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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――勇者信者の王国――
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英雄発祥の国②


 そこから更に10分ほど歩きながら、あたしは周囲を観察する。


 ギルド所属している冒険者多いなぁ!

 しかも種類多くない? ざっと見て10種類は見かけたよ!?


 まぁ、話に聞くだけで教えてもらえなかったから1種類も分からないけど!


 実は結構その数が多いとされる冒険者。

 トラブル解決人とも言われ、日雇い若しくは月雇い労働者でもある。

 ギルド(仕事斡旋場)に所属し、斡旋員から紹介された依頼書を選び、請け負って移動する。


 普段、村や町であまり見かけない冒険者が、シュタットヴァーサーでこれでもかっていうほど目に入ってくるのは、なんだか異様な光景だ。


 でもここではこれが当たり前なのだろう。


 今度はあたしが冒険者に視線を向けていたら、リヒトが喋りだした。


「ギルドの本拠地が沢山あるから、自然と集まるんだろうよ」


「いや品定めしてないよ。多いって思ってるだけ」


 反射的に弁解したが、いやなんで弁解するんだろう? と言った後に気づく。


「多くの冒険者はここで依頼を受けて各エリアに移動する。小さな村や町でもギルドはあるが、揉め事が起こっても村や町に常駐している者では本拠地からきた冒険者に対処できないことが殆どだから、依頼を解決したあとで本拠地に戻って報酬を受け取るって形がメジャーだな」


「なるほど」


「それに本拠地の方が高額報酬依頼や難題な依頼が多くあるから、解決したときの報酬や名声が大きい。一気に名を売りたいならやはり本拠地の依頼だろう」


 感心して頷き、「なんであんた詳しいの?」と聞いてみる。


「俺も到着した当初に驚いたので調べた」


 「そうか……」と頷き、気になることは調べる性格なんだな。と心で付け加える。


 冒険者になったモノノフもいるから興味あったんだよな。

 成人したら冒険者になって妖獣討伐依頼やってみたいなー、とか思ったこともあったし。


 ギルドに所属したら、『王都で依頼探して受けて討伐して戻って報酬を受ける』という流れになるのか。移動を考えると面倒臭そうだけど、未払いにはならなさそうなので安心だな。



 連立する宿屋の中からある一軒の前でリヒトは足を止めた。


「着いた。『とおりまちの小町』。中ランクの宿だ」


「これが中ランク?」


 中ランクと言っていたが、あたしから見ると、上級に見えるほどきちんとした木造の四階建ての建物だった。使われている木も高級材料っぽい感じがする。


「これが?」


 再度聞き返すが当然のように頷かれる。


「そうだ。中ランクとはいえ、中の上、少々値段が高いが、治安が良い場所の宿の方が安全であり、払う金額が高ければ高いほど対応する人間の質が良いんだ」


 そう言っておくびもせずドアに手をかける。あたしはその後に続いた。


「わぁ」


 洗練されたフロアだった。内装はシックで控えめだが豪華で広く、落ち着いた空間を出している。商人や旅人達がゆったりめのソファーに腰かけて、それぞれ談話している。


「すごい」


 豪華な宿だ! と興奮し、外よりもキョロキョロ見渡しながらフロントへ向かうと、あたしと目が合った瞬間に20代の女性が深々とお辞儀する。


「いらっしゃいませ。当店をご利用ですか?」


 綺麗な声で話しかけられ、反射的に「はい!」と緊張気味に答えるあたし。


「予約はしていないんですが、部屋空いてますか?」


「空いています。何泊ご利用ですか?」


「とりあえず2週間」


「分かりました。それではお客様のお名前を教えてください」


「ミロ……っンンンン!?」


 名前を言い終わる前にガッ! と後ろから口が押えられた。

 殺気がなかったので少し対応に遅れるが、ちらっと横を見ると、リヒトが目をギラギラさせながらこっちを睨んでいた。


 うわ、めっちゃ怒っている。

 あ! そうだった。名前は偽名にしろって言われてたっけ、忘れてたわ~。


 話にならないと思ったのか、少し後方に追いやられる。


 あたしの代わりにリヒトが口を質問に答えた。


「これはミラ=レード」


 何だその名前、今考えたなこいつ。


「あ、はい。では、貴方のお名前は?」


「俺はルエガ=コード。二部屋別々で用意してくれ」


「ご一緒ではなく?」


「別々だ」


 『別々』という言葉に力を籠めると受付は目をぱちくりさせて、あたしとリヒトを凝視した。考えなくても分かる。別にそーいう甘い関係ではない。


「別々ですね」


 ちょっとがっかりしたような様子を見せながら、受付嬢は宿帳に名を記入していく。


「はい。では303号室と306号室をご案内いたします。これがキーです。無くさないよう注意してください」


 受付の女性はリヒトとあたしに鍵を渡す。部屋番号の書かれた長方形の白い札に鍵がぶら下がっている。

 ピッキングしたらすぐに解除できそうな簡単な鍵だな。


 リヒトは2つ受け取り「ありがとう」と受付の女性にお礼を述べると、あたしにぺいっと鍵を投げてよこした。


「ほらよ」


「どうも」


 パシっと受け取って、女性に会釈をした後に階段へ移動する。


 ここも豪華で広~~~い!


 大人五人が一列になっても大丈夫なほど広い階段を上がり、光輝石がふんだんに使われている照明の下を歩く。黄色を基調とした廊下は明るくて清潔で歩いていて安心する。

 廊下には、防音を兼ね備えた音木を使った鈍色のドアが等間隔に並んでいる。


 あたしの部屋は303号室。


「わぁ」


 ドアを開けて中に入ると、一人が寝るには十分すぎるスペースがあった。ふっかふかなベッドに間接照明までついていて、クローゼットと棚と机と氷嚢箱まで備わっている。


 これならゆっくり休めそう。


 部屋の内装に凄く満足した所で、


「で、ええと、あんたはルエガ。あたしはミラって言えばいいのかしら?」


 不穏な気配の方を振り返ると、リヒトがドアの傍に立っていた。


 なんてことはない、話があるようで一緒に入ってきたのだ。もう慣れているが、自然に入られるとツッコミしようか迷ってしまう。


 「そうだ」と返事をして、中に入りすぐドアを閉めると、物凄く深いため息を吐かれた。


「まずはつい先日忠告したのにも関わらず、本名を言いそうになったお前の海馬はしっかり機能しているのか聞きたい」


「遠まわしな皮肉からか」


「ああそうだ。今度はフォローしないからな。くれぐれも気を付けろ」


「なんで名前を注意する必要があるんだ?」


 当然のはずが、呆れたようなため息が追加された。


「あれだけ周りを見ていたのに、気づいていないのか?」


「何を?」


「もういい。この国が双子の勇者発祥の地って言うのは覚えているか?」


「うん」


「この国では『ミロノ』と『リヒト』の名前の方は珍しいことではない。双子が生まれるとその名を付ける風習があるからな」


「縁担ぎで?」


「そうだ」


「そうか……」


 あたしにしてみれば、呪いをもってきた疫病神だ。


「問題は家名。一致することがヤバイ」


 「ほう?」と意味がわからず相槌を打つ。そんなあたしにリヒトは少しイラッとしたようだ。少しだけ口調が荒くなった。


「ルーフジールの家名が王都やその周辺にいないので、同姓同名はいないことになる」


「ほう?」


 意味が分からず相槌を打つと、彼は心底呆れた様に首を小さく左右に振った。


「ピンと来てねぇな。まぁ、城下町へ行けば嫌でも理解できるか。話が脱線した。ここは情報の坩堝だ。魔王の噂が色々出てくると思う。明日の夜に情報交換するぞ、忘れるなよ。じゃぁな」


 リヒトは頭をガシガシ乱暴に掻いてそのまま部屋を出ていった。


 うわ、フケ落として行ったなあの野郎。


 毒づきながら、あたしはさっさと鍵を掛けてベッドに座る。


「名前かぁ。要はルーフジールを名乗らない方が良いって事だな」


 でももう偽名で宿とったし、今回はミラ=レードってことにしよう。


 さて、あれだけリヒトが警告してきたってことは、名乗ると相当ヤバイ事がおこるんだろうな。


 ここに着た瞬間からそれが色々あったのかもしれないが、驚く事が多すぎて目に入らなかったのかも。

 両腕を組んで考える。


 明日外に出る時にもっと注意深く観察してみよう。


次回は一週間後です

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