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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――勇者信者の王国――
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小さなハプニング②


 宝石の購入は無事に終了した。 

 小型金貨で換金できる宝石を十数個にして、大型銀貨で換金できる宝石をメインにした。売却も時期に左右されない宝石を中心に選んだらしく、価格の変動はないらしい。

 とか言われても、どれがどれか分からないけど。

 あとは金貨数枚を銅貨や銀貨に両替すればいい。貨幣両替店もあるから、これはまた明日にしよう。

 

「とはいえ、これなぁ……」

 

 あたしは懐にある指輪を服の上から叩く。邪魔なので指につけない。


「買う必要あったのか?」


 交渉の末、金貨15枚で購入した。交渉の参考になったと言えば嘘ではないが、真似は出来ない。言葉巧みにと綺麗に言えばいいのだが、どちらかといえば、商品の粗で値を下げた感じだったからだ。


「買う空気にしたのはどこのどいつだ」


「いや、断ってくれよ」


 とはいえ、聖光石の指輪は小さいけどもそれなりに価値がある。いざって時の交渉の一つにすればいいか。金銭目的じゃない別の目的で使うことになるかもしれないし。

 色々な言い訳や理由を浮かべて、あたしは購入を納得した。


「でもまぁ、あって困るものではないから、安く手に入ったのは嬉しい」


 リヒトが変な顔をして、すぐに表情を消した。


「お前の言葉は支離滅裂」


「黙れ」


 あたし達は宝石店を出てそのまま宿へ戻っていた。宝石店でのやり取りは思った以上に時間がかかってしまい、もう黄昏時を過ぎている。

 何故これほどまでに時間がかかったか、理由は明白だ。


 購入した後で始まった男性の質問事項が多かった。誰に仕えているのかとか、主はどんな仕事をしてるのかとか、どこに住んでいるのかとか。

 根掘り葉掘り情報を出させようとしていたが、リヒトが全て一蹴。取りつく隙も与えなかった。

 どうやら男性はあたし達の架空の主人が上客だと判断し、これを期にもっと親しくなろうとしていたようだ。無駄な努力なので逆に申し訳なかった。


 リヒトの塩対応に少しだけ可哀想と思ってしまったが、あれぐらいが丁度いいのかもしれない。下手に期待させてもよくないから。

 あたしにも話しかけてきたが「彼の護衛です」と答えたら、それ以降話しかけられずに済んだ。

 あたしは喋れない。絶対にボロがでるから。全部リヒトに丸投げした。

 

 トラブルなく終わったが、なんだかドッと疲れた

。交渉って疲れるもんなんだなぁ。暗くなる前に宿に戻って休みたい。


「………………」


 そう思っているんだがなぁ。


 ひたひたと多人数の足音が一定間隔から離れない。こちらの速度を落としても早めても、ずっと後を追っている。


「んー。やっぱりついて来てる」


 宝石店を出たあたりから、不穏な空気をまとう誰が後ろからずっとついて来て、距離を適度にあけてこちらの動向を監視している。


「知らない顔だ」


 あたしは人混みが多い時に曲がり角でチラッと数人の顔を確認したが、店に居た客ではない。住民にしては屈強な出で立ちで、装備も整っているから、旅人か冒険者だろう。


「冒険者……? この場合は盗賊だ」


 リヒトが呆れた様に呟いた。

 彼も途中で宿の方向に向かうのを止めて、人混みの多い商店街を中心に適当に歩き、様子を伺っている。


「盗賊かぁ。こんな場所でも出るんだなぁ」


 呆れながら相槌を打つと、リヒトは鼻で笑う。


「宝石店から出てきた冒険者風な人間は、何か金を持っているに違いないっていう、定番のアレだ」


「ああ。住民だとトラブルになってしまって刑務所送りになるけど、冒険者若しくは旅人なら、うやむやに出来るからやっちゃえーとっちゃえー的なやつか」


 「そう、それ」と言って、リヒトは肩をすくめた。


「奴ら間違いなく常習犯だ。俺達の服装は商人じゃない上に、子供だから目を付けられたんだろうよ」


 商人なら即座に犯人探しを依頼するので、後で自警団……、ここでは兵士捕まって刑罰を受けることになる。

 旅人や冒険者なら全財産の可能性があり、尚且つ他所の人間だと兵士が真剣に動くこともなく、そのまま泣き寝入りするパターンが多いそうだ。


「ふーむ。あたし達子供だから、尚更獲物に見えたのかー」


「間違いなく見た目の判断だ。弱いから勝てると踏んだんだろう」


「あたしの服装、ちゃんと見えてるのかな?」


 打刀は外しているが、モノノフのフル装備なんだけどなぁ。

 もしやこの辺は、これを装備している人少ないのか? じゃあ、同郷の人達はどんな服で動いているんだろう?


「さぁな。服なんて二の次、良いカモに見えたんだろう。ハッ、馬鹿な奴ら」


 リヒトは面白くもなさそうに、寧ろ手間だと言わんばかりに失笑する。

 その気持ちわかる。人気がなくなったら襲ってくるだろうし、倒したら仕返しだとまたやってくるだろうし、宿がわかれば寝こみを襲ってくる。こーいう輩を相手するのが一番面倒だ。

 

 なので、さっさと片づけてくるか。

 当分ベッドから動けない程度なら問題あるまい。


 あたしはリヒトに呼びかける。


「絞めてくる」


「殺すなよ」


「そんなヘマしない」


 あたしは身を翻して壁を走って登り、民家の屋根上に立つ。

 空から暗闇が降りてきて、光輝石の明かりが町を彩りだした。姿を隠すにはうってつけだ。もうすぐあっちも襲ってくるだろう。


「さてと」


 不穏な気配を探す。

 あたし達と同じルートを辿りつつ、少し遅れて男性と女性が計7名歩いてくるのが感知出来た。すでに刃物や棒など武器を携えて、いつでも攻撃できるスタイルで歩いている。


 それを目撃した住民たちは、怯えてすぐに家の中に籠ったり、反対方向に逃げたりしているが、彼らはそれに目もくれていない。


 ふーむ。気配を殺して歩いているつもりみたいだな。全然消えてないけど。とりあえず殺気は感じられない。適当に痛めつけて奪うっていう軽いノリのようだ。

 迷惑だが、殺意のない相手に殺意をぶつける気はない。適度に動けないレベルで痛めつけよう。


 トットット。


 屋根の上を移動しながら、あたしは目視で敵を確認する。間違っていないか人数を確認しつつ、最後尾の人間の後ろに回った。


 さぁて、あたしの獲物は何にしようかな。

 ナイフとかどうだろう。当て身だから鞘は付けたままで……。打ち所が悪いと即死させてしまうか。

よし、単純に拳で殴ろう。


 あたしの小手は超接近戦に対応できるよう、硬いナックルがついている。普通に殴ったら岩壁にヒビが入る強度だ。これなら最悪でも骨折程度で済む。


 音もさせずに地面に着地する。

 そのまま最後尾を歩いていた冒険者と距離を縮めていき、


「!?」

「うぐ!」


 背後から一人、二人と頭部を殴り地面に昏倒させた。彼らが地面に倒れる前に駆け出し、曲がり角の向こう側に消えていく一人に狙いを絞る。

 一気に間合いを詰め、


「?」


 気配を感じたのか、振り返りそうな動作をしたので、ジャンプして落下する勢いを利用して頭頂部に踵落としを当てる。


「あぐ!」


 冒険者は白目を向きながら前方に転倒し、ピクリとも動かなくなった。


 カラン、カラン……カラン


 三人の持っていた武器が地面に落ちて音が鳴る。


 まぁ、固いモノだったり金属だったり、音は絶対に鳴るよなぁ。


 壁に貼り付いて角向こうの様子を伺うと、前を歩いていた冒険者がこちらに向かってきた。不思議そうな表情をしているので、不意打ちはバレていないみたい。


 あたしはまた屋根の上に戻る。

 走ってきた冒険者は角を曲がって、仲間が倒れているのに驚く。


「音がしたがどうし……って。おい! どうした?」


 冒険者が足元に倒れている仲間に向かって声を出し、肩を揺さぶる。反応がないが、生きているのを確認してホッとすると同時に、不可解そうに首を傾げた。


「一体何が……え!? あっちにも!?」


 視線をさらに向こうへ向けると、倒れている仲間二人を見つけ、冒険者は困惑した表情を浮かべ立ち尽くす。


「おい! 何があった? 誰かにやられたのか?」


 他に冒険者が戻ってきてないことを確認してから、駆け寄ろうとした冒険者の背後に音も立てず降り立ったあたしは、冒険者の後頭部に打撃を当てる。


「っっっぁ!」


 ドンっと弾かれたように前方へ軽く飛んでから、地面にダイブする。そのまま少し前面を擦ったようで砂煙が少量舞う。

 冒険者は白目をむき、口から涎を流して気を失っている。

 これで四人。残りはあと三人。

 もう一度屋根に登って現在地を確認する。


 おやおや。案外リヒトの近くにいるな。近くと言っても直線距離で五メートルってとこだけど。

 位置を確認したので無音で走る。

 三人は横一列で等間隔に空けて歩いているので、個別で襲撃できないだろう。

 連続攻撃でなんとかしようか。


 あたしは冒険者達の後ろに回り込み、一気に距離を詰めると、狙いを定めていた中央の冒険者の後頭部を殴る。


「ぐあ!」


 突然の悲鳴に両横の冒険者が驚いて中央へ振り返る。ので、左の冒険者の背後に回り込み、体当たりをくらわす。


「な!?」


 後ろからの激しい勢いに押されて、冒険者は両手を広げながらもう一人に抱き付くように倒れ込む。


「うわあ!」

「きゃあ!」


 巻き添えを食う形で右側の冒険者も倒れ込み、手で頭を押さえて呻いた。

 おや。これ幸い、目をギュッと瞑っている。

 あたしは転倒した二人の頭を殴った。


 ゴン! ゴン!


 良い衝撃が手を伝わる。

 二人の冒険者は白目を向いて昏倒した。再起不能まではいってないな。脳震盪止まりだ。


「これで全員かな?」


 周囲には不穏な気配はない。

 誰が襲ってきたか、自分たちの身に何が起こったか、分からないまま気絶させたはずだ。

 これで多分、報復にきたぜ! って、面倒なイベントは起こらないとおもう。

 もしかしたら目撃者がチクるかもしれないが、荒事に積極的に関わるなんて、沿うそういないはずだ。


「さて、帰るか」


 念のため、あたしは別ルートを通って宿へ戻ることにした。



次回更新は一週間から二週間内を予定しています。

評価有難うございました!

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