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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――勇者信者の王国――
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小さなハプニング①

<なんだ。何かが気になる……>


 王都は区域ごとに飲食店街があり、メイン料理の種類も沢山あるので、どの店にしようか決めかねる。

 劇場近くの手ごろな価格の定食店へ入り、人気日替わり定食を注文して胃袋に収めてから、宝石店へ足を延ばした。


 とりあえず大型金貨を宝石へ換金しなければならない。

 これは特殊金貨なので通常の町や村では使えない。仮に使ってもお釣りが足りない。誰かの……もしくは村の財政を破綻させるだけだ。


「ふーむ」


 城のすぐ下にある商店街を進む。それなりに身分のある人間が多く通るのか、入り口の兵士にギロっと睨まれた。王都の中でも警備が厳しいところのようだが、通るだけならば問題ないようだ。何かあった時は即座に捕えられるっていうくらいだろう。


 空いていて歩きやすい道筋に並ぶ店頭は、控えめながら立派な装飾が施され、高級感と重厚感があった。

 王族御用達、名だたる商人の買い付け場所、領主御用達の店、とか書かれている看板がちらほら見える。ここは由緒ある店ですよ! と全力でアピール。


 この場所だけでも宝石店は十数件あった。

 全ての店の前を通ってから、近くのベンチで足を止めてリヒトは少し考えている。

 あたしは座らずに彼の二メートル横から声をかける。


「入る店を考えているのか?」


「ああ。良さそうな店を選んでいる」


 数秒後、「よし」と小さく声を出して、リヒトは立ち上がった。ついて行くと、ある宝石店の中に入る。


 キイイイィ


 広めのモダンな室内、壁と中央にガラスケースが並べられていて、その中に飾られた数々の宝石がある。宝石の輝きを強調させるため、輝光石が室内中に設置されて眩しくて、思わず目を細める。


 客は二人。優雅なワンピースを着ている女性と、高そうなジャケットを着ている男性。それぞれに二人の店員が接客していた。入り口には私兵が二人。レジに一人。店内には合計九人いる。その全員が、あたし達が入ってくるのをチラッとみて、場違いな奴がきたという視線を向ける。

 あたし達は旅服だから、間違いなく場違いだ。


「いらっしゃいませ」


 レジから移動しつつ、丁寧に声をかけてきたのは、でっぷりと肥えた若い男性だ。

 30代くらいで高身長、横の肉厚っぷりとテカテカ肌で実際の身長より大きく見えた。

 髪油で整えられたオールバックで髪を整え、黒のタキシードを着込み、つやつやの靴を履いて、香水をふんわりつけている。

 全体的に清潔感があり、威厳と上品さと醸し出している男性だった。

 

 上品に見えるか否かは、体型じゃなく身なり次第だなぁと、純粋に感心して眺めていると、リヒトが動いた。


「宝石を拝見したい」


 淡々としたリヒトの呼びかけに、男性は一瞬、ほんの一瞬怪しんだ瞳を宿した。アイコンタクトで傍に居た私兵に合図して出入り口に移動させる。

 身なりと年齢のせいだろう、一瞬で物取りと疑われた。

 私兵が位置に付いた所を確認して、男性は再び柔和な笑顔を浮かべる。


「勿論です! 見るだけでしたら何も問題はありません。どのような物をお探しでしょうか?」


 表面上は丁寧な対応を崩さないが、目が笑っていない。あたし達の動きを逐一見逃さないようにしている。仮に強盗をしようものなら即座に捕えて突きだすだろう。


 うん、警戒心が強くていいな。


 リヒトは男性を見上げながら答える。


「主人の使いの者だ。町や村で貨幣を換金するため、宝石を購入したい。いくつか見繕ってほしい」


 なるほど。

 十代前半のあたし達が購入となると、要らない憶測が飛び交ってしまうし、下手をすれば金貨窃盗の疑いもかけられてしまう。

 『誰かに仕えていて、お使いできました』のように振る舞えば不自然ではない。

 躾の行き届いている従者を持つ主人はそれなりに高い地位、若しくは大金持ちという事が多いので、不用意に門前払いはしないだろう。 

 やましい事なんて何一つないからな。堂々としていればいい。


「さようでございましたか。当店をお選び有難うございます」


 あたし達の態度を見て、完全に信じてはいないが納得できたのか、男性の態度が少しだけ変わった。


「こちらへどうぞ」


 男性はカウンターの近くへ来るように呼びかけて、宝石のショーケースの上にメモやペン、手袋やピンセットや入れ物を置いた。ガラスケースが机代わりになった。


「ご予算はいかほどをお考えでしょうか?」 


「そうだな……」


 リヒトはこっちに視線を向けた。


 予算はそうだなぁ。最終的に手持ちは大型銀貨と小型銀貨と銅貨にしたいから……。


「はい」


 あたしは貨幣が入った小袋をリヒトに渡す。彼は中身を確認して取り出した。


「大型金貨4枚だ」


「大型銀貨4枚!?」


 男性は驚愕して顔色を変えた。


 いやほんと、完全に舐められてたなこれ。

 でも当然だから仕方ないけど。


 大型銀貨は領主や巨大なギルド、商店で取引される硬貨で、一般ではまず流通しない。これを持っているということは、かなりの私財を持っているってことだ。って、母殿が言ってた。

 大型金貨を数えながら、言ってたわ…………。

 あたしの家もそれなりに私財あったのかな? 出ていく方が大きいのは間違いないけど。


「4枚、ですか……」


 男性は目を見開きながら、リヒトと金貨を交互に見比べる。大慌てなのが手に取るように伝わってくる。リヒトも普通にポンっと出すから、そのギャップに戸惑ったのかもしれない。


「その金貨、見せて頂いて宜しいでしょうか?」


 リヒトは大型金貨を男性に渡す。

 男性はショーケースの内部に移動して、机の下に大型金貨を入れて数秒、何かを使って確認した後、内部から出てきた。

 恭しく両手でリヒトに大型金貨を返す。


「失礼しました。本物と確認出来ました」


 どうやら本物かどうか確認したようだ。偽物の大型銀貨だ! と言いだしたら、武器屋の主人を連れてくるけど。


 気分を害した様子もなく、リヒトは頷く。


「大変失礼しました。ご用件の方、詳しくお伺いします」


 男性は恐縮しながら微笑んだ。明らかに雰囲気と態度が変わった。窃盗の疑いは完全に晴れ、交渉モードになったようだ。

 笑顔を浮かべた男性とは真逆に、リヒトは無表情のまま話を続ける。


「村で換金できるレベルの宝石は取り扱っているか?」


「ご希望の宝石は何かありますか?」


「ルビー、エメラルド、カメレオンジェム、パールあたりを。希少価値が低く売買しやすい方が良いとのことだ」


「畏まりました」


 男性は近くに居た女性の店員に何かを伝えると、あたし達を奥へ行くように促した。ついて行くと応接室に通される。テーブル一つ、対面ソファー。壁に絵画やツボなど装飾品が置かれている。カーペットもふかふかだ。


「時間がかかりますので、こちらで御待ちください」


「分かった」


 高級感漂うこの場所で待つように言われ、男性はさらに奥へと向かった。


「お飲み物をお持ちします。お掛けになってお待ちください」


 入れ替わるように女性店員が声をかけ、ソファーに座るように促す。

 軽い会釈をしてソファーに座ると、高級なティーカップが目の前に置かれ、香りの良い紅茶が注がれた。更にクッキーまで出された。


 おもてなしされた!


 ちょっとだけ紅茶に口を付けると、紅茶の香りが口いっぱいに広がり、至福を感じる。


 紅茶美味しい!


 表情こそ硬くしているが、あたしは内心大喜びで出されたおやつを食べる。

 リヒトは全く口をつけずに、背もたれに体を預け、腕と足を組んで目を瞑っている。


 こんな場所入る機会はないので、あたしは応接室に置かれている装飾品の値段を想像したり、ショーケースに並ばれていた宝石の値段を思い出していた。

 宝石一つでも高かったが、ネックレスや腕輪などの装飾品になると、より一層値段が上がっていた。カットやカラットによっても値段が違っているが……。ここに置いてあるどの宝石も装飾品も、親父殿のナイフの値段には及ばないなぁ。

 親父殿のナイフって、無駄に高いのな。


「ぶっっ!」


 リヒトがいきなり吹き出し、口を押えて笑いを堪えていた。

 殆ど無音の室内で突然の失笑に、女性定員が驚いたような視線を向けてくる。あたしも吃驚して彼を凝視する。リヒトは苦笑いをしながら頭を左右に揺らす。


「え? 狂った?」


 リヒトは微苦笑を浮かべた。


「ちげぇよ。ほんと、お前の親父さん可哀想だなって思っただけだ」


「なんなんだ突然、気持ち悪い」


 訝し気に聞き返すが、彼は肩をすくめてそれ以上話さなかった。


「お待たせしました!」


 男性が持ってきたのは銀貨3枚から買える宝石と


「こちらのネックレスや指輪などもどうでしょうか? 流石に大型金貨になると、普通の宝石だけだと大量になりそうなので、こちらの商品もオススメですよ」


 ネックレスや指輪を中心とした装飾品をどんどん出してきた。


「主人の命以外は出来ない」


 リヒトは断ったが。


「あ! これは……!」


 一つの指輪に思わず声を出してしまったあたし。

 パッと口を押えるが、輝く目をして熱い視線を送る男性と、しらっとした冷たい目を向けてくるリヒトの視線が刺さる。


「お目が高い! こちら、聖光石を使用したソリティアの爪のないバージョンです。一見小さくて儚い印象ですが、滅多に宝石として出回らない聖光石を使わせてもらっています。かなり希少価値の高いものです」


 リヒトの視線がチクチク刺さる。

 すまない。希少価値の高い鉱石には反応してしまうんだ。

 貝のように口を噤んだあたしの代わりに、リヒトがため息交じりに会話を始める。


「…………聖光石、か」


「そうですとも!」


 男性が期待を持ったように声を高揚させる。

 リヒトは数秒考えて、気乗りしなさそうに言葉を続けた。


「…………ついでにといわれたので、考えてなかったんだが。希少価値の高い鉱石がある装飾品を一つだけ、あれば買ってくるように、とは言われている」


「そんなこと言われてないだろう!?」


 思わず食って掛かってしまった。


「お前は言われてないだけだ」


 ツンとそっぽを向かれた。


「ではご購入で?」

 

「金額次第」


 交渉に入ったら話しかけても無視されてしまい、アンパン口を開けて固まる。

 値引きされてもその指輪が金貨20枚だと聞くと、ちょっと頭痛が起こった。



次回更新は一週間から二週間以内です。


==補足==

この作品世界設定では大型金貨一枚、現代価格はおよそ15~25万設定にしています。

小型金貨一枚、現代価格はおよそ1万設定です。

一か月の生活費(村)は大型銅貨二枚あれば贅沢できる、みたいな感じにしてます。

価格設定こんな感じにしてんだー。という軽い感じでお願いします。


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