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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――久しぶりの親父殿――
237/279

親の心、子迷惑④

 言葉が出ないな。

 毒かウィルスかわからないが、これ摂取すると思うと気が重い……。


「やめますか?」


 ほんのり期待したような声色だったが、あたしは首を左右に振った。親父殿の依頼ならば受けなければならない。


「やるに決まってる」


 長殿は呆れたような表情になる。


「貴女のその無駄なガッツはなんでしょうね?」


 やめろよその馬鹿を見るような目。

 こっちだって考えてるんだ。


「どのみち、スートラータエリアで魔王討伐するのなら、少なからずそのガルダンラバーとやらに出会うだろ。刺される可能性の方が高い。耐性をつければ御の字、駄目であたしが死ねば……あいつもそこに行こうなんて思わないだろ。無駄死にしなくてすむ。危険を避けて通れるならその方が良い」


 長殿め、手で顔を隠しやがった。笑いたいなら普通に笑えよ畜生。


「いえ。違います。なんかこう感動して」


「はあ?」


 長殿はぎゅっと目頭を押さえる。


「そんなにリヒトのことを考えてくれてるなんて。流石あの二人の子供。懐が馬鹿みたいに広くて深い。ここまでくると愚かではなくありがたみの極みです。ミロノさん、やっぱファスの依頼やめませんか?」


「話聞いてた? やるって言ってんだろ」


「はぁ……決意がアホみたいに固いので仕方ありません。準備しておきます」


 長殿は肩をすくめてから、書斎の奥を示した。


「ここからは見えませんが、あそこに研究室があります。感染を中心に危険な毒や細菌やウィルスを保管しています。もちろん解毒剤できないものばかりです。そこなら浄化紋や医療紋が整っていますので万が一にも対応できます」


「わかった」


 頷いてみるものの、一つ心配事がある。

 寝たきりになったときの排泄物処理だ。家では母殿がすべてやってくれたが、ここでは……。

 ちらっと長殿を見ると、彼はうんうんと頷く。


「ベッドに特殊な紋を組んでいますので自動で血液のろ過ができます。排尿は必要ないです。便については前もって出してもらえばいいかなと思います。腸の中が空っぽの状態で発動すればそれを維持できますから。栄養は点滴ですませます。私は極力体に触れないようにしますので頑張ってください」


「ちょっと気になるんだが、それって鉱石機材ではなくて紋で済むのか?」


「はい。過去の遺産は凄いですから。普及していませんが防護服と同様の効果を持つ紋もありますよ」


 紋の可能性はすさまじい。

 あたしも紋を覚えれば色々なことに使えそうだな。頑張ろう。

 ひっそりと意気込んでいると、長殿が両手を組んで天井を見つめる。


「では決行ということで。そうですね……今晩にでも全員外出させる用事を伝えます。明日の朝、全員が出払ってから行いましょう」


 頷くと、長殿はあたしに視線をむける。考えている顔は無表情だな。


「ですが問題が一つ。ミロノさんはすぐに読まれてしまうことですね」


 ここでは隠し事できないって知ってるけども、グサリ、と心に矢が刺さる。


「特にリヒトが。私がどんな会話をしているのかさぞ気になっているでしょう。ここから出れば即バレ。これでは困ります」


 ぐっと言葉に詰まる。

 現にやましい計画を立てたばかりである。バレないように身構えたら余計不信感を与えそうだ。


「いえ、まぁ、これは貴女が悪いんじゃなくて仕方ない事です。リヒトはなんかこう、私に対して風当たり強いので。どこか信用されてないんですよね」


「親からの自立じゃないか? 誰しもそんな時期が来ると母殿が言ってたぞ」


 自立の欲求で父親から独立したいと強く思うようになることと、他の人の影響を受けたためモデルの変化があるって。伯父をあれだけ慕っていた従兄弟達がある時期を境に反発ばっかしてたから、それと同じなんだろうなぁ。


 長殿は瞬きを数回行ってから苦笑をした。ちょっと泣きそうな顔に見えるのは気のせいだろう。


「そうかもしれませんね。では、ミロノさんに精神ブロックと暗示をかけさせて頂きます」


 聞きなれない言葉だが「ほう?」と相槌をしてみる。


「一時的にここの話を全て忘れてもらいます。僕が『準備をしますよ』と声をかけたらすべて思い出すようにします。書斎くるついでに外に出るときの荷物を持ってきてください」


 忘れることができるのかという意味を込めて「ほう?」と疑問形で聞き返してみる。


「貴女が覚えているのは『ルゥファスとの会話』です。僕との会話も多少覚えておいてください。そうですね。『リヒトの反抗期について』くらいにしましょう。そして『明日は紋の本を取りに行くため書斎室に来る用事がある』ので家に誰もいなくなってからこちらに来てください」


「それ以外は忘れるということか」


「ええ。読まれないためには忘れるのが一番ですから」


 本当に忘れられるんだろうか。

 嘘臭いなぁ。

 でもまぁ、長殿がそう言うのであればそうなのだろう。


「念のために自分宛てに一筆書いておきたい。それを長殿に渡すから、あたしに差し出してくれ」


「それで確信が持てるならそうしましょう」


 紙と筆をもらって一筆。『親父殿から依頼承諾済み』と書いて渡す。

 長殿は懐に仕舞うとソファーから立ち上がりあたしのほうへ近づいた。


「ちょっと頭を触らせてくださいね」


 前回の激痛が脳裏をよぎって、あたしは逆に頭を逸らした。どうしても嫌そうな顔になってしまう。


「大丈夫です。全く痛みはないですよ。ちょっとぼーっとするだけです」


 信じられなかったが、やるしかないので頭を差し出した。

 ううう、どのくらい痛いんだろうか……。


「大丈夫」


 長殿は頭を優しく撫でるが、あたしは内心ビクビクだ。痛みに備えてぎゅっと目を瞑る。

 しかし痛みはなかった。

 少し撫でられた後、長殿はゆっくりと手を離した。


「どうです?」


 問われた。

 何を問われたんだろうかと首をひねる。長殿は席に戻ると深々と腰を下ろした。


「久々にルゥファスと話をしてどうでしたか?」


 ああ、その事だったか。


「水晶から声が聞こえて最初は疑っていたが、本当に親父殿だったから驚いた。あれも古代の技術なのか?」


「正確にいえば戦乱の時代に開発されたものですね」


 長殿はずっと探る様な目をしている。あたしなにかしたっけ?

 他には、と聞かれたので、二人の会話について感想を述べてみた。


「親父殿と長殿があんなに仲が良いとは意外だった」


 親父殿から長殿の話は聞いたことない。きっと聞かれないように注意していたんだろう。


「武器防具も持ってきてもらえそうで良かったですね」


「ああ。まさか来るなんて予想外だった。会える日が待ち遠しい」


 修行もしてもらえるのも楽しみだ。


「ルゥファスに依頼されて、ミロノさんも大変ですね」


「…………は?」


 長殿の発言にあたしは首を傾げる。

 親父殿から何か依頼されたかな?

 そんな気がするが……いや、そんなものあったか?


 今までの会話でそんなことなかったような……えっとまず近況を報告、親父殿と長殿の会話があって、そうそう長殿の愛称がルーたんだったっけ。ネフェ殿以外は四では駄目だと怒っていた。あとはスートラータエリアにいくなら稽古つけてくれるからわざわざ親父殿と母殿が来てくれる。人攫いの時期じゃないってのも大きいな。


 あとは……ええと……何もないよな?


「長殿、親父殿からあたし宛てに何か言付があるのか?」


 聞き返すと、長殿は首を左右に振った。


「失礼。僕への依頼でした。貴女のサトリ対策を任されています。まぁネフェに一任しますけどね」


 あたしは頷いて「話はこれで終わりか?」と聞き返す。

 長殿は涼しい顔で「終わりです」と告げた。


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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