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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――久しぶりの親父殿――
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親の心、子迷惑③

「長殿には申し訳ないが、親父殿がああいってる以上、あたしは毒を摂取する。親父殿の思いつきはタチが悪いことに正解が多い! 畜生!」


 吐き捨てるように言って胸をどんと叩いた。

 長殿はふぅと静かに息を吐く。


「そう決めたのなら私は何も言いません。ですが、一つ約束してくださいミロノさん」


「なんだ?」


どんな約束なんだよ。

ちょっと身構えちゃうだろ。


「リヒトに聞かれたら、『私が提案したことではない』としっかり伝えてください」


「……は?」


 命の危機を感じているような、かなり真剣な表情である。

 どうしてそこまで迫真なのか分からないけども、まぁ、断る理由はないので頷いた。


「それは勿論」


「絶対ですよ! 忘れないでくださいね! 親の威信がかかってますから!」


 グッと眉間にしわを寄せて何度も念を押してくる。なんかとても必死だ。


「や、約束する」


「お願いします」


 長殿はすこし疲労したようにソファーに深く座った。


『というかミロノ。ルゥファス殿を長殿と呼んでいるのか?』


「そうだ。あの人は村の長だろ? 偉い人だからそれなりの名で呼んでる」


 親父殿が『はぁ?』と不満の声を上げた。


『そいつに長殿なんて仰々しい! ルーたんでいいんだ!』

「ふざけるな!」


 長殿が顔を真っ赤にしてソファーから立ち上がると、唾を飛ばす勢いで叫んだ。


「その名はネフェに呼んでもらう愛称です! あなたですらルーたん呼びを許してませんけど! 面白半分で呼ばないでください不愉快です!」


『ルーたんをルーたんと呼んで何が悪い!』


 親父殿が揶揄った口調で応戦すると、書斎室がピリッとした空気に包まれた。ドス黒い圧が長殿を中心に放たれる。これキレたかな。


「ファス、いい加減にしなさい。そろそろ殺しますよ」


『ほほう。その喧嘩買ったぞ! そちらに行くのが今から楽しみだわい!』


 二人は名前を分けて呼び合っているみたいだ。

 まぁ同姓同名だから呼びにくいよな。あたしも親と同じ名前の夫婦をどう呼べばいいか迷うから、当事者にとっても同じことだろう。


『儂だと嫌でも若い娘ならいいのではないか? ミロノもルーたんと言ってやれ』


 こっちに振るんじゃねーよ。答えは一つしかねーだろ。


「嫌だ」


『遠慮せんでいーぞう?』


「いい加減にしろ。どこの世界に知り合いの父親を『たん付け』するやつがいるんだ。あらぬ誤解や弊害ばかりか男の趣味さえ疑われるじゃないか」


『るーたんは良い男だが?』


 だめだ。親父殿の論点がズレ始めた。正す必要がある。


「だったら里に帰ったら真っ先に伯父ちゃんに会いにって、『おじたん』って言いながら媚び売ってやる」


『儂がすまんかった。ふざけ過ぎた。止めておくれ』


 親父殿と伯父さんは兄弟の絆は強いんだが、互いの嫌な部分が勘に触るのかよくケンカしている。本当に五歳児の言い合いレベルだけど、やってることは戦闘なので巻き込まれるとマズイ。

 

「まだお兄さんと仲が悪いんですね」


 いつの間にか長殿は席に座っていた。

 落ち着きを取り戻したか涼しい顔をしている。


『おお互いの主張が食い違うからのぉ。あやつはミロノが大好きすぎてのぉ。儂の子だというのに勝手に育てようとするし方針に口出しするし、何よりデレデレした顔みると虫唾が走る』


「そんな風に見えませんでしたが、そうですか」


 長殿はクスっと笑った。


「僕の方はもう、血を分けた兄弟は全滅しましたから。ちょっと羨ましいですね」


 二人しか分からない会話だなぁ。

 気になるがさっさと用件を終わらせてしまいたいんだが。

 口出しするタイミングがない。


 長殿がチラッとあたしをみた。


「すみません。ファスと話をするとどうしても話が弾んでしまって」


 よし本題に戻そう。


「あたしは毒を摂取しようと思うが、長殿に一つ頼みがある」


「なんでしょう?」


「万が一、あたしが毒に負けた場合、親父殿に生き地獄を」


 真顔でいうと、長殿は悪い顔を浮かべた。「クックック」と喉から笑い声を出しながら首を左右に振った。


「貴女が死んだ段階で、ルゥファスに待っているのは生き地獄ですよ。ご心配なく」


「そうか。それならよかった」


 万が一の場合、元凶にはしっかり償ってもらわないとな!


「あいつは子煩悩ですからね」


『分かった。手足をもいで生きながらえよう』


「村の守りがあるから足手まといになるのは止めてくれ」


『クックック』


 あたしが毒に勝つと確信しているようだな。お気楽者め。

 親父殿はこちらの心情を読んだのか大笑いし始めた。声だけ聴くと悪役だな。


『それでこそミロノだ。猛々しい我が子よ。また二週間後に会おうぞ』


「待ってるよ親父殿」


『ではルゥファス殿。儂はこれで失礼する。また何かあったら連絡をよろしく頼む』


「分かっています。僕も会える日を楽しみにしています」


 そして水晶の光が消えて透明になった。

 長殿は立ち上がり水晶を本棚の空白の場所に置く。


「さて。今晩はゆっくり休んでください。明日の朝食の後に行いましょう」


「今からでも大丈夫だが?」


「いえ……できれば二人だけで行いたい」


 何故と聞くと、長殿は苦虫を潰したような表情になった。


「私は投与に納得していません。この毒をしっている妻は真っ先に反対するでしょう。貴女が毒を投与すると知れば泣くかもしれません。泣かれると私は何もできない。そうするとファスとの約束を守れない。それも困ります」


 どっちの顔も立てたい複雑な心情だな。

 まぁ、どうでもいいけど。


「ですから、実験の間は山に修行に行ったと嘘をつかせていただき、こっそり行いたいです」


「その辺りは長殿に任せる」


 了承したが、ふと、リヒトが浮かんだ。

 これは隠さないほうがいいな。


「あいつに話してもいいか?」


 長殿が「え?」と驚いた声を上げたので、あたしも「え?」と疑問の声を上げた。

 喋っても良い内容だろう?


「リヒトに、ですか?」


「あ、ああ……親父殿から依頼を受けたと伝えようと思うんだが」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる長殿。


「え、ええと……ちょっと待ってください」


 視線を泳がせながら、天井を見上げて考えて……そうして意を決した顔になった。


「……いえ。内緒にしましょう」


「なんで?」


「リヒトが知るとすぐに妻に伝わります。妻は子供の感情がよくわかりますからね。リヒトも彼女には素直なのですぐにばれます。隠す意味がなくなるでしょう」


「それはそれでいいのでは?」


「いえ、リヒトの行動が分からないので黙っていましょう」


  おい、なんでそんなにウキウキしてんだよ。悪いことを思いついたような顔になってんだよ。嫌な予感がするなぁ……。


「ミロノさんがちゃんと合意の上で毒の投与をしたと説明して、私は最後まで反対していたと伝えてくれれば大丈夫です」


「まさかリヒトの反応をみたいためにあたしを利用しているのでは?」


 長殿が黙った。笑顔は崩していない。

 ツッコミもこない。


 ガチだ。

 ガチでリヒトの反応をみたいのか!?


「いえいえ滅相もない。貴女が決めたのなら反対はしないでしょう。倒れた後に妻と甲斐甲斐しく世話するかもしれません」


「世話するかは置いといて、あたしが耐性持ちだとあいつも知ってるぞ。どうして秘密にしなければならな…………もしかして」


 一つの可能性に気づいた。


「その毒は、人から人へうつるのか?」


 長殿がゆっくりと表情を変えて、ちょっと困ったように眉を下げた。


「正解です。確認されているのは体液感染です」


「体液感染……吐しゃ物? 食中毒に似たもの?」


「いえ、汗や血液です」


「なんだそれダメじゃんか!」


「あと咳による飛沫感染と若干の空気感染」


「もっとダメなやつ!」


 体液・飛沫・空気感染の神経毒っていったい何なんだよ!

 それって毒じゃなくてウィルスだよなぁ風邪とかのやつ!


「まぁまぁ、落ち着いて。さらっと説明しますと、発見された神経毒はガルダンラバーと名がついた死霊が持つ毒です。刺されると有害物質が投与され心臓の筋肉細胞を破壊して心不全で死亡します。最長で十八時間ほど生存可能です。問題はその後」


 ごくりと生唾を飲む。


「死を迎えるとなぜか腐敗速度が速まります。二十四時間で三日放置したような遺体となり顎から下だけの体が溶けていきます。骨も残らず全て溶けてしまうのが五日前後です。その間ずっとガスが噴出します。溶けていく際にでてくる体液とガスに毒が含まれており、触れると毒を受けた時と同じ症状を引き起こしますが、一週間ほど長く生き延びられます。最初に気づいたのは前回参加した綺羅流れです。ガルダンラバーから毒を採取して持ち帰ました。私の方で無毒化の研究をしていますが、いまのところ解毒剤は出来ていません」


 長殿はにっこりと、哀れみの目を向けて笑った。


「刺されたら打つ手なしです」


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