表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わざわいたおし  作者: 森羅秋
――武器防具修理――
223/279

鍛冶屋へ行く③

 走り出してから五分。鍛冶屋の看板が見えた。

 太い煙突があるレンガ造りの家だ。雪で覆われているので看板なかったら素通りしていたかもしれない。

 到着したのでクルトを下ろす。


「わぁ。楽しかったです!」


 目をキラキラさせながら興奮したようにガッツポーズをしていた。


「ここでいいよな?」


「はい。ここが」


 ガチャっとドアから人が出てきた。

 歳は三十代過ぎで身長180センチの大柄で細マッチョの男性。黒髪の黒目で短髪。煤で汚れた薄着の長袖を腕まくりしていた。体から水蒸気が発しており、それに当たった雪が水滴になる。

 拳以上の大きな鉱石が沢山入っている木箱を抱えて出てきたが、あたし達に気づいて「あれ?」と声を出した。


「あれー?」


 男性はあたしを凝視する。木箱を持ったまま近づいてきて、あたしの正面に立つと腰をかがめて覗き込むように顔を見ている。


「あっ!」


 男性は木箱から手を離して鉱石を雪の上に全部落とすと、あたしを指し示した。


「ミロノだ! いやぁ懐かしいなぁ。もう旅に出ていい歳になったのかー」

 

 本当ならまだなんだけど……。

 そう思いつつも男性を見つめる。記憶を遡っても中年男性に見覚えがなかった。顔がうろ覚えなのがネックだ。そのせいで年を取った顔を想像することができない。


 あたしが戸惑っていると男性は自分を指し示した。


「俺だよ俺! ベイジェフ=クラレント!」


 オレオレ詐欺とあたしが思い浮かべたほぼ同じタイミングで、「オレオレ詐欺」とクルトも小さく呟いた。


「なんかベイジェフ=クラレントと思えない。こんなに細マッチョじゃなかった。皺も深くなかったし。肌はつるつるしていたな。なんかもっと、ひ弱な優男イメージだったんだが」


「ひっどいな! 年取ったんだよ! 歳を! ミロノも今は若いがそのうちおばちゃんになるんだぞおばちゃんに!」


 大げさに嘆かれたのであたしはやや間をあけて声をかける。


「悪い、覚えていないんだ」


 正直に話すと、ベイジェフは参ったというように頭を掻いた。


「っていうか忘れてるよなぁ十年以上前だから。ミロノは四歳か五歳くらいか? よく名前を憶えていたもんだ」


「親父殿の十番目の刀鍛冶弟子ってことは覚えている」


 へっくしゅん、とベイジェフがくしゃみをした。そんな薄着で雪の中に出てきているから仕方ないな。

 あたしはしゃがんで落とした鉱石を拾い集める。すぐにクルトも拾い集めた。


「へへへ、すまねぇ。あ。坊ちゃんこんばんは。二人とも中に入ってくれ」


 右手の人差し指で鼻の下をすすりながら、左手で木箱を持ち上げる。その中に拾った鉱石を入れるとベイジェフは右肩をくいっと上げて家の中に入った。あたし達もそれに続いた。


 店内のカウンターに通される。壁に日用品のナイフやら包丁やら斧やらが置かれていたり、武器である剣やら刀やら鉈やら置かれていたり、防具もマネキンに着せて何着か置かれている。


 どちらかといえば日用品の割合が多い。武器は片手で扱える軽そうなモノ中心で、防具は皮や鉄を中心とした鎧が少し、後は特殊な布を使ったローブやコートなどが目立つ。


「悪いな。今日は店閉めてるから暖房効かせてないんだ。ちょっと待ってろ」


 ベイジェフは壁に設置されている暖炉に火を灯した。灰を動かしてスペースをあけ、横に置いてある薪をくべる。火が安定すると、店内にあった椅子を二つ引きずって暖炉の傍に置いた。


「ここ、適当に座れ」


 あたしとクルトは顔を見合わせて椅子に座った。


「早速だけど、ベイジェフさんに見てほしいものがある」


 持ってきた袋を示すと、ベイジェフが奇妙な顔をしながら近づいてきて、あたしの前にしゃがみ込んだ。

 しょんぼりしながら、ベイジェフは頭を掻き始める。


「ミロノ、俺の呼び方忘れたのか? ベイ兄ちゃんって言ってくれてたのに」


 覚えてないな。記憶に残ってないかもしれない。

 眉をひそめて首を傾げると、ベイジェフが身振り手振りで昔を語った。


「そりゃ、坊ちゃんよりも小さかったから仕方ないって思うけど、あんなにお兄ちゃんお兄ちゃんって言ってくれてたのにショック」


 そして見上げつつあたしをジッと見る。


「いやしかし、やっぱり大きくなったなぁ。予想以上に美人じゃないか。お母さんに似てよかったなぁ。師匠に似なくて本当によかった。おにーさんの心配事一つ減ったぁ」


 今度は腕を顔に当ててうそ泣きをする。ちら、ちらとこちらの様子を伺う顔はひょっとこのようだ。

なーんとなく、ベイジェフについて詳しく思い出してきたぞ。

 リアクションがとても面白くて、彼の動きを見る為に四六時中引っ付きついて回っていたかな。ベイジェフが居なくなったら娯楽刺激が一つ減って大変悲しみを覚えた記憶がある。

 あたしは苦笑した。


「その動き見ていたら思い出してきたわ。ベイ兄ちゃん」


「だっろー! そうだと思った!」


「調子いいな」


「俺だからな。で、頭撫でて良いか?」


「どうぞ」


 あたしが頭を差し出すと、ベイジェフは立ち上がって大きな手で頭をやんわりと撫でてくれた。これも覚えがある。昔もよく撫でてもらっていた。大きな手が若干小さくなったように感じるのは、あたしが成長した為だろう。

 頭から手が離れた。ベイジェフは鼻水がでたのか鼻をすすった。その手が頭を撫でるときは逃げないといけない。


「ここまで来れるほど強くなったんだなぁ。あんなに小さかったのに」


「まあ、色々あったけど……」


「絶対に旅をするだろうからいつかは来ると思っていた、こんなに早いとは思わなかったが」


 ベイジェフはあたしが持ってきた袋を見る。


「用件はこれだったな。中をみていいか?」


「壊れたから直せるか聞きに来た」


 あたしは布袋からシルクチェインのベストを出してベイジェフに渡した。彼はシルクチェイン持ちあげ表裏を確認して、裏を見るなり眉を潜めて「あちゃー」と声を出した。


「こりゃー、ザックリだな。相当、腕の良い奴と戦ったみたいだな」


「お陰で、一枚で済んだ」


「そりゃ、防具冥利に尽きるってもんだな」


「直せそう?」


「材料取り寄せるから一か月くらいはかかる」


「そっか、分かった」


 ベイジェフはあたしの服装をジロジロみてから、立って椅子から離れるように指示した。

 立ちあがって数歩椅子から離れると、ベイジェフが厳しい目をしながらぐるぐるとあたしのまわりを旋回する。「うーん」と難しい表情を浮かべて、ビシッと指であたしを示した。


「ミロノ、どうやら出発時の時よりも大分身長が伸びてるみたいだ。これだけじゃなく、全装備の手直しが必要になる。明日、今の装備一度全部持ってこい。採寸して作り直したほうが良いがどんなものをつけているのか調べる」


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ