、あたしが関わった事件で災いとして書かれているのは、ストライト湖の一件のみだった。

 小さい村や町の事件は載らないかもしれないなぁ。


「それにしても、各エリアで沢山発生しているんだなぁ」


 一年ほど発生しているモノがあるぞ。

 フィオヴィエリアに『赤い霧』。

 ルリーリビルエリアに『肉を求めて彷徨う魂』。

 アコーナエリア『劫火の海』だ。


 「あ、でも解決済みってのもあるなぁ」


 ゼラハートエリア『愛しき者を誘う光』、ゼナハエリア『狂った音色を奏でるオルルとゴール』は冒険者により解決済みと書かれていた。二か月くらい前だ。

 掲示板を眺めていると、どのエリアも災いが発生して、消滅している。


 そんな中、あたしは一つのエリアに目を留めた。

 ここだけ災いの情報がない。ただ大きく『立ち入り禁止区域あり、行く際には重々気をつけたし』と書かれていた。


「スートラータエリアには発生していないのか? いやならば何故、立ち入り禁止を?」


 不思議に思って、受付で作業している人に聞いた。

 手を止めて、またかという表情を浮かべる。


「ああ、それは。私にも分からないんだよ。ちょっと前に此処に派遣されたばかりだからね。引き継ぎで聞いた話によると、時期が来たら情報が公開されるから、それまで更新が一切されないらしいよ。エリアに入るときに説明されるらしいけど」


「そうか」


 イマイチ的を得ない話だった。


「とりあえず、町や村の名前をよく調べて、災いを避けてね」


「わかった」


 あたしはまた掲示板に戻る。

 これは被害が大きいから伝わった情報だな。

 小さくて被害が少なくモノや、誰も気づいてないけど災いが発生しているモノなんかはカウントされていないみたいだ。

 そう考えると掲示板の情報は当てにならない。読んでも無駄な気さえするので、適当に切り上げた。


 折角だから、まだ歩いたことのない道で帰ろう。

 王都は広いのであちこちに商店街がある。一日で到着しない場所も含めたら、相当な数がありそうだ。

 宿に戻る道にある商店街は二つ。一つは通ったので、今日は別の商店街を通って帰ることにした。

 そしてこの選択が、あたしに後悔をもたらすことになる。





 前もって説明したが、シュタットヴァーサーは広大な領地を持った国と名乗る街だ。

 住居は城の周りに集中し、10の区画に分けて城下町を作っている。その一つ一つが、通常の町が5個入るくらいの規模だ。

 住人も半端なく多いが、旅行者、冒険者、商人など定住ではない者も含めると、途方もない人数になる。


 ってことで、どこを歩いても人、人、人。イモ洗いみたいな人の波に揉まれている。

 人に当たらないようにかわしながら歩いているが、段々と眩暈が起こってきた。


「う………酔った」


 下着売り場を求めて彷徨ってたら、うっかり人酔いしてしまった。


 場所も分からなくなってきたので、仕方なく通りすがりの住民に聞いて、安くて丈夫な品が置いてあるお店を教えてもらった。

 でも迷子になると思われたのか、店まで案内してもらった。

 凄い親切! そう、疲れていたので無駄に感動して、お礼を言って中に入る。


 購入出来たので、近場のベンチに座ってジュースを飲みながら休んでいる。

 修行とは違った、とてつもない疲労感だ。まさか街を歩くだけで、こんなに疲れる日がくるとは思わなかった。


「はぁ、なんか故郷が恋しくなってきた」


 単に静かなところで休みたいと思ったら、口から出た言葉がこれだった。


「って、別に恋しくないし!」


 ノリツッコミして立ち上がる。

 もう宿に帰って休もう。


 人酔いに懲りたので、今度は商店街の裏道を通った。お店の裏口が集まったような小道だ。品物を入れたり出したり、ゴミを置いたり出したりする下道みたいな感じだ。

 

 人の流れはあるが、一般の町の商店街ほどで動きやすい。

 飲食をしている人や談話をしている人が多くいる、和やかな雰囲気だ。

 今度からこっちを通ろう。


 公園を通り抜け、木々と池を眺め、家族連れやらお年寄りを見つめる。カフェ的なお店や、定食のような店もあった。地元民が慣れ親しんでいる雰囲気がする。


「もしかして、こっちが住民の活用する場所なのか?」


 大通りは旅人や冒険者などの御用達な店が多い。

 ということは、一般の住民はこっちの裏道の店を使っているかもしれない。


 気になったお店を何件か覗いてみて確信した。

 ここら辺の方がリーズナブル価格だ! 間違いない。こっちが住民の利用する店だ。あたしもこっちを利用しよう。


「よしよし、お店見て回ろうっと」


 道なりに歩いていると、また公園に出た。小さな噴水が花壇に囲まれ、芝生の上にベンチが数個置いてある。所々で休憩できるスペースがあることに感心していると、どこからか喧騒の音が聞こえてきた。


「返して!」

「嫌だね」


 数人、男女の言い合いのようだ。

 音の方を向くと、噴水の近くで鉄の鎧や皮の鎧を着たガラの悪そうな五人の青年が、女性を取り囲んでいる。


「返して! それは大事なモノなの!」


 年齢は30代くらいかな?

 身長はあたしよりも低め。胸もやや平、寸胴ではなく幼さが目立つ女性だ。ストロベリーブロンドのポニーテール、絹の黄色いロングスカートを履いており、小さくジャンプするたびに揺れた。

 垂れ目のストロベリーブロンドが印象的だ。

 憤怒の表情になっているが、笑えば可愛いと思う。


「言いがかりよしてほしいなぁ、これは俺のだぜ」


「それは私のネックレスよ! 返しなさい!」


「おばさんよぉ。それがあんたのネックレスって言う証拠はあるのか?」


「くっっ! この! 後悔するわよ!」


「どう後悔するんだか、知りたいねぇ!」


 青年たちが女性の私物だろうネックレスを高々と振り上げている。


「返しなさい! このスリめ!」


 女性が両手を伸ばしても届かないほどの身長差があり、手に握っているそれを持つ青年がニヤニヤした表情で見下ろしていた。


「なら、いくらで買う?」


「自分の所持品を返してもらうのに、どうしてお金を払うのよ! 寧ろ迷惑料を請求するわ!」


「生意気! 金払うまでこれは俺のモノだ。ほらパース!」

「オーライ!」


「ちょっとーー!」


「別のとこで売っちまおうぜー!」


「やめて!」


 青年が適当な場所に投げると、別の青年がキャッチ。女性が駆け寄ってくるとまた別の青年にパスをしてそれを繰り返しているようだ。

 投げているのはネックレスっぽいな。


 どっちが悪いか一見して分からないので、関わらない方が良いだろう。

 無視して通り過ぎるべきだ。

 そう、思っているのだが…………。


 何故か、あの女性から目が離せない。

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