表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わざわいたおし  作者: 森羅秋
第四章 賢者ルーフジール
217/279

災厄の探究者④

 疲労回復させるため、お菓子をつまんで食べる。

 甘くておいしい。


「さて。魔王についてお話ししましょう。セアは兄達の事を調べていくと同じく、突然発生した未曽有の災害にも目を向けました。精霊たちの協力によって、呪詛となった兄達の力であると突き止めました。この頃はまだ闇の精霊の属性だったようですが、それから500年の時を得て力を蓄え、今は大精霊になったと考えられます」


 ぶはっと、あたしはお菓子を吹き出しかけた。

 咄嗟に両手で押さえて急いで飲み込むと、「大精霊だって?」と慌てて質問する。


「精霊が力を増すのは人々からの祈りです。まず勇者としての知名度、信仰心、希望の祈りがあり、そして魔王としての知名度、恐怖心、絶望の祈りがあります。名前は違えども同人物。二つの異なる祈りが重なり合ってあっという間に世界の基盤になってしまいました」


 長殿が呆れたような表情でさらりと述べた。あたしは頭痛がする気分になる。


「うわぁ凄いな、名声も悪声も総取りシステムなんだ」


「凄いですよね。感心します」


 長殿も左の耳横の左指をつけながら、やれやれと首を横に振る。


「今後は他の精霊たちを浸食し始め同化します。その兆しもありますからね。このまま放置すれば数百年後には、人々は知らず知らずのうちに魔王を崇拝していることでしょう。各地で災いが発生するのが当たり前になる世界がくるはずです」


「は?」


 さらりと今、怖い事言った。


「災厄が自然を浸食するだって?」


「父上、それは一体」


 今まで口を挟まなかったリヒトから信じられないという声が上がる。

 先ほどまでの説明の内容はある程度知っているが、今の発言は全く知らないということのようだ。ほんと分かりやすい。


 質問はリヒトに任せよう。あたしはちょっと休憩。

 またお菓子を口に入れる。甘くておいしい。


「簡単な事だよリヒト。凶悪なる魔王は災厄の大精霊。属性は闇。闇は光の双子でもあり、光の裏でもある」


「まさか……」


 リヒトが驚いて声を失くす。

 長殿は渋い表情になりため息を吐いた。


「さて、ここで近年頭を痛めている問題を教えよう」


「教えてください」


 リヒトの真剣な眼差しを受け、長殿がにやりと笑って足を組んだ。


「とある大富豪……王都の物流を一手に担う商売人だけどね。二週間前のことだ。勇者への祈りが光の精霊の力と同じ効果をだしたと世間に公開した。これは大発見だと国中が湧いている。年々弱っている精霊に代わりに勇者への祈りを術式に変化させ、力の恩恵を受けようと計画を立てている」


 なんだって? 理解不能なんだけど。と困惑するあたしを余所に。

 リヒトは全身を硬直させながら、うわずった声を出す。


「マジかよ。勇者の名が精霊並みの力を持つまでになったのか? 闇と光、これではまるで……」


「どーいうこと?」


 何気なく聞いてみると、リヒトがこっちを見た。


「ここに来る途中で話しただろう? 『祈りは名を与える、名は存在を与え、存在は力を与える』って。沢山の祈りが勇者の名に存在と意味を与えたんだ。魔王が光の能力を得たのならそれは、大精霊、つまり天の精霊アイエーテルが浸食され始めたと考えられる」


 長殿が「その通り」と拍手をする。


「おかしい話ではないよ。この大陸は双子の勇者を崇拝している一族が多いから、毎日どこかで誰かが平和を願って祈っている。私からすれば、ついに気づかれたって感じかな」


 リヒトは若干前かがみなりながら、手を強く握る。


「つまりその商人の術式が完成して世間に流通すると、アイエーテルに祈りが届かなくなれば存在が揺らぐ。その隙をついて魔王が一気に分布を広げて大精霊に成り替わる。となればより一層、魔王出現の頻度が多くなる。もしかしたら他の精霊も浸食されている最中かもしれない。これが続けば精霊は消滅し、魔王が世界の要となる」


「術式の完成は今すぐではない。でも遅くてもあと百年くらいしたら使用できるレベルには達するだろう、その後はそうなる可能性が高い。というか一気にその流れになってしまいます、私たちが死んだ後の話ですが」


「なんてことだ……」


 事の重大さをヒシヒシと感じているのか、リヒトは頭を抱えている。

 あたしは腹が減ったのでネフェ殿とお菓子を食べる。二人して食べているのでサクサクサクとテンポ良い音が室内に響いた。

 リヒトは頭を抱えるのをやめて起き上がると、ジト目を向けてきた。


「お前、全くわかってないな」


「その通り」


 あたしはもうついていけないので、考えることを放棄している。


「俺たちは他人事じゃないんだ、聞け」


 リヒトはネフェ殿を軽くソファーの背に押しのけて、こちらに距離を詰めると、真剣な目を向けた。


「今まで人や物を依代にしていた魔王が、今度は自然界の、例えば火とか水とか土とか、自然界のモノを依代にして災いを発生させることになる。対処しようにも魔王化したアニマドゥクスは役に立たないはずだ。魔王の意向に沿うことでしか発動しないからな。そうすると攻撃方法が物理一択になる。しかしそこまでになると衣食住など生活の全てが魔王の配下になるので、倒すことすらできなくなり一方的にやられるってことだ。これなら空洞の数多でも理解できたか?」


「それはヤバイ!」


 あたしも事の重大さに気づいた。


「それはまぁ、私達の死んだあとの世界ですけど」


 長殿が苦笑いすると、リヒトがギッと睨んだ。長殿は「失敬」といいながら口元に笑みを浮かべる。


「こいつにはこのぐらいの危機感が必要です」


 リヒトはイラっとしたように目を細めながら静かに座り直した。


「ここ邪魔かしら?」


 ネフェ殿がリヒトに聞きつつ腰を浮かせる。


「いいえそのままで」


 眉をひそめたリヒトが手で制したため、ネフェ殿はちょっと残念そうに唇を尖らせて座った。

 長殿は口元を手で隠しているがニヤッとしている。リヒトを眺めるのがとても楽しいらしい。


「現在、こちらから刺客送りこんで調査中です。散々ひっかきまわすか、無効化させることにしているからそこまで心配しなくていい」


 あっけらかんと軽く喋っている。

 つまり、軽視していいレベルではないが現状は切羽詰まっていない。今ならなんとか方向転換できるから、必要以上に心配するなってことだな。


「父上、そいつら本当に役に立つのか?」


 リヒトが怒りを含んだ声色になる。言葉に重みがあるので、過去になにか事件があったんだなこりゃ。

 ヴィバイドフもだがどこも一枚岩じゃないもんな。


「勿論、この件は私が信用している者に任せています」


「前にもそう言っていませんでしたっけ?」


 長殿が困ったように首をすくめた。


「もうその話はぶり返さないでください。あの時は泳がせていましたと何度も説明したでしょう?」


 リヒトから表情が消える。


「……俺はここにはとどまりません。なにかあっても、気づくことも対処も遅れます」


「貴方は外に出た者だ。こちらのことは気にせず、やるべきことをやればいい。でも、いつも気にかけてくれてありがとう」


 長殿は暖かい笑みを浮かべたので、リヒトがムッとして目線を下に向けた。


「こーいうとき普段の行動がモノを言うのよね。リヒト君から信用を得られないのも仕方がないわ。同じ轍を踏まなきゃいいわね」


 ネフェ殿が、ざまぁ、と鼻で笑った。

 なんだか妙な空気になったので、話題を変えた方が良いだろう。

 あたしは挙手しながら長殿に話しかけた。


「その商人の名を知りたい。教えていただけるだろうか?」


 質問を聞いて、長殿から笑みが消えて真顔になる。片眉をあげて、「うーん」と小さく唸りながら、落ち着きなく顎を触った。

 

 これは言い渋っている。

 何か問題があるのだろうか?


「うーん。リヒトは兎も角、ミロノさんは知らないほうが構えなくていいと思うんですよねー」


 あたしが「えー」と不満をだすと、長殿の口角が下がった。


「君、良くも悪くも正直者だから、あちら側のサトリに出会ったら即アウトです。むしろ、伝えたこっち側の情報が漏れる方が高い。だから欲を言えば絶対に接触してほしくないんですよねー」


 くっそ! 言い返せない!



読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ