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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第四章 賢者ルーフジール
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災厄の探究者②

 セアは騎士団長を頼った。彼は渋々『ミウイ姫ならばわかるかもしれない』と答える。

 このころは巷でミウイ姫と勇者の悲恋が噂されていた。勇者リヒトがミウイ姫と密会しており、王や家臣、そして勇者ミロノもそれを祝福していたと。しかし想い人が亡くなりミウイ姫は失意の底にいるという。


 兄を知っているなら何か知っているかもしれない。

 セアはミウイ姫に会う方法を模索していた矢先、お忍びで下町に来る情報を掴んだ。

 警備強化されていることを踏まえ、花売りに成りすまして近づくことにした。


 情報通り、ミウイ姫は城下町を歩いていた。

 騎士たちを数人連れて身分を隠さず堂々と歩いていた。町の者はすぐにミウイ姫だと分かったようだ。好意的な会釈をして遠巻きにみていた。


 ミウイ姫は良くも悪くも見た目は普通の女性だった。

 輝く金色のロングヘア、まつ毛の長く、澄んだ青い目、色白で透明な肌、小柄でややぽっちゃり体形。にこにこと口の端を上げて、目が合った人たちに愛想よく手を振っていた。


 ミウイ姫、あれは人間なのだろうか。とセアは疑問が浮かんだという。

 なにかとてつもない禍々しいモノを背負った、人の皮を被った妖獣だと思った。彼女は途方もない人たちを殺し、その中に兄達が含まれてしまったと直感した。


 不意に目が合った。にこりと笑うミウイ姫に、セアは背筋が凍る気持ちを覚え咄嗟に、好意的な笑顔を返しながら会釈をした。カチカチカチと心の底から震えがくるが、顔を上げるとミウイ姫はいなかった。

 難を逃れた、と思った。


 セアは兄達を殺したのは彼女だと確信した。しかし自分では歯が立たないことも同時に悟った。

 仇を討つことも、兄たちの死の真相もきっとわからない。

 でもせめて遺体は見つけて弔おうと決意した。

 この時、セアは二十三歳であった。


 王都に長く滞在した中で、セアは伴侶を得て子供を授かった。

 伴侶ことチェスタスがハレック族だと分かり、子供達が長旅に耐えれるくらいに成長すると二人は王都から出た。新しい家族ができたがセアの目的は変わらない。

 チェスタスに理由を話し同意を得られたため大陸中を移動しながら兄たちを探した。


 転機が訪れたのはセアが五十歳の頃である。

 そのころは子供と孫がおり、総勢十七名で遊牧を行い、各地を移動しながら名もない村の妖獣退治依頼を請け負っていた。


 トゥレイフ地区に立ち寄ったとき、セアは生き物が住めない『死の沼地』の原因調査依頼を受けた。子供と共に沼の水を干上がらせ泥を漁り、植物や泥に埋まっている動物の骨などを調べていた。


 そこで真っ黒い骨を発見する。

 すぐに他とは違う物だと把握できたのは、強力な呪詛が罹っていたからだった。

 逆にそれがなければ、単なる石ころか動物の骨で済んでいたはずだった。


 最初はそれが原因で死の沼地を作っていたのかと思っていた。しかし術を駆使して呪詛の正体を探っている最中に、『二人分の親指の骨が圧縮されているモノ』と判明した。


 不思議な術だとセアは何かにとりつかれたように寝食を忘れて解読を行った。

 古代の呪いであるため、解読できても解除できないものであった。しかし解読できたからこそ、この石が兄たちの親指の骨だと確信を得た。

 

 兄達はここで眠っていたのかとセアは涙した。

 しかし喜ぶことはできなかった。古代の呪いに使われた兄達は輪廻転生の輪から外れてしまいその魂は闇に溶け込んでいる。救い出すことはできない。

 

 兄たちは殺害されて呪詛の道具になってしまったとセアは確認して、シュタットヴァーサー王とミウイ姫に対して、強い復讐心を抱いた。





 長殿は優雅にティーカップに口を付けた。


「始まりの記録は以上です。双子の勇者が亡くなって十年後あたりから、大陸中に不可解な事件が多発します。セアは兄達が起こしているものだと信じて、鎮めるために死力を尽くすことになりました。セアとチェスタスの子供達は意志を受け継ぎ、世代を跨いで呪詛の正体を探っていくことを誓ったそうです」


 かれこれ一時間ほどぶっ通しで喋っているくせに疲れの色一つも見せない。

 あたしは聞いていて疲れた。ぐったりするようにソファーに背中を預ける。その横でネフェ殿は「なっっっがーい」と苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。


「よく意志を引き継ぎましたね。そんなもの途中で投げ出してもいいだろうに」


 リヒトが辛辣なセリフを吐いた。ご先祖様から叩かれそうだな。

 長殿はうんうんと頷いた。


「そうしたい先祖もいたそうですが、できませんでした」


「何故ですか?」


「その理由として、ルーフジールを狙った誘拐や誘拐未遂が多発した事ですね。誰かから我々は狙われるのです。だから一族は固まって行動していた」


「それは、今なお続く『人攫い』に関係するものでしょうか?」


 リヒトの質問には答えず、長殿は「あとはそう」と続ける。


「セアやその孫たちは、ハレック、ルキウェル、リットの生き残りを集めて村を作ったのです。迫害される理由がないと他方に喧嘩を売ってまでね」


 リヒトが呆れながら「先祖はお人よしの集まりですか?」と呟く。


「お人よし? 違います。人が大勢集まればそれだけ戦力になります。しかも恩を売っているため裏切る確率が低い。味方を増やすにはこちらに恩義を持たせることです。『優しさ』は相手によってとてつもない武器にも脅しにもなります。私のような考え方が先祖にもいたということです」


 リヒトは眉間にしわを寄せた。


「腑に落ちない部分はあるでしょうが、そうやって我々は共存関係を作り上げてきました。ここまで言えばわかるでしょうが、ヴィバイドフとユバズナイツネシスで生活する人々の半数以上が、消滅した三つの一族の末裔です。もうこのことを覚えているのはルーフジールだけですけど」


 長殿はリヒトをみてからにこりと笑った。


「今尚、人攫いは続いています。勿論ルーフジールだけではなく、他の人たちも多く攫われましたが、集中して狙われるのはいつも私達です」


 長殿はあたしをチラっと見たので、小さく挙手する。


「人攫いとは『ファールバンデッド』の事をいってるんだろ? 女子供を中心に攫って消える得体の知らないモノの話は知っている」


 ファールバンデッドは人をさらう妖獣である。わかりやすく人攫いと簡略して言う事が多い。

 二年か三年に一度。ファールバンデッドの集団がやってきて若い女性や年端もいかぬ女の子を攫っていく。攫われた者は二度と村に戻って来ない。追跡してもなぜか途中で見失うので取り返すこともできない。


 曾祖父の時代から攻防対策がしっかり行われ、村に到着する手前で壊滅させている為、現在は被害がでていない。

 人攫いがくる時期になると、あたしを含め特に子供は母親か父親の腰に括り付けられてしまう。


 長殿は苦笑しながら「それはまた日を改めて」と話を打ち切る。

 ネフェ殿がやや冷たい雰囲気で「後でいいわね。リーンからの方がいいでしょう」同意した。


「とまぁ、何故か各方面から色々ちょっかいだされたり、妖獣ならびに悪意ある人間も幾度もやってくるので、憤慨した先祖たちは目にもの見せてくれるといきり立ち、敵の戦力を分散させるため大陸中の奥地へいくつかに別れて移住することを決定しました。ここは移住場所十回目のようです。移住年数は百年と少しでしょうか?」


「いきり立つ……」とあたしが呆れながら呟くと、長殿がぎょろっとした目を向けてきた。


「そうです。攻撃仕掛けるときだけ姿をみせて、あとは隠れて尻尾を出さない。どれだけ腹立たしいと思いますか? いつもこちらが劣勢ですよ?」


 長殿がすごく怖いので反射的に「すまないその通りだ」と謝った。


「いくつかに別れてって言っても、今は二つだよな。他に居たのか?」


 長殿が真顔で口を閉じた。

 あ、これ、聞いたら駄目な奴だったか?

 ソワソワしながら何かしゃべるのを待っていると、長殿は目を細めた。


「いつか思い知らしてやろうという気持ちを胸に、ルーフジールは様々な方向から敵の正体を探っていき、300年前にようやく勇者たちにかけられた呪いが判明したのです」


 はぐらかされたー!

 どこかの場所にいた一族は潰されたんだ!


 まぁこっちの方でも秀でた者、普通、弱い者がいたから仕方ないとしても、そっか、なんか落ち込むな。


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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