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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――勇者信者の王国――
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英雄発祥の国①

<王都ってすごいところだな……いろいろな意味で>


 たかが対岸、されど対岸。

 広いストライト湖の船の横断は10時間くらいかかるものだった。


 船の種類は色々あったが、一番安かった定期船に乗って移動する。人と物資を運ぶ貨客船だ。高速船にすればもっと早く到着し、豪華客船や遊覧船にすればもっと遅く到着する。

 後者二つは定期船より二倍以上高かったので止めた。

 移動だけだから、飯とかベッドとか必要ない。


「んー! 気持ちいい」


 外で景色を見たかったので甲板に出ている。風がとても気持ちいい。遠くの山が見えて景色も堪能できる。夕方前に到着するので、その間ゆっくりさせてもらおう。


「あの辺りだったっけ」


 魔王が潜伏していた場所の横を進んでいくのを眺めながら、こんなところ、歩いて来ることが出来ないと再確認する。


 リヒトの力がなければ、船を借りていかなければならなかっただろう。


「そうだな」


 後方からリヒトの声がしてあたしは振り返った。


「あんたも景色を見に?」

 

 「いいや」とリヒトは首を横に振る。


「忠告しに来た」


「なんの?」


 いくらぼーっと眺めているからといって、湖に落ちるなんて間抜けことはしないぞ。

 いやこいつならば、あたしが湖に落ちようがどうでもいいだろう。

 他に忠告……思い当たる節がないなぁ?


 ぱっと原因が浮かばなかったので首を傾げると、リヒトは言葉を続けた。


「シュタットヴァーサーに着いたら絶対に本名を名乗るな」


 予想外の忠告に「ん? なんで?」と思わず声を挙げる。

 リヒトは眉間に皺を寄せてうんざりした表情になると「行けば解かる」とだけ答えた。


「行けば……? 詳しく教えてよ」


 聞き返したが、リヒトは更に眉を潜めて苦虫を潰したような表情を浮かべただけで、すぐに立ち去って行った。


 彼の用件は済んだようだ。

 あたしはぽかんとしながら彼の背中を眺める。


「そんな意味深な事言われても。行けば分かる……ねぇ?」


 宙ぶらりんにされた気分だが、はて、あたしの悪名なんて轟いていないはずだ。


 村の中でも大人しくて良い子な方だし。


「うーーーーーん?」

 

 皆目見当つかず首をひねるが、行けば分かるだろうと思い直し、また景色に目を向けるのだった。




 ストライト湖を越えた場所にあり、湖上の王都と呼ばれる巨大な都市がある。

 とはいえ、本当に湖の上に建っているわけでもなく、やや盛り上がった土地に更に土をかけて敷地を高くし、丘の上に城がある感じらしい。


 戦争が激化する前に防衛を強化すべく、湖にあった城を移動して新しく作ったのが今の場所だが、昔の名残というか、人々がずっと言い繋いできたので、今もシュタットヴァーサーは別名『湖上の王都』と呼ばれている。


 あたしも村に居た時に商人の口からよく耳にしたが、正直、単なる大きい町だと思っていた。


 そして現在、到着したあたしはその規模に圧倒される。


「うん、予想以上だった」


 聳え立つブロックの塀。聳え立つ立派な宿屋のような住居の列。聳え立つ巨大な崖のような商店の列、巨大なパブ、巨大な劇場、町の中ならどこから見ても見える巨大な城。


 今まで通ってきた町や村とは、何もかも規模が違う。


「すごい……」


 あたしはあんぐりと口を開けて眺めてしまった。


 傍から見たら大層間抜けであろうが、そんな些細なことはどうでもいい。


 まさに青天の霹靂! 世の中ほんと広い!


「おい、そこで止まるな。通行の邪魔だ」


 立ち止まって唖然としているあたしを見かねてか、先に進んでいたリヒトがUターンして戻ってきた。

 物凄く呆れている。


「道のど真ん中で自分の世界に入る馬鹿がいるとはな」


「ああ、すまない」


 軽く謝って歩き進めると、リヒトは肩をすくめた。


「まぁ。癪だが気持ちは理解できる。ソーマリンエリアは王族の土地だからな。800年前の戦争で暴悪族に勝利して、他民族を統一しこの大陸を完全に支配した国だ。戦時中に活躍した子孫が王族、領主を名乗りこの国を支えている。……っと、そんな事より宿はこっちだ。ついて来い」


 キョロキョロ景色を眺めながら歩くあたしとは反対に、慣れた足取りで町を進む。門から中に入ってまだ30分と経っていないが、既に入り組んだ迷路のような感覚がした。

 

 すぐに宿が並ぶ通りにたどり着く。

 

「さて、部屋が空いているといいが……」


 以前リヒトが使用した宿を今回も利用すると言っていたっけ。


 あたしはぐるりと周りを見渡す。


 この通りは住人の他に、商人と旅人と冒険者が目立つ。

 冒険者は鎧や武器に拘りがうかがえ、体のどこかにギルドの紋章をつけている者が多く、旅人は最小限の装備といった感じだ。


 あと目につく者といえば


 ガチャン、ガチャンと金属音が擦れる音が前方から聞こえてくる。


 銀色の甲冑を身につけた兵士が歩いている。王族のエンブレムが胸に刻まれており、王家に忠誠を誓っている者ですアピールを前面に押し出している。


 他の町とは違い腕に覚えのある者が集まる自衛団ではなく、国を守るということで特別な訓練を受けた兵士が巡回し、王都を守っているそうだ。


「あれが兵士というやつか」


 話には聞いていたが、初めてみたー! と感動しつつしっかり観察してみる。


 うん! これは強い!


 重心がしっかりしているし周りの警戒も怠っていない。初めから不審者を探して歩いている感じがビシビシ伝わるぞ!


 あたしがウキウキしたのを感じたのか、リヒトが「はぁ」とため息を吐いた。


「変な気起こすなよ。あいつらに関わると厄介だからな」


「喧嘩なんか売らないぞ失敬な。強そうな相手を品定めしているだけじゃないか」


「頭おかしい女め」


「普通だ」


「普通じゃない」


 そこまで軽口で罵倒して、リヒトが肩をすくめる。


「他の町よりも圧倒的に治安がいいが、場所によって治安が悪い所もある。治安が良い場所は兵士が多く巡回しているんだ。いちいち品定めするな、トラブルの元になる」


 くっそ、そんな気配出してないのに釘刺してきやがった。

 ここで喧嘩売ってやろうか。


 そう思った瞬間、「本気で止めろ」と、リヒトは眉間に皺を寄せながら語尾を強めにして唸った。


「ばーか、冗談だよ。そんなことしない」


 あたしも、ここでトラブルを起こすのは後々厄介だろうなぁと思っている。

 先回りして釘を刺してきてムカついたから、そう思っただけだ。

 実際にやるわけないだろう。


「そう願いたいな」


 物凄い冷たい視線を一度だけあたしに向けて、リヒトはすぐに視線をそらした。



次回も一週間から二週間更新予定です。

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