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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ストライト湖の異変――
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ストライト湖の魚①

<魚が食べられないってどーいうことだ?>


 ガクラ町を出発し、シュタットヴァーサーへ向かうガクスト街道進んで更に二日。

 トゥイレフエリアのストライト湖の港湾都市ストライトに到着した。


 ここは広い湖を挟んだ二つの港町が一つの町になっている。山を下るような道になっているので北と南の山脈に挟まれ、林に囲まれた湖の楕円形がよく見えた。

 岬に沢山の船舶が停まっている、おそらく連絡船と漁船だろう。


「うっわー! 大きい!」


 あたしは目の前に広がる真っ青な湖に、感嘆の息を吐いた。


 まだ日が昇り始める早朝とはいえ、街道に沿うと人や馬車の往来が激しくなってくる。その中でも物資を運ぶ馬車が目立っていた。


 なるほど、これだからこの付近は盗賊が多いんだ。


 レモ山脈の近くウーバスト街道でよく出没すると聞いたが、討伐依頼あったらお小遣い稼ぎしに行きたい。

 役所か酒場で情報探してみようかな。


 そんな事を考えつつ、護衛を乗せた馬車が何台も横を通過するのを眺めていた。


「よし、到着!」


 港湾都市の入り口を見上げる。街の入り口だと示す看板に名前が書いてある。


 あ、これ、魚の骨っぽい。


「あらかじめ聞いてたけど大きい町だ!」


 人がひしめき合って活気が凄まじい。


「ここに住んでいるって人間はそこまで多くないが。港を介してシュタットヴァーサーと、南側にあるフカウディ山脈の麓町への往来が多いから、流通地点として発展したんだろう」


 数メートル後にいたリヒトが、看板を見上げながらそう呟いていた。


「湖上の王都シュタットヴァーサーへ向かうためには、フカウディ山脈の道を歩くよりも、この港を経由して湖を横断したほうが、時間短縮出来て、尚且つ路銀も節約出来る。山脈の道を歩くよりも遥かに楽だから、こっちに集まるのは当然だ」


 そして町の中に入ると、今度は宿屋へ直行しているリヒトの後ろを、数メートル開けてついて行く。


「なるほどねー。だから漁業のほかに、観光業も成り立っているってことか」


 活気が半端なく、常に賑やかなお祭り騒ぎのよう。

 通り過ぎる人の流れを掻き分け、物産展や日用品が並ぶ商店街を歩きながら、周囲を見渡した。


「珍しいもの沢山ある」


 魚の干物が干してあったり、お土産物店には貝殻のオブジェやアクセサリーが並んでいたり、砂が売られていたり、目を引く品が多い。


 新しい町に到着したら、その土地特有の物を物色するのが、通例行事になってきた。


「ああ、こっちにも珍しいものあるぞ」


 リヒトも時折、露店の品物を目に止めながら進んでいた。


 ガクラ町のように一笑するかと思ったが、彼も珍しいモノに興味を持っている様だった。


 まぁ、オルゴール一色よりも、湖や林で取れる物の方が色々あって、飽きないだけかもしれないけど。


 彼の足が止まったので、あたしは少し後ろに止まって話しかける。


「あんたはここへ来た事がある?」


「ヴィバイドフ村に行くときの通り道だ」


 そういえばこいつ、大陸の端から端まで移動してきたんだった。いつも忘れてしまう。


「色々ルート調べてみたが、山脈を越えるルートや沼を超えるルートよりも、湖突っ切ったほうが楽で良い」


「ふぅむ」


 あたしは店と店との隙間から見える湖を一瞥する。

 町は湖よりも高い土地に建てられているので、何隻か船の往来が見える。


「船で移動するのか?」


「そうだ。連絡船が出てるからそれに乗ればいい」


 そこまで説明を終えてから、リヒトはため息を吐いた。


「で、田舎者め。他に何か質問はあるか?」


「いつまでも田舎者扱いするな。そうだな。んー、面白い物が沢山ありそうだから、数日は村を観光したい」


 堂々と願望を言ってみた。


「いいぞ」


 反論するかと思いきや、リヒトはあっさりと承諾した。




★★★★





 漁船から引き上げられていく大量の魚を眺めながら、はぁ~と驚きのため息を吐いた。漁港特有の生臭い匂いはさておき、様々な種類の魚が人の手によって運ばれている。


 色と形しか判別が付かないが、漁師たちは次々と同じ種類の魚を水のはった箱にいれ、名を書き、値段を足していた。


 これ全部食べられる魚なんだよな!


 色とりどりの魚に、目がチカチカする感触を味わっていた。


「うわぁ、すごい」


「……単なる魚じゃないか」


 一言多いこの男をじろっと睨むだけに留めておいて、運ばれる魚を興味心身で眺める。


「だって村じゃ、魚はお祝いの時に食べる高級食材だよ!」


「山の中に囲まれてるんじゃ、そーなんだろうな。あの地形じゃ、海に行くまで徒歩で一か月くらいだから、新鮮な魚なんて口に入らないだろうし」


 リヒトが小さく呟いていた。


 まぁ、それも正しいけど。

 モノノフだと、あの距離でも二日で戻ってくるから新鮮なものが食べられないわけではない。

 おそらく下処理をして冷凍すれば鮮度の高い魚介類を食べることができる……かもしれない。


 なんせ粗忽者が多いから、冷蔵冷凍保存もせずに常温のまま、魚を手づかみで持って帰ってくる。その結果、生で食べられない上にやや痛みかけ。握力強すぎて見た目も悪くなっている。


 ってことで、味の悪くなった魚を、焼くか煮るかでなんとかして食べるのが海の魚である。

 里では不評だ。お土産に持って帰るな第一位である。


 あたしは親父殿に時々海に連れてって貰って、新鮮な魚を口にする機会があったから好きなだけだ。


 懐かしいな。……いやいや、そんなことよりも。

 あいつ、ヴィバイドフ周辺の地理に詳しいぞ!?


「なんでそんなに詳しいんだ?」


「滞在中、暇つぶしに村の資料漁りに行って、色々目を通した」


「ああ……」


 マイヤー村長宅か。

 ちょっと前までは、80歳の最高齢のクラリーチェ婆さんが村長やっていたが、この度、世代交代して彼女の孫のデートレル=マイヤーが就任した。


 あたしより五つ年上。の闘気術の使い手。

 お人よしを絵に描いたような人物で涙もろい。ちょい悪人間にいいように揶揄われてしまう可哀想な一面を持つ。


 最後に会ったのは、旅に出る一か月前くらいだったなぁ。

 業務に勤しんでいるから、あまり外に出てなかったし、元気にしてるんだろうか。

 胃腸をやられてまた痩せてないといいなぁ。


 そこまで考えて、また思考が魚へ戻る。

 煮たり焼いたりの料理を思い浮かべて、唾液が口の中にたまるのを感じる。


 ここで食べられる魚料理はなんだろうなぁ。

 今から楽しみすぎる!


「食い意地張ってる」


 妄想していたら淡々と言われた。


 なんでバレた!? 

 慌てて誤魔化す。


「いや! 単純に魚の種類の多さに驚いているんだ! 川と海の魚を同時に水揚げしているんだぞ!? 凄いなぁ!」


 ストライト湖は汽水湖で川の魚と海の魚が混じっており、獲れる割合は川魚が多く、9:1ってところらしい。   

 川と海、両方の魚を堪能できるとは、侮りがたし。


「へぇ。知ってるんだ」


 リヒトが少しだけ感心したように眉をあげた。


「町の看板に書いてあったから読んだんだよ。海の魚はそんなに食べる機会がないから、楽しみだ!」


「そうか。なら残念だったな」


「何が?」


「今の時期、海の魚はあんま取れないぜ?」


「だとすると、今日の夕食は川魚ってことかな」


 川魚も美味しいけど里で食っていたし。道中も釣って食べていたから、ちょっと新鮮味が薄らぐ。


「村でおなじみの川魚メインの料理だ。思う存分堪能しろ」


「だぁぁ! 五月蝿い! あたしが思うこと一言一句に、的確なツッコミを入れてくるな!」


 ついにあたしは憤慨し、リヒトをビシッと指差ししながら呻く。


「感動が薄らぐ! 少し黙ってろ!」


「ふん。知らね」


 うっわぁ……こいつ、肩を竦めやがった。蹴飛ばしてやろうか。


 あたしが怒りにワナワナ震えつつ睨むが、ドサドサと魚が網から出てくるのが視界に入ると「うーん、おいしそう」と、魚に興味が向かう。

 

 直ぐにあたしの興味が違う方向行ったので、リヒトが毒気を抜かれたようにポカンとしていた。


 「はぁー」とため息つかれている。

 いやだって、リヒトに苛立つのはいつでもできるけど、魚にワクワクするのは今しか出来ない!


 今を大切に生きよう!


 あれ? リヒトから生ぬるい視線を感じるが。

 気のせい気のせい、気にしない!


 ああ! あそこの魚も美味しそう! 

 時間があったら食べたい!!

 この魚知ってる! 美味しいやつだ!


 涎を拭きつつ魚を眺めていると、横でまた派手なため息が聞こえた。

 今日はため息多いな。


「ほんと、食い意地張ってるやつ」


 リヒトが呆れたような口調で、独り言を呟いているけど、もう無視する無視だ無視!


 「はぁ」とこの度一番大きなため息を吐くと、リヒトは、あたしから離れた。

 どこへ行くかと思えば、魚を運んでいる漁師の中年男性に声をかけている。重そうに荷物を降ろし、男性は柔和な笑みを浮かべて話に応じているようだ。


 早速災いについての情報収集か。ご苦労なことだねぇ。


 あたしはせり市場で魚を物色しようと、建物内を歩きまわることに決めた。




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