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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ガクラ町のオルゴール――
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その音色は人を掴み①

<賑やかで楽しい曲が流れているなぁ!>

ガクラ町はパレードをやっているかと錯覚するくらい賑やかで音に溢れた町だった。


表通りはなんてさながら青空の音楽ホールだ。楽器を手に様々な人間が思い思いに音楽を奏でている。


 それが不協和音ならば耳を塞ぐべき案件だが、不思議な事に誰かが演奏しその音に乗るように添うように響かせるため、あらかじめ選曲をしていたのかと思うほど見事なオーケストラと化す。

 

 また至る所に楽器店があり、ほとんどの住民が楽器を片手に移動している様子が見受けられる。

 

「これは、凄いな……」


 音楽にあまり触れたことがないのでかなり新鮮だ。

 キョロキョロ見まわすが、面白い物しかなくてどこに視線を置こうか迷ってしまう。

 

 と、前方にやや見晴らしが良い場所で、女性が間抜けな表情をした人形と会話していた。人形はまるで生きているかのように女性とやり取りをしている。 


「あれはなんだ?」


 お人形遊びとは違うな。

 人形が人間のように喜怒哀楽を表現し、何もない空間を何かあるように表現し、人間を人形のように操っているフリをしている。

 

「パントマイム、路上パフォーマンスだ」


 リヒトも少しだけ魅入ってから、あたしの質問に答えた。


「ここは路上パフォーマンスもされていて大道芸をタダで楽しめる。少し滞在してみたが楽しかったぞ」


 なるほど、すでに体感済みか。

 いいな、あたしも少し長めに滞在して楽しみたい。

 

 とりあえずまずは宿屋を探さねばと、歩みを進めるが、どうしても賑やかさに目を奪われる。

 音楽に耳を奪われる。

 心がそわそわして、楽しくなってくる。


「うーん、あっちもこっちも気になる」


 まぁ、立ち止まる人があちらこちらで人混みを形成し、パフォーマーを応援したり御捻りを出したりしていたので、多少歩きにくくて自然に歩くスピードがゆっくりになってしまうから、興味を惹かれやすい。


 とはいえ、これほど笑顔が溢れている町は初めて見た。

 これは平和と捉えるべきか、お気楽と捉えるべきか……前者にしておこう。


「楽しい町だな」


 あたしの故郷で音楽といえば笛や太鼓、そして歌が主だった。この場所と比べれば地味すぎる。所変われば、音楽の形状も全然違うのだなぁと感心する。


 他の旅人も楽しむ者がいる。逆に冷ややかな目でみている旅人もいる。目的あれば無視をして、時間があれば楽しむ。そーいった感じみたいだ。


 浮かれすぎると阿呆みたいに見えるので、ここは一つ、あたしも気を引き締めて………と思った矢先に、滅茶苦茶綺麗な笛が飾られていて、パッと目を輝かせて駆け寄った。


「わー。すごい! なんだあれーー!」


 様々な形の弦楽器や打楽器が売られているショーウインドウ。角度を色々変えて中を伺う。綺麗だ! と感激していると、道端で奏でられる音が妙に気になりそっちの方向へ走って聞いた。

 

 なんだこれ凄いな!


 驚きと興奮の繰り返しで、本気で童心に戻ってしまい、浮かれないようにと考えていた事すら忘れ、興味惹かれる物を片っ端から見て回った。

 

 見終わらない!

 新しい発見がありすぎる!


「これもすごいーー!」


 結果、子供に戻ったあたしは本能の赴くまま、大道芸に魅入って拍手喝采したり、音に誘われるように歩いてみたり、踊っている人に混じって踊ってみたりと、ふらふらと移動していた。



「………おい」


 リヒトは遥か後方をのんびり歩いている。時折あいつの視線が背中に刺さるので、そのたびに正気に戻るが。

 またすぐふらふらと、気になる場所に足を運んでしまう。


 いやもう、楽しい町だなここ!


 そんな中、路上販売で売られていた綺麗な装飾品がついた手のひらサイズの箱が目に入った。

 蓋が開いている箱に小さな機械があり、そこから音楽が流れている。


「わぁ! なんだこれ!?」


 箱から音楽が奏でられた時には頭の中に雷が落ちたもんだ。


「凄く綺麗な箱から曲が流れている!」


「いい加減、五月蠅い」


 興奮して浮足立っていたあたしに向かって、冷徹な一声が後ろから響く。

 睨むように振り返ると、リヒトは呆れたようにもう一言かけた。


「浮かれすぎにもほどがある。ガキなんだから仕方ないって言うなよ。ガキなら世の中を勉強しろ」


 ぐっは――! 完全にバカにしてやがる!


 テンションが上がっているあたしが、言葉をかける前に彼を蹴飛ばしてしまったのは、説明するまでもない。


 ふっとばしてしまってごめん。ちょっと反省する。





◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



 

「へぇ、オルゴールって言うんだこの箱」


 次の日、ショーウィンドーに並んでいた箱を見つけて、そこの店員を捕まえて話を聞くと、やっと音楽が出てくる箱の名前を知ることが出来た。


 箱は手の平サイズから岩ぐらいの大きさまで様々だ。装飾も質素から豪華まで幅が広い。その分お値段もピンキリだけど。


「ええ、このガクラ町の名物品です。旅の方は皆買って帰られますよ?」


 店員の女性は一つの小さなオルゴールを取り出し見せてくれた。


 夜空を彩る星が箱全体に散りばめられた装飾で、蓋がパカリと開くと高い音程で軽やかなメロディーが流れ出す。


「女神さま叶えたまえ。それが、この曲のタイトルです」


 なんか、あんまり欲しいと思えないタイトル。


 だけど心地よい音にあたしは自然に笑顔を浮かべた。あたしの反応を見て、店員の女性が『さぁ! 商売よ!』と気合が入ったのがわかる。


「どうです! お客さん! 皆旅の方はオルゴールを買って帰りますよ? 値段は最高額金貨十四枚ですが、安くて銀貨二枚のもあります。お一ついかがですか?」


「いえ、旅費が少ないので結構です」


 迷うことなくキッパリと断ると、「そうですか」とガッカリする店員。


 ごめん。旅に不必要な物は極力買わないことにしているんだ。


「残念です。でも気が変わったらまた来てくださいね。他にもオルゴール店はありますが、私のお店では凝った装飾を他より安く提供できますから!」


「ご丁寧にありがとう」


 笑顔でお礼を言って、店から表通りに移動する。


 昨日はテンションがあがったため、加減が出来ず、リヒトは足を痛めてしまった。

 ちょっと足を蹴っただけ。だったんだが、筋肉を一部断裂させてしまった。

 とはいえ、回復薬使ったので今朝はもう歩ける。

 あたしの顔を見るなり心底嫌そうな表情を浮かべて、脳筋バカが。と呟いていた。


 意外にも怪我に対する文句はなかった。謝罪も必要ないといわれて気持ち悪い。

 予測できなかったあっちの落ち度だと思っているみたいだ。よく分からん。

 

 初日で色々あったが、今回は一週間の滞在だ。いつものように情報収集と旅の日用品補充を行う。

 

 ムート森で手に入った素材は、森の出口にある集落で高く買い取ってくれたので、その金銭が今回とても役に立った。

 ありがとう妖獣。また狩らせておくれ。


「さてとー。どこで情報を集めようかな」


 どうせリヒトが役所へ向かっているだろうから、あたしはその辺で噂集めかな。

 まぁ今日は適当にしとこ。

 こんな面白い町は観光しなきゃ損と思い、日用品の買い足しのついでに適当に散歩している。


 今は音楽通りと呼ばれている楽器店メイン通りにいる。

 進むたびに色んな店から特有の曲が流れており、もっと音が大きければ不協和音になると思うが、そこら辺も計算されているのか、うまい具合にまとまり一つの演奏曲が表通りのBGMとして聞こえている。

 

 お店の宣伝曲なのに凄い。

 

 しばし表通りを歩いて癒されながら、タオルと携帯食料を購入。薬草や薬品は必要な種類がなく、買うのを見送った。




「さてと、どうしようかな」


 買い物を終えたが、宿に戻るにはまだ時間が早いので、オルゴール店をいくつも梯子して楽しもうと思った。

 聞いたところによると二十軒以上専門店があるらしく、職人や店のオーナーの拘りが前面に押し出されて、個性的すぎる為、町の名物になっているらしい。

 それは見ておかないといけないだろう。


 ガラスが素晴らしいオルゴール、植物で作られたオルゴール、鳥や動物で作られたオルゴール、宝石を削って作られたオルゴール、鉱石を加工して火を噴いたり水を出したり輝いたりするオルゴールなどなど。


 人の感性の分だけ装飾があるような、そして曲も、それぞれ拘りが凄くてある意味圧倒された。


「ふわーー。堪能したぁ」


 陽が傾きかける。そろそろ宿に戻るとしよう。


「……ん?」


 裏路地から聞こえてくる音色に耳を傾けた。


「この曲、妙に気になる」


 惹かれたので路地を歩いて行ってみる。T路地を二回曲がって辿り着いたそこはオルゴール専門店。

 ど派手なファンタジック外見のお店に若干引きつつも、あたしはショーインドウの中から店内を覗き込んだ。


 あー、いろんな大きさの物があるわ。ここの特色はなにかな?


 窓から見えるオルゴールは、なんというか、『奇抜』だった。


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