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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――美味しい紅茶にご用心――
21/279

モグラ穴はあちらこちらに①

<誰だよこんなに地面に穴掘ったやつは!>


「なんか、穴がたくさん空いてる?」


 短い草が茂る草原にぽつぽつと穴が空いていた。

 草に隠れて見えにくいが、人がすっぽり落ちそうなくらい大きくて、一人では這い上がれないくらい深い。


 丘の上から穴の存在を確認できたが、実際に降りてみると、短い草といえども膝上はあり地面が見えない部分も多い。


 横倒しになった草の下に穴があったりもする。そのため、木の棒を使いながら慎重に足を進めていた。

 

 なかなか……進むのに苦労しそうだ。

 

「そうだな。足元に気をつけないと落ちそうだ。特に、お前なんかドジそうだから……」

 

 背後から聞こえていたリヒトの声が突然消えた。


 ので、この隙に言い返そうと後を振り返ったら、声どころか姿が消えていた。

 

 短い草が激しく揺れている。


「あれ?」

 

 あたしは用心しつつちょっとだけ後へ歩く。激しく揺れている草の付近に深い穴が空いていた。


 もしかして…………落ちた!?

 

 あたしはうつぶせになって慎重に穴に近づく。


 草が長くて気づきにくかったが、穴の周りの土は結構乾燥している事が分かった。握ろうとするとボロボロ零れていく。


 ゆっくり淵から中を覗く。

 

 うわぁ。かなり暗い。ってことは、かなり深い。

 

「もしかしてぇー! この中にいるぅ――?」

 

 返事なし。


 恥ずかしくて返事しないだけかもしれないので、もう一度話し掛けてみる。

 

「落ちたー? 笑わないよぉ~? 返事してー?」

 

 あたしの声が穴に反響したと同時に、暗い穴の底で赤い光がぱっとついて、すぐに消えた。


「なんだ?」


 音も熱もしなかった。


「………いる」

 

 しばらく待っていると、小さい声でリヒトから返答があった。


「元気?」


 一応、容体を聞いてみる。

 万が一、大怪我をしていたら笑ってやろうと思っても出来ないからな。


 穴の奥から動く気配と、返事が戻ってくる。


「この穴、モグラっぽいものがいたのと……あと……」


「ぎゃはははは! やっぱ、落ちてたんじゃーん!」

 

 元気そうだったので、思いっきり笑ってやろう!


「うっわぁ! めっちゃくっちゃ間抜け!」


「黙れ! 五月蝿い! 笑わないって言っときながら笑ってやがる! この嘘つきが!」


 穴の底からリヒトの罵声が聞こえる。


 真っ直ぐじゃなくて少し傾斜が罹っているから、怪我することなく滑り落ちただろう。

 怪我をしなくて幸いだった。


 引き上げるにはロープが必要だなと思いつつも、すぐに助けるのは勿体ない。

 ちょっと揶揄ってやろう。


「で? あんたはいつまでそこに入るのかな?」


 嫌味なくらい優しい声で呼びかけたら、リヒトの声がピタリと止んだ。


「引き上げてください、お願いしますって言ったら、ロープで引っ張り上げてあげる」


 返事なし。


「あれ? どうしたのかなー?」


 返事なし。


「ね? ね? どうする? どうする?」



 あたしは返事をしたリヒトを引っ張り上げ、穴ぼこの草原を抜けた。

 

 そして村へ到着する。そこはレグツサーラエリアとウバッハエリアの境目だった。


 あたしは村の光景を見て、「うわぁ~」と思わず声を上げる。


 そこは観光する場所も無く、ごく少数の人々がのんびりと暮らす寂れた村だった。

 

 村人は困り果てたような表情で、辛気臭いため息ばかりついているが、その理由は聞かなくても分かる。

 

「これは、凄いな」

 

 村の道や畑、果てはどこかの家の玄関etc、足を取られるくらいの小さなものや、牛が落ちそうな大きな穴が無数に存在し、モグラたたきステージを彷彿とさせる。


 村の周囲なら兎も角、村の中にまでポコポコ穴が空いているのは、生活面でかなり困るだろう。


 村人は下を向いて地面を確認しながら、一歩一歩歩いているし、子供は元気いっぱいだが、数人固まって地面をきょろきょろ見ながら、ゆっくり歩いている。


 穴の大きさ考えると、大人子供家畜関係なく、誰でも落ちる。


 気を付けていても頻繁に落ちてしまうのか、擦れ違う村人は泥臭いし、実際泥まみれの人もいた。

 

「なんなんだこの村」

 

 観察するように見渡すリヒトも泥だらけである。

 怪我はなくても、服の汚れはどうしようもなく、洗濯しないと落ちないレベルだ。


 あたしは手を額につけてうめく。


「穴ぼこだらけ」


 あたしも地面を確認しながらゆっくりと歩く。

 気をつけないと、コイツのように穴にハマッてしまう。

 

「……黙れ」

 

 憮然とした表情で、リヒトがうめいた。


 あれ? 口に出したっけ?

 まぁいいか。


「講釈垂れてる時にまた落ちそうだな」


「なんだと?」


「一度あることは2度やる。また腹抱えて笑う準備は出来てる」

 

「マジでヤな趣味もってんな、おまえ……」

 

 迷惑そうに「しっし」と、手であたしを遠ざけようとする。


 あたしはわざとリヒトのマフラーをガシッと掴むと、にこりと微笑んだ。

 

「ははは。引き上げた恩人に対して言う台詞なのかな?」


「人外生物は恩人どころか、人間にすらかすってねぇだろ?」


「誰が人外生物だ!」


「お前だ! お前!」

 

 うがぁ!? あたしを指刺しやがった!

 

「ロープを垂らす所までは普通だ。その先はどうだ?」


「あんたを引っ張り上げただけだろ? 何処が変なんだ!」

 

 リヒトは驚きで口を大きく開けると、息をしっかりと吸い込んで、あたしの耳元近くで叫んだ。

 

「大人一人を、大根みたいにあっさりと引き抜くのが、人間に出来るか!?」

 

 おもわず両手で耳を塞いで、反射的にあたしは縮こまる。


 あの時、ロープを掴んだのを確認すると、勢いを付けて、一振りで穴から空中に引っ張りだしたことを言っている。

 

 思った以上にリヒトが軽かったから、勢いついただけだし。

 スポーンと、軽く宙に飛ばしてしまったのは、不可抗力だ!

 

「五月蝿いわね! 穴から引っ張り上げただけで、一々怒鳴るな! 泥男!」


「怒鳴ってねぇよ! 人間じゃないやつに、常識を植え付けてるだけだ」


「誰が非常識だ! そっちこそ助けてやったのに、礼の言葉一つないじゃないか。非常識め!」


「礼は言った」


「よくやったってセリフは、礼とは言わないだろうが!」


「空に飛ばされて、余計な怪我した分を差し引いた言葉だからな!! 今も背中と肩が痛いんだぞ!」


「受け身くらいとれよ!」


「脳筋バカと一緒にするな! 出来るかンなもん!」


「誰が脳筋だ! 軟弱男め!」


 怒鳴り合いしてたら、村人が集まってきた。


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