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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――勇者信者の王国――
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小さなハプニング③


 特に何かが追ってくる気配もなく、無事に宿に戻ったあたしは、空腹を感じたので先に食堂で晩御飯を食べることにした。

 本日の夜の部日替わり定食。メインは鳥のワイン煮。温めてあるふわふわなバターパンに、ジャムが二つ。サラダと豆のスープ。デザートに果物ケーキ。

 これだけついて手ごろなお値段。あと結構美味しい。

 肉の甘味とパンのふわふわ感最高。豆のスープも丁度良い塩加減。ケーキはほんのり甘めの大人味。

 

 ふふふ。満足。

 この宿。凄く料理が美味しいから、毎日食べても飽きない。

 また旅に出るから舌を肥やしてはいけないんだが、この味、他の村や町では絶対に味わえないので、ついつい沢山食べてしまう。


 腹も心も満たされたので、自室に戻って入浴を終え、ベットでのんびりしていたら、突然ノックされた。

 返事をする前にふわり風が吹いて、いきなりドアの鍵が開いた。


 ちょっと、鍵が役目放棄してんだけど。

 っていうか、こいつその気になればいつでも不法侵入し放題か。恐いやつだ。


「入るぞ」


 一声かけてドアを開け、堂々と中に入ってきたリヒトをみて、あたしは呆れたように肩をすくめる。


「無作法ね。一応あたしは女子なんだけど?」


「女子って誰だよ。ノックはしただろ?」


「勝手に鍵開けんな。防犯の意味がない」


 ドアを閉めたリヒトはズカズカと近寄ってきて宝石袋をあたしに投げる。受け取ると、ジャラッと小石が動いたような音が手の中から聞こえた。


「ほら、半分預かったから返す」


「そりゃどーも。金貨の両替は明日やる」


「分かった。じゃぁな」


 用事を済ませると、さっさと帰ってしまった。

 あたしはベッドに座って見送り、その後に鍵を掛けた。手に持つ宝石がジャラジャラ音を立てるので何気なくそれを見る。片手で持てる幅と軽さだが、大型金貨2枚分の価値がある。


 とりあえず当面の生活費は全く心配しなくて良くなったし、どちらかといえば贅沢が出来る感じになった。


「別に、明日でもよかったんだけど」


 大金を持ちたくなったのか。預かり物だったからさっさと渡したかったのか。


「律儀というか、変にくそ真面目だなぁ」


 皮巾着を開くと輝く宝石がゴロゴロあった。

 一つ取って光に透かしてみる。


「うん、綺麗だ」


 みんな凄く羨ましがるだろうなぁと、友人達を思い出しながら失笑する。

 半年以上経ったし、あたしが里にいないことをそろそろ不審がる頃だろう。何事もなければいいのだが……。


 ツイリ、元気かなぁ。


 一番の親友を思い浮かべた瞬間、悪寒がした。振りほどくように顔を左右に振る。

 いや、彼女が一番怖い。会った時にどう説明するか考えとかなきゃ。

 その夜はなんだか悪夢を見た気がする。




 朝はすっきりした気分で目を覚ました。軽く体操をして手入れを行った後に、貴重品をポーチに入れて部屋を後にする。

 今日の予定は換金と災いの噂だ。

 目立つので腰の刀は置いてきた。代わりに短刀とナイフを多めに装備しておく。

 あ、そうだ。懐が肥えたので服や下着も新調しよう。


 早朝、まだお店の準備をする人達が出入りしている中、散歩もかねてのんびり歩く。道は地図で確認したし、役所の建物が見えるのでそっちへ向かって歩けばいい。


「ここだな」


 あたしは建物を見上げる。城を囲う防御壁が間近にあり、その脇に役所の名が刻まれた塔があった。


「高い……大きい……」


 遠くから見えるので大きいだろうと思っているが、こう見上げると空へ続きそうと錯覚する。

 10階はありそうな気がする、うわぁ、らせん階段多そうだなぁ。

 鉄で出来た広いドアを開けると、既に業務を行っていたようで、人が大勢行き来していた。

 内装は石をくみ上げて出来ているようで、花や鳥や勇者などの装飾が壁に彫られている。艶々に磨かれた大理石の床が滑りそうだ。


 受付と待合室があり、待合室は四つぐらい目隠しの壁で区切られている。中を覗くとソファーと椅子とテーブルがある。そこで書類を書いていたり、飲物を飲んでいる人がいた。


 そして等間隔で並ぶ受付のカウンターに並ぶ、人。人。人。人。

 うん、帰りたい。 

 思わず回れ右しそうになったが、思いとどまる。


「目的がある、忘れるな」


 自身を奮起させて、とりあえず並んでいる人が少ない列に並んでみる。

 軽く30分ほど立っていたら順番が回ってきた。


「はい、ご用件をどうぞ」


「旅をしている者だけど。この町や周囲の治安を知りたいの。最近大きな事件とか災いとか、気を付けないといけないことを知りたい」


「それについては資料や掲示板を調べたほうが早いと思われます。場所は三階の資料室、現在の注意勧告の記載がされているのは四階の安全推奨室です。どちらも自由に閲覧できます。尚、閲覧時間は五時までとなっております。施設内の地図はこちらです。資料室、もしくは安全推奨室でご不明な点がございましたら、中に担当の者がおりますのでそこで質問して頂くとスムーズかと思われます」


「分かりました」


 すごく丁寧に対応されて役所内地図もくれた。

 礼を言うと、受付の人は素っ気なく会釈をして、


「はい。では次の方」


 直ぐに次を呼んだ。

 忙しいなぁと少しだけ憐れみの目を向けてしまった。



 地図を見ながら階段を上がり、資料室へ向かった。


「ここかな?」


 それっぽい場所に到着する。

 資料室と書かれているプレートを確認して、観音開きの重そうなドアを開ける。

 ここも人の出入りは多いが、極力小声で話していてとても静かだったし、湿度温度とも丁度良い空間で、居心地がいいなと思った。


「おはようございます」


 入り口のすぐ横に小さなカウンターがあり、係りの人が大きめの机で作業をしていたので、声をかけた。


「あ! おはようございます。どうしましたか?」


「閲覧方法を知りたい。特に最近の災いの噂に関して」


「はい。ええと、それでしたら、この三番目の棚の列になります。入り口から新しく、奥に向かうほど古いです。現在発生してる災いならば、そちらの掲示板に貼ってますので、旅人さんならそちらの方を確認した方がいいですよ」


「わかった。ありがとう」


「いえ。また分からない事がありましたら、声をかけて下さい」


 丁寧に会釈された。

 ここの住人は結構親切なんだな。


 あたしは礼を言って掲示板に近づく。

 縦3メートル、横5メートルほどの大きな掲示板だ。そこに地域ごとに区分けされ、日付順に紙が貼られている。ザッと流し読みをする。


「あ。ストライト湖のやっぱり災いとして書かれてる。鎮静化で解決済みか」


 更に読んでいくが、あたしが関わった事件で災いとして書かれているのは、ストライト湖の一件のみだった。

 小さい村や町の事件は載らないかもしれないなぁ。


「それにしても、各エリアで沢山発生しているんだなぁ」


 一年ほど発生しているモノもある。

 フィオヴィエリアに『赤い霧』。ルリーリビルエリアに『肉を求めて彷徨う魂』、アコーナエリア『劫火の海』だ。


「あ、でも解決済みってのもあるなぁ」


 ゼラハートエリア『愛しき者を誘う光』、ゼナハエリア『狂った音色を奏でるオルルとゴール』は冒険者により解決済み。と書かれていた。二か月くらい前だな。

 掲示板を眺めていると、どのエリアも災いが発生して、消滅している。

 そんな中、あたしは一つのエリアに目を留めた。

 ここだけ災いの情報がない。ただ大きく『立ち入り禁止区域あり、行く際には重々気をつけたし』と書かれていた。


「スートラータエリアには発生していないのか? いやならば何故、立ち入り禁止を?」


 不思議に思って、受付で作業している人に聞いた。手を止めて、またかという表情を浮かべる。


「ああ、それは。私にも分からないんだよ。ちょっと前に此処に派遣されたばかりだからね。引き継ぎで聞いた話によると、時期が来たら情報が公開されるから、それまで更新が一切されないらしいよ。エリアに入るときに説明されるらしいけど」


「そうか」


 イマイチ的を得ない話だった。


「とりあえず、町や村の名前をよく調べて、災いを避けてね」


「わかった」


 あたしはまた掲示板に戻る。

 これは誰かが伝えた情報だが全部じゃない。被害が大きいから伝わった情報だ。

 小さくて、被害も少なくて、もしかしたら誰も気づかないけども、災いが発生しているかもしれない。

 そう考えると、掲示板の情報は当てにならないな。と一蹴するしかなかった。



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