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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第六章 武神夫婦合流
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少しの弱音①

 パッと目を開けると、本棚に囲まれた部屋にいた。あたしは仰向けに寝ていて、両腕だけ掛布団からでていた。

 辺りは真っ暗。時計を確認すると二時。夜中である。


 ここはどこだと考えて、リヒトの実家に寝泊まりしていたことを思い出した。。

 マズイな。一瞬だが記憶が混濁してたぞ。

 

 リヒトの精神攻撃を受けて、ぶっ倒れてから何も覚えていない。気を失って部屋に運ばれたんだろうな。恥かいた。


「モノノフにあるまじき失態。恥かいた」


 大事なことなので二回言う。


「あいつ完全に頭にきてたから容赦なかったな……そもそもなんであんなに怒ってたんだか」


 想像の域を出ないが多分、長殿に対して強い劣等感を抱いている。リヒトは常に比較されていたのかもしれない。

 長殿は立派な方なのにその息子はとんでもない人間だと揶揄され続けたのかもしれない。

 それで過敏に反応した。


 いやまて、反応するのは勝手だが、あたしに八つ当たりしなくても良いのでは?

 あとあの攻撃ヤバすぎね? どう防御すりゃいいんだよ。

 昔、母殿が言ってた毒電波ってきっとアレを示してるんだな、納得した。あの毒は対処出来ないぞ。


 あとなんだっけ。

 激怒したときに妙なこと言ってたな。


 ええっと…………あ、そうだ。

 あたしが長殿についてずっと考えてるって言ったんだっけ。


 いやいやいやいや、そんなわけないじゃん。

 何を思ってそんなアホな感想を持ったんだ?

 致死量の毒を注射されてこんちくしょうって思ってただけで、信頼してないんだが……どちらかといえば警戒してたんだけど。それが四六時中考えているに繋がったのか?


 百歩譲って、長殿を思い浮かべる確率が高いとしても、そこに信頼関係があるわけない。

 弱みにつけ込む以外、すぐに育つわけないだろ。


 長殿はリヒトの親で、ルーフジールで、綺羅流れの長だ。その立場を信用しているだけで、人格を信用しているわけじゃない。


 っていうか、そんなこと言い出すリヒトの方が、あたしを信頼してないってことだよな!

 あたしの行動うんぬんかんぬんよりも、あいつが行動を改めるべきだろ!

 まったく、考えれば考えるほど腹が立ってきた。


「あー。腹の虫がおさまらない。仕切り直ししてやろうか」


 とはいえ、無駄な火の子は浴びないのが得策だ。この件は終わりにするべきだよな。問い詰めても、無視されそうだ。


 あたしは両手で顔を隠しつつ、ため息を吐いた。

 さて、意識もはっきりしたから動いてみるか。


 体をゆっくり起こしてみる。

 思ったよりも体調いいな。

 頭痛もなく倦怠感もそれほどなく、精神も落ち着いている。


 ニアンダ殿の回復術を受けた時と似ているから、誰かがかけてくれたんだろうな。ネフェ殿のような気がする。


 テーブルに水差しとコップが置かれていたので、手を伸ばして取る。


 おや? 水じゃなくてぬるま湯……白湯だな。丁度飲み頃な温度っぽい。

 

 コップに注いで一口。うん、塩と砂糖も入ってる。微かにオレンジの味もする。

 もしかしたらさっきまで誰か居たのかもな。


 ちびちびと飲んでいると、スッと、音もなくドアが開いた。


「目が覚めたんだなミロノ」


「ははっ!?」


 入ってきたのは、黒い上下の長袖と長ズボン、肩に赤いストールをかけている……母殿である。

 ビックリしてコップを布団の上に落としかけた。


 やや疲れた表情をしているが、暗闇で目がギラギラ光っているから、間違いなく母殿だ!


「母殿!? どうしてここに!?」


 母殿は音もなくドアを閉めてから、手に持っていたお盆と食器をテーブルに置いた。そして幸せそうな笑顔を浮かべて、あたしの頭を優しく撫でる。

 その手がゆっくりと鎖骨に降りて、まだ寝ろと言わんばかりに布団に押しつけられた。


「ぐへ。痛い痛い。力加減へたくそ」


 文句を言うと、母殿が掛け布団をかけた。


「もう少し寝てなミロノ。まだ体が弱ってる」


 よしよしと頭を優しく撫でられるが、眠るには疑問が多すぎる。


「色々聞きたいことがある」


 あたしが体を起こすと、母殿が机に収まっていた椅子を引っ張り出して座った。

 足を組んで両腕を組むと、にやりと人を食ったような笑みを浮かべる。どうやら超ご機嫌のようだ。


「なら少し雑談しようか」


「母殿はいつ来たんだ?」


「一日前」


「は!? あたし丸一日寝てたのか!?」


 驚きすぎて大声を出してしまった。だが声がかすれてしまい、言葉の終わりで咳き込んだ。すぐに水を飲んでのどを潤す。


「そうだよ。ここについたら、あんたがぶっ倒れているとネフェから聞いてね。あんたをみて、正直少し慌てた。アホ共がコソコソ動いて、懲りない奴らだ」


 母殿の目に小さな怒りが灯る。

 もしかしなくても母殿に内緒にしてたんだな。

 親父殿、いま生きているんだろうか……。


 そして、あたしも滅茶苦茶絞られそう。

 ちょっと背中に冷や汗が出てきたな。


 あ、こっち見た。目が怒ってる。


「あんたさぁ、結構呑気だねぇ。毒で衰弱していた挙句、リヒトの精神攻撃くらって死ぬ寸前だったらしいじゃん。油断しちゃてほんと馬鹿。馬鹿馬鹿馬鹿。体のことを考えてなかったんだろ。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿」


 抑揚もなく一定のトーンで馬鹿連発は怖い。呪いでもかけられてる気分がする。


「だって、その、精神攻撃って頭にダイレクトにくるから、回避できる気がしない」


 脳の血管切れたかと思うくらい痛かったんだよな。頭やられたら駄目だ、動けなくなる。


「あら? リヒトと行動していたのにあまり受けたことないの?」


「ほとんど口論と無視だ。時々、風の攻撃がきただけ」


「あらら。ネフェみたい。あんた相当気を使って貰ったみたいね。あとで礼を言わなきゃ」


 母殿が感心したように頷いた。

 意味が分からない、とあたしが首を傾げると、母殿が「ああ、知らないのよね」と言葉を続ける。


「リヒトは感情が高ぶると無意識に広範囲に精神攻撃をしちゃうらしいわ。だからあまり起伏を激しくしないように注意しているようだけど……今回はルーたんに怒り心頭で、気持ちが静まらないうちにあんたと話したからうっかりやっちまったんだってさ」


「日を改めて話すればいいことだったじゃないか畜生」


 あたしは心の底からため息をついて、右手で額を触った。


 うん? 素肌の感触がする。

 額当てが外されている。

 寝ているから外されたんだろうな。


 あれ? 興奮しているのに光ってない。

 何故……まぁいいか。


「あんたの様子が気になったんだろうよ。仲良くなってて安心したね」


「可もなく不可もなく、まぁそれなりに」


 母殿は「そうか」と安堵したような息をはいた。ギラギラと光る獰猛な色なのに、妙に暖かくて安心感を覚える。


「母殿。旅にでて色々知ったよ。人の優しさと狡猾さ、自分勝手なのに他の人のために動く。人として当たり前の感情、想い、願い。それら全てが魔王に繋がっているってことを。絶望しかない。あたしは呪いを解けるんだろうか」


 終わりがみえないからやる気が減ってしまう。

 何をやっても全て無駄な気がしてくるし、かといって、呪印があるまま暮らすのも御免だ。鏡で自分の顔を見るたびに嫌な気持ちになる。ジレンマだよなぁ。


「あんた達ならやり遂げるはずさ」


 母殿の言葉は自信に満ちていた。なんなら表情もドヤ顔である。

 その根拠のない自信はどこからきてるのか、頭割って調べてみたいな。 


「あああどうも。適当な励ましは逆にやる気が削げる」


 本心を口にすると、母殿はきょとんと目を丸くして、すぐに不機嫌な眼差しを向けた。


「何いってんだい。あんたが自分のために奇跡を呼び込むんだよ」


 何言ってんだこの母殿。酒でも飲んでるのか?

 あたしが不審そうに見ていたことに気づいたようで、母殿がやれやれと肩をすくめて呆れた顔を向ける。

 いやいやなんでそっちが呆れてるんだよ。あたしが呆れたいわ。

 

「奇跡はある。努力を続ければ奇跡が起きるタイミングがある。それを逃さなきゃいいだけだよ。私には奇跡が起こった。だからあんたにもきっとおこる。私の娘なんだから」


 母殿がノリノリだ。話半分に聞いておこう。

 長い話に耳を傾けていたら、あたしを授かったことが奇跡だという内容であった。


 そういえば母殿はこうみえて体が弱く、子供を産める体ではなかったらしい。でも何の因果か、あたしができた。

 二人目を産むと死ぬとか言われたので親父殿が一人で良いと決めたみたい。


 でも伯父ちゃんはルーフジール家では一人は少なすぎると文句言ったようで。

 まぁ親父殿は母殿以外の女性を娶ることはしなかったけど。

 伯父ちゃんとこは子供多いから別に良いのではと思ってるけど。


 母殿が超必死で奇跡を語っている。

 聞いても退屈なので、そろそろ話を逸らすかな。


読んでいただき有難うございました!

更新は6/19木曜日です。

物語が好みでしたら応援お願いします。創作意欲の糧となります。

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