表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わざわいたおし  作者: 森羅秋
――勇者信者の王国――
64/279

勇者凱旋劇①

<演劇楽しみだ!>


 オーケストラの生演奏BGMをバックに舞台の袖から出てきたのは、ほっそりとした長身の体型で、女の不自由しないくらい甘いマスクの20代くらいの男性2人。二人は似たような顔をしていた。


 そこら辺に座っていたマダムが「キャ!」と声を挙げている。


 二人はそれぞれ金と銀の近衛兵の鎧を着こみ、肩にはつやつやした豪華なマントを翻して観客席に呼びかける。


「さぁリヒト。覚悟は出来てるか?」

「勿論だ、ミロノ。俺達はみなの幸せのため、命をかけるんだ」


 よく通る澄んだ声が劇場に響き、どこかのマダムたちが「ほう…」と甘い吐息を吐いた。

 二人はこの劇場の人気役者である。

 なんで知ってるかって? 

 人物紹介ポスターで役者紹介されていたよ。


 青年はお互いに抱き合い、そして―――幕はあがる。



 物語となる舞台はここ、湖上の王都。

 時代背景は戦争終結間近だった。二部構成で、あたしが見ているのは後半だった。

 丁度、双子の勇者の活躍が描かれる部分である。



「皆のもの、今日より我が王都と暴悪国との決戦が決まった! 命を賭して、この国を守ってくれ! 期待している!」


 王冠を被り、派手なマントと派手な衣装を身に纏った威厳のありそうな中年男性が、精巧な張りぼての城の屋上から叫び、鎧を着た人や町人が平伏してそれに従う。


 ちゃんと国名を言えよとあたしは思った。


 王が引っ込むと、人々は散り、勇者達の姿にライトが当たった。


「いよいよ、始まるのか……あの非道なる王制との戦い」


 ミロノ役が剣を抜き振り上げる。

 あの剣は刃を潰してある。怪我をしないようにだろうな。


「ああ、ミウイ姫を差し出さないと、民を皆殺しにすると脅したらしい」


 リヒト役がウロウロしながら黙り込む。ミロノ役が剣を納めオーバーリアクションで観客を眺めた。


「全く、なんて勝手な考え方だ。それに比べてこの王はなんと心やさしい事か……」

「俺達はこの王の下で死ねても、きっと悔いはないだろう!」


 青年は顔を見合わせ、行進して行く兵の団体に混ざって何処かへ横へ引っ込んだ。

 

 洗脳されているような言い方で、ちょっと引くわ。


「お父様」


 背が高く、派手なドレスに身を包んだ20代前半のおっとりした女性が王に話し掛ける。後ろの客席でも表情がわかるようにしているためか、化粧が濃い。


「ミウイか」

「この戦い……。私が嫁げば、無駄な血が流されなくて済むのに、どうして……」


 ミウイ役がしなる動作をすると、紳士が少し前のめりになり目を爛々と光らせる。どうやら彼女の妖艶な仕草で興奮しているようだ。


 この程度で興奮するなんて、よっぽど溜まっているんだな。

 隣でリヒトが「プ」と笑ったような気がした。


 王役はミウイ役の肩を持ち、微笑む。


「案ずるな。ミウイ。お前をあんな奴らに渡すものか。我等は必ず勝つ」

「ですが、あの王都には強靭なる肉体を持つジーダルがいます。彼に掛かれば、この王都など」


 言いよどむミウイ役に王役は一喝する。


「次の王となるそなたがそのような弱気でどうする!? 儂を信じろ!」


 お前が戦うわけじゃないだろ。

 あたしは首を傾げ、苦笑いを浮かべた。


 ミウイ姫の不安は的中した。

 名のある騎士達は誰一人として、トラットリビル王都の騎士団団長ネストール=ジーダルを倒せず、返り討ちにあう。これにより士気は激減し、やがて湖上の王都にも絶望の空気が流れ始めていた。


 どんよりとした絶望的なBGMが流れていく。


「ああ、……この王都に希望を、人々の平和を保つ人が現れないのだろうか?」


 ミウイ役は祈るように膝まつき、夜空に祈る。

 何故かオーケストラの歌と楽器が2コーラス響く。

 

 いやぁ。結構聞きほれる曲だな!


 それが終わると、キランと証明の光星が二つ流れ星となって、ミウイ役を覆うように流れ落ちた。

 舞台は真っ暗になり、曲調が変わる。

 明かりがつくと、舞台は人間に扮した人形が、ボロボロに倒れている戦地へと変わった。


 先ほどの流れた光が、突っ立っていたミロノ役、リヒト役に落ちて輝く。

 二人は驚愕の表情を浮かべて自分自身を見て、漲るオーバーリアクションを行った。


「力が溢れる……!」

「これは、一体……!」


 あたしは笑いそうになったから、口を隠して失笑した。


 急に辺りが明るくなると、BGMが激しいものに代わり、敵の騎士団長が出てきた。

 重そうで派手なトゲトゲ甲冑に身を包んだ、角刈りの40代の整った顔立ちの男性、彼がジータル役だ。


「弱い! 弱すぎるぞ王都の兵よ!」


 厳つい形相を保ちつつ高々に吠える。


 彼の声で周りのマダムが「ほう」と甘いため息を吐く。彼も人気役者の一人で五年前くらいはミロノ役をやっていたと、紹介ポスターに書いてあった。


 ジーダル役を見るな否や、兵達は「ひぃ!」「ジータルだ!」と声をあげて一目散に逃げていく。


 大丈夫かこの兵士達。王への忠誠低くないか?


 一目散に逃げる者には目もくれず、ジータル役は両手を腰に沿える。


 

「ほう? 逃げずにとどまる者もいるか」


 ミロノ役、リヒト役が逃げずに彼に剣を向けると、ジータル役は鼻で笑った。


「我が名声はおぬし達の耳には届いてないと見える。命が惜しくないなら掛かって来い!」


 ブォンブォンと効果音を上げながら、ジータル騎士団長は槍を振り上げる。

 その反対側の幕から、色違いの騎士達が長刀っぽい武器を手に出てきた。敵の大群が二人を取り囲んでいく。


 オーケストラのBGMが激しく力強い曲に変わって危機感もしっかりと演出している。周りの人々から「あぶない」「負けるな」と声が聞こえてくる。


 負けてたらこの国は滅んでるだろうが。


 「ブフっ」


 小さくリヒトが吹き出した。

 盛り上がるシーンで笑ってたら睨まれるぞ。



次回更新は一週間から二週間後。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ