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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――勇者信者の王国――
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英雄発祥の国④


 時間のロスが大きかったので、災いの噂は後回しにして、先に買い物巡りをすることにした。

 必要な日用品を買いこみ、両手に袋を抱えて宿に帰宅途中、陽がやや陰り薄暗い裏道を歩いていると。


「……?」


 とある武器屋のガラスに、べたりと額を張り付かせて中を覗く少年に目が止まった。

 多分、あたしと歳が近い。

 彼は柔らかい朱色髪のミディアムアップバンクヘア、額に小さいルビーの装飾をつけて、動きやすそうで丈夫な妖獣革の黒服を着て、腰に剣を吊るしている。あの革は多分、ブラックウェントゥスだろうなぁ。


「……」


 何故、彼の姿が目に止まったのか分からない。

 ガラスに張り付く姿が、いつかのオルゴールを見ていたあたしの姿に重ね合わせたのかな?

 それともただ単に恥も外聞もなく、必死にディスプレイを覗いている姿が気になったのかな?


 数十秒程度だが、あたしは少年をじぃっと凝視してしまった。


「……あ! すいません」


 少年が声をだし、慌てて振り返った。


 うわ、やっば! 視線に気づかれた。

 特に用がないから気まずい!


 少年が真っすぐにあたしを見た。朱色の目をした爽やかそうな顔というのが第一印象。数秒遅れて、あ、こいつなかなか強い。と直感が働く。


「すいません、邪魔してしまったようで」


 すまなそうに眉を下げて、ガラスのディスプレイから身をずらしたが、あたしはそれを制した。

 

「その店に用は無いから退かなくても良い」


 きょとんとしながら「え、あ?」と声を出す少年。


 ほんとごめんな。


「あたしはそこに用がないから、あんたは気にしなくて良いって事」


 あたしの言葉に目をぱちくりさせて数秒無言になると、少年は不思議そうに首を傾げながら聞き返してくる。


「え、では。何故僕をじっと見ていたのですか? 邪魔だったからでしょ?」


「見られたことが気になるのか?」


「そりゃ、気になりますよ」


 きょとんとする少年に、あたしは額を押えつつ軽く手を振った。

 

「へばりついていた姿が滑稽だったから目に止まった」


「…………」


 少年が首を傾けたまま動きを止めた。


 うーん、最近リヒトと喋っているせいか、とっても皮肉った喧嘩腰のセリフが出てしまった。しかも胸を張ってドキッパリに答えてしまっている。


 大変失礼なセリフを吐いたなと思ったが、素知らぬ顔で気づかないふりをする。

 取り繕う発言はあまり宜しくない。

 そもそも嘘じゃないし。


「………そ、う、ですか?」


 少年は怒ることはなく、ただ理解できないと目をパチクリさせたが、すぐに「あ」と声を挙げて手をポンと鳴らす。


「もしかして店の人?」


「何でそうなる?」


 予想外すぎる返答にあたしが呆れているのを察したのか、少年は慌てながら丁寧に謝る。


「あれ、違うんですか? すいません勘違いを」


「通りすがりに見ただけ。分かった?」


「はい、分かりました」


 ほんとに納得したのかよ。


 そう思ったが、少年が良い笑顔するので何も言わないでおいた。

 引っ張るような話題ではない。このまま立ち去ろう。


「ところで貴女も旅人ですか?」


 踵を返そうとして問いかけられた。あたしは無視して立ち去ろうとするが、少年は横にピタッとつくとお構いなしに話を続ける。


「僕も旅の途中なんです! 旅人仲間ですね! どこから来ましたか? 僕はこの北側のディオンテ山脈です」


 ぱぁぁぁと笑顔を振りまかれ勝手に自己紹介している少年から、小さな花がぽんぽん舞っている気がする。


「……」


 あたしは自己紹介する気はない。無言を貫き、更に視線を合わせないことにした。


「お一人ですか? ご家族と旅行ですか? それとも誰かの護衛とかですか? ここに住んでいるのですか? どこまで行くんですか?」


 めげるどころか質問攻めときた。

 うっわ。無害そうな出で立ちだったのに。明らかに変なのに絡まれてしまった。

 視線を投げるんじゃなかったと後悔の念が襲い掛かる。


「旅はよくされる方ですか? どこまで行かれました? 僕はこの近辺をうろうろしているんですよ~」


 もしや、返事しなければすっとこの調子なのか?

 あたしはうんざりしながら、少しだけ質問に答える。


「旅人だけど、それがあんたに何の関係があるんだ?」


 声のトーンが低くなって、刺々しくなっているが、少年はまったく気にもせずに、返事をしたことを純粋に喜んでいた。


「やっぱり! 近い年齢の旅人ってあまり見かけないんで、なんか嬉しくって!」


「はぁ……」


 あたしはため息をはきながらゆっくりと速度を緩めて後方へ下がる。喋る事に夢中で少年との距離がゆっくり開いていく。よしよし。


「観光で来られたんなら、この国に沢山設置されている像を見ました? 双子の勇者って像です。ご存知で?」


「異様に目につくから知ってる」


 午前中に知ったけども。


「あっちみてもこっちみても勇者一筋って凄いですよね」


 あたしと距離が離れていく事に全然気にしていないみたいだ。よし、このままサヨナラしよう。


「でも王都の名物といったらそのくらいでしょうね」


「………うわ」

 

 そう思った瞬間に、少年がまたピタッと元の位置ーーーーあたしの横に戻ってきた。


次回更新は一週間から二週間後です。

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