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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ストライト湖の異変――
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リヒト視点:ストライト湖の毒魚②


 宿につくと、カウンターにいた宿の主人が、ミロノを担いで帰った俺を見て、驚いたように目を見開いた。慌ててこちらに駆け寄ってくる。


「ど、どうされました!? まさか、食中毒!?」


 二言目に食中毒ときたか。日常茶飯事になっているのかもしれない。

 俺は首を左右に振って違うと示し


「いいや、単に旅の疲れで熱が出ただけだ」


「大変です! 医者を呼びに行かせましょう!」


「待て」


 宿の主人はすぐに従業員を呼ぼうとしたので、即座に止めた。人間ができているのは分かった。だから話を途中で遮らず、最後まで聞いてくれ。


「解熱剤を与えたから問題ない。時間が経てば落ち着く」


「そうですか? それなら安心出来ますが」


 不安そうにミロノを見ている。


「もういいか? 早く部屋に行って寝かせたい」


 凄く重いから、早く投げ飛ばしたい。

 体力も力も普通くらいなんだよ。そろそろ抱えるのも限界だ。


「分かりました! 何かお手伝い致しましょうか?」


「問題ない」


「では、何か不足な物があったら、声をかけて下さい。用意しますので!」


 くっそ。そろそろ肩が限界だ。

 さっさと行かせてくれ、と、文句を言いそうになったが、耐えた。純粋に心配しているだけ、だと分かるのも考えものだ。

 

「わかった」

 

 サッサと話を切り上げて移動する。


「確か三階の真ん中だったなー」


 階段を上がるのは疲れるが、仕方ない。


 落ちないように、一段一段踏みしめながら上り、廊下を進む。部屋の前に到着して、一度ミロノを降ろす。


 多分、鍵はポケットにあるだろう。勝手に漁らせてもらう。袴に近いズボンだが、すんなり取りだせた。


「はー……」


 疲れた。ため息しか出てこない。


 ドアを開けて部屋に入る。

 リュックがぽいっと、机の上に投げられており、ベッドの上に荷物が散らかっていない。片づける手間が省けた。


「よいしょっと」


 荒い動作でミロノをベッドの上に寝かせ、靴を脱がせる。


「さてと、少し衣服緩めるかな」


 呟いたところで、ピタッと手を止めた。


「…………」


 肝心な事を忘れていた。


 性別が違う。

 

 男なら遠慮なく服を緩めるんだが、流石に同い年の少女だと勝手が違う。


 目が覚めるまでこのまま放置しようか、と、一瞬だけ頭をよぎったが、あの魚を食っている。

 すぐに目が覚めない可能性が高い。


 それに、本当に死んでしまってはまずいので、傍で監視していた方がいい。


 腕を組んで考える。

 すぐにいい案が浮かばない。


「……………どうするか」


 俺はイラついて頭をかいた。


 意識はなく、熱に浮かされているようだ。汗で体が湿気ている。風邪をひいたのと同じ看病をした方がいいだろう。


 熱を下げるために冷やすのと、適度な着替。

 

 仰向けにされても、しっかり主張する胸の膨らみをぼんやり眺めながら、しばし考える。


「着替えは別の奴に頼めばいいか」


 宿にも女性従業員がいる。宿の主人に手伝ってくる人がいるか、聞いてみよう。


 早速聞こうと思ったが、ある事に気づき、止めた。


 暗器の存在だ、これをどうする?


 着替えをする人に丸投げする案もあるが、ミロノの持っている量、絶対に一つや二つじゃない。

 素人が笑って対応できる数を、優に越えていることは明らかだ。


 世間一般からすれば、この年齢の女子が持っているのは不自然だ。


 例え、モノノフ特有の姿で、全身コーディネイトしていても、年齢が邪魔をして、暗器を持っているイメージが浮かばないだろう。


 それが分かるのは同種の人間だけだ。


 大量でも、暗器を取り外すのは、頼めばなんとかなりそうだ。


 だが、取り扱いをしたことのない素人が。万が一にもその暗器で怪我をしたら。毒があれば……。

 

 説明だけじゃ、済まないだろうなぁ。


「…………」


 頭痛がしてきた。

 仕方ない、と諦める。

 深く長いため息を吐いて、


「これは患者、患者、おばさんの患者。モノノフのおばさんの患者、俺は手伝い。……よし」


 自らに言い聞かせ、気を引き締めた。


 怪我の手当で、装具や防具を外すのは、おばさんの指導でやらされている。邪な考えがない限りは、相手に不快感を与えない。


 さっさと終わらせる。


 意を決して、ミロノの上衣を脱がした。小手などの装具も手早く外す。案外、簡単に外れた。

 複雑そうな装着だが、取り外しはやりやすい。


「……」


 出来るだけ、肌に触らないように気を付けながら、腕やら足やら脇やら腰回りに装着されている、薄型30センチのナイフ、掌サイズのナイフ、指の長さくらいのナイフや針を取り出す。


 その数二十本以上。

 なんて量だ。

 予想を超えていた。 


 攻撃手段に加え、太い血管の近くにつけているのは、防御の意味もあるのだろう。

 やはり生粋の武人だ、この全身刃物女。


 テキパキと武器を解除して、服と袴ズボンをずらして見えた中着の素材が気になる。


「このベストとハーフズボンは、もしかして防具か?」


 柔らかい肌着の素材と思ったが、ちょっとでも外から力を入れると、鉄のように硬化する。


 これ、確かルゥファスさんも着用していたやつだ。

 じゃぁ防具だな。

 

 これは外さなくていいか。っていうか、これの下はきっと下着だ。

 俺が一人で触れるのはここまでだ。

 着衣を整えて離れた。


「ふう。こんなもんか」


 予想以上に緊張した。額の汗を手の甲で拭う。

 一通り、目につく暗器を取り外したので、これで着替えを頼める。


「さてと、暗器はリュックに入れとくか」


 無造作に置かれたリュックを漁る。

 着衣を引っ張り出し、下着も出す。真っ黒。色気のない簡素な下着だ。これはタオルで包んでおく。


 日用品の鉱石の他に、武器の手入れや、薬調合の道具、乾燥した薬草などが、ラベル入りで綺麗に整頓されていた。


 うん? 妙に薬の種類が多い。自分で調合したりするのか?


 必要ないもの、暗器を数回に分けてリュックに納めてから、俺はやっと体を起こした。


「はー……。神経使う」


 さて、着替えの用意は出来たから、宿の主人に訊ねてみるか。


 下に降りると早速出会った。俺の顔を見るなりトトトト、と、速足で近づいてくる。


「お連れ様の具合はどうですか?」


「汗を沢山かいているようで、着替えをお願いしたい。誰かに頼めるか?」


「わかりました。妻に頼みます、少々お待ちください」


 女性は快く引き受けてくれた。


 部屋に向かう途中で、恋人かと聞かれたので、同じ村出身で、王都に住む恩師の祝いに向かう途中だ、と嘘をついた。

 すると、女性はちょっとがっかりしたような表情になる。


 なんで男女が一緒にいると、深い仲と勘違いするんだ? 馬鹿馬鹿しい。


 とりあえず、着替えを頼むのは俺がいる間で、額は触らないように注意しておいた。

 呪印見られたら、説明しなきゃいけないからな。

 傷があると言えば納得したから、あとはまぁ、俺が様子を見ればいいか。


次回更新は一週間から二週間以内を目安にしています。


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