勇者凱旋劇④
資料の管理をやっていたのかもしれない。深く突っ込まずに、「そうか」と頷くだけにした。
「それにしてもおかしい話だ」
あたしは腕を組んで唸る。考えれば考えるほど、よくわからなくなってきた。
リヒトは王城を見るのを止めて、適当な景色に視線を止める。
「おかしな話だよな。どこに焦点を当てればいいのか分からない。彼らはいつ死んだのかも結局はあやふやになっている。ミウイは勇者たちとどのくらい親しかったのかも、結局は伝わっていない。調べれば調べるほど、とことん話が繋がらない。情報が少なすぎる、めんどうくさい」
最後は吐き捨てるように言い放ち、リヒトは天を仰いで疲れたようにため息を吐いた。
あたしはオレンジジュースで口内を潤して話を続ける。
「そもそも相思相愛じゃなくて、一方的な片思いってことかも。二人の魔王はミウイに執着していたのは間違いない。でも王族が勇者の子孫と言っていないから、『王になったリヒト、重役になったミロノはそれぞれ幸せに暮らした』という内容が合わない。でもこの国にはそれが受け入れられている。更に不思議なのは、『病気で彼らの子孫は絶えた』ってところか。子供が居たのは間違いないのかな? だとしたら、誰が産んだ? って話になってくるけど」
堂々巡りな気がしてきた。
頭痛がしそうなので、あたしは考えるのを止める。
「とりあえず、この国に伝わる話は置いておこう。あたしが疑問なのは親父殿が言った事だな」
ルーフジール家の双方の当主は、どうして自分たちを勇者の子孫と言ったのか、だ。
「俺も思った。子孫は絶えているのに、どうして子孫が残っている?」
眉を潜めながらリヒトが呻いた。あたしも腕を組んで唸る。
「うーん、わからん。どっかで誰かとやっちゃったら、認知してないだけでできちゃったという可能性くらい?」
つまり隠し子。
リヒトは一瞬無言になったが「あー、そうかもな」と適当な相槌を返し
「今はその仮説でいこう。勇者ズは隠し子がいたと、それが俺達の先祖。決定」
もう考える事が嫌になったのか、投げやりの早口になってとっとと話題を終了させた。
あたしはコップをぐしゃっと潰して布袋に入れる。
「じゃあ、この件は終了ってことで、あとはあんたの村で調べる、って事でいいかな?」
「ああ。そうしよう。父上に再度問いただしたほうが早い」
「なら、そうしよう。この後はどうする? もうちょっと滞在するんだろ?」
「いつもの通り、噂を探して災いの情報を得る」
「了解。明日から調べるわ」
リヒトが睨んできた。あたしはまた背伸びをして、だらんと体の力を抜く。
「今日はもう疲れた。お昼過ぎだし、ごはん食べて街の見学ついでに、ちょっと旅費を整理したい」
貨幣袋のある腰につけたポーチを示すと、リヒトの目が通常に戻る。
「そーいやそうだったな」
納得されたが、あたしとしてはちょっと納得いかないんだけどね。
なんで睨んでくるんだよ。明日から調べるからいいじゃないか。こいつやっぱ心が狭い。
あたしが心の中で毒を吐いていると、リヒトは一つ提案をした。
「持ち運びしやすい宝石に変えたらいい」
同意見なので頷く。
銀貨にするとかさばりそうだ。交換目的で宝石に変えたほうが運びやすい気がする。小さくて軽くても高価だし。
「俺も同行する」
「なんで?」
吃驚して反射的に聞き返すと、肩をすくめられた。
「お前、宝石の目利き出来るのか?」
「失敬な! 出来る!」
「武器防具の付属系以外で」
「………………」
言い返せなかったら、リヒトがにやりと笑った。
くっそ! 勝ち誇った顔をされた!
「ご名答、武器防具以外は食材しか目利き出来ねぇよ!」
鉱石なら余裕だが、宝石興味ないからな!!
「だと思った。偽物掴まされると無性に腹立つから全力でお前を罵倒する。そうすると喧嘩になる。後々のトラブル回避はしとかないといけない」
「この野郎! この段階であたしが偽物掴まされると断定してやがる!」
「99.9%は確信している」
「あああああ! 数値高いぞこらあああああ!」
あたしは叫んだあと呼吸を整えて気持ちを落ち着ける。ここで言い返して一人で行って偽物持って帰った日にゃ、どんな毒を吐かれるかたまったもんじゃない!
「俺は装飾関連も目利き出来るからついて行ってやるよ」
仕方ない。こいつを納得させるためについて来てもらおう。
決して! 決して! 偽物つかまされそうっていう不安からじゃないから!
あたしはギリギリ奥歯を噛みながら地団太を踏んだ。
「そりゃどーも!」
「ついでに目利きもレクチャーしてやる。物覚えが致命的に悪くても、頭に残るように丁寧に何度も教えてやるよ」
「畜生! 心の底から馬鹿にしやがって!」
確かに宝石や装飾関連のトラブルは後々ひどい目に遭う事がある。偽物と本物は紙一重だし、その土地で価値観も違う。
大型の宝石店が全て良心的とは言えず、購入または売却の際にも注意が必要だ。
武器の装飾に宝石を扱うこともあるので、多少は交渉と目利きのノウハウ仕込まれているが、正直あたしはそのセンスはないと思っている。
何せ興味がないのだから磨きようがなかったのだ。
それを言ってしまうとますますリヒトは調子に乗るだろう。だから怒鳴って少し誤魔化す。
あたしが言い終わるタイミングで彼は立ち上がり、コートに着いた砂を払い落す。
「その前に腹ごしらえしようぜ。腹が減ってはなんとやら、だ」
「わかった」
あたしとリヒトは大通りに戻り、遅めの昼食を取ることにした。
次回はちょっとしたハプニングが起こる話になります。
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