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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第四章 賢者ルーフジール
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ユバズナイツネシス村へ帰郷⑧

 いつの間に隣に!? っていうか気配消えてたぞこの人!?

 なんだよもう! 再々人の記憶覗かなくてもいいだろうが!


「頭撫でないでほしいんだが……」


 眉をしかめて不満を口にしてみたが。


「ファス達と離れているから寂しいでしょう。でも安心してください。ミロノさんの誕生日は知っていますから。今日は二人の誕生祝です。一緒にお祝いのケーキ食べましょう」


 長殿は全く気にしていない。


「プレゼントはですね。妻が用意していたはずです」


「ちょっとはあたしと会話してほしいんだけど」


「妻のプレゼントは期待してていいですよ。ミロノさんの分も用意していました」


「別にプレゼントについて話しているつもりは」


「ファスからのプレゼントと言えば、材料渡して何か作れとか、地図渡して盗賊で遊んでこいとかですね。リーンだと……あの人は料理が壊滅的に酷いので……ご愁傷様です」


 言いたいことだけ言いやがって。


 あたしは相槌を打ってから

「ご愁傷様と言ったことは母殿に伝える」

 と告げ口することにした。


「……それは怖いですねぇ」


 長殿の顔が少し引きつったように見えた気がする。


「まぁ、私に色々尋ねたいことはあると知っていますが、難しい話は明日に回して、今日は旅の疲れを癒してください」


 瞬き一回で、長殿が真横に居た。そのままあたしの頭をなでなでする。

 バッと頭を沈めて更に大きく後退する。思わず自分の頭を手でガードしてしまった。


 だからなんなんだよあの動きは!? 予備動作全くない!


 長殿はきょとんとしてから、ゆっくりと手をひっこめると苦笑した。


「リヒトから聞いたようですね。でも、いつも情報収集目的で頭を撫でませんよ。貴女が寂しそうだったので元気出してほしいという慈しみからの行動です」


「信用できない」


 完全に懐疑の眼差しで見ていると、長殿がちょっとだけ悲しそうな視線を向けてくる。


「リヒトと同じようなことを……」


 そして声のトーンを下げた。


「しかしこうやって行動をみていると、確かによく似ている。一度も顔を合わせていないのにここまで類似することがあるのでしょうか?」


 ブツブツ呟いているので、あたしはキッパリ言ってやった。


「つい20分前。玄関で前科があるだろーが!」


 長殿が心外だと言わんばかりに目を見開いてから、目を細めて一笑する。


「おやおや。プライバシーは言いふらしませんよ。……害がなければ」


「こわっ!」


 自分に害があると思ったら、得たプライバシー情報を遠慮なく最大限に利用して仕掛けてくるに違いない。

 害になるつもりはないが、利用されない様に十二分に注意しておかねばならないぞ。

 そうやって警戒していたら、


「ほらほら、ミロノちゃんはこっちに座って!」


 奥方殿から声をかけられた。


 しっかり名前言われてるんだけど……。名前教えていないんだけど、長殿が前もって教えていたのかな。

 とりあえず、何の脈絡もなく呼びかけられて驚いてしまい、ぴょんと小さく跳ねてしまった。


 間抜けな仕草をしてしまったと苦笑いを浮かべつつ、奥方殿に視線を向ける。テーブルにある椅子の背に手を添えながら、笑顔で「ほらほらー」と、あたしに手招きしていた。


「……」


 行けばいいのか?

 でも、なんか恥ずかしいな。どうしよう……。


 固まったままジッと見ていると、業を煮やしたか、奥方殿が小走りで近づいてきてあたしの腕を掴んだ。


「ミロノちゃん、おなかすいたでしょ? 早く座って!」


「ええと」


 引っ張ろうとするが、なんとなく抗ってみる。

 奥方殿がうーんと気合を入れながら全身で引っ張り始めた。太い木の柱を引っこ抜くように体を斜めにして踏ん張っている。

 どうしよう。下手に動くと奥方殿転ぶな……。


「はーやくー。こっちーに、おいでー!」


「えーと、わかった。だからその、真っすぐ立ってもらえないだろうか?」


 奥方殿が引っ張るのをやめて真っすぐ立った。若干頬を赤くしながら乱れた呼吸を整える。その間もがっしりと腕を掴んでいた。


「真っすぐ立ったわ。行きましょう」


 何事もなかったかのように促されて、あたしはきょとんとしながらも、ゆっくりと歩き出した。歩くと、奥方殿ははちきれんばかりの笑顔を浮かべて、あたしの腕にぎゅっと引っ付いてきた。女性特有の柔らかい体と甘いような良い匂いがしてドキッとした。なんか、ちょっとだけ羨ましい。


「はい、ここに座ってね!」


 奥方殿にエスコートされた席は……なんでリヒトの隣なんだよ。

 こいつの隣って嫌なんだが……。拒否するのは失礼だろうか……。


「あの……」


「ん?」


「席を……」


「さぁどうぞ! ここに座ってね!」


 席を変えてほしいと続けようとしたが、奥方殿のはちきれんばかりの笑顔に負けた。

 小さく返事をしてから、あたしは椅子を引いて座ろうとして……。

 自己紹介がまだだったことに気づいた。


 パッと奥方殿に頭を下げて挨拶をする。


「あの! お初にお目にかかります! ミロノ=ルーフジールと申します! 突然の来訪にも関わらずこのような歓迎をしていただき大変恐縮です! 本日は宿を御貸しいただけるとのことで、有難うございます!」


 頭を上げると、奥方殿はぱちくりと瞬きをしてから、口元に手を添えてクスクス笑った。


「あらあらあら。礼儀正しいわ。流石リーンね」


 奥方殿は軽く会釈をしてから、キリっとした表情になり、スッと背筋を伸ばした。


「ネフェーリン=ルーフジール。リヒトの母にして、ルゥファスの妻。綺羅流れの経理担当でもあるのよ。リーンとは親友なの。同姓同名だからお互いを呼び合うとき、私はネフェ。あちらはリーンって呼んでるの。だから私のことはネフェって呼んでいただけると嬉しいわ」


「奥方殿のことは母からもよ……」


「いやだ堅苦しい。ネフェおばさんって呼んで」


 ハードルが高い!


 数秒無言になると、奥方殿が唇を突き出しながら「ネフェさんでいいのよ」と催促してきた。


 え、これ、言わなきゃだめ?


 さらに数秒無言になっていると、奥方殿は両手を腰に当てて胸を張った。少しだけ眉間にしわが寄っている。


「なら選んで。ネフェおばさん。ネフェさん。ネフェお母さんのうちどれがいいかしら?」


「選ばなきゃだめなのか!?」


「……」


 奥方殿の笑顔が固定された。異論は認めないってやつ、これ母殿とそっくりだ。そのうち目が笑わなくなるぞ。

 あたしは酸っぱいものを食べたような表情をしながら、天井を見上げて、ゆっくりと戻した。


「……ネフェ殿」


 これで勘弁してくれ、という気持ちを込めて名を呼んでみると、ネフェ殿は一笑した。


「まーあ及第点ね。ネフェ母殿でも良かったのよ?」


「勘弁していただきたい」


 あたしが肩を落とすとネフェ殿は苦笑した。


「可哀そうになってきたからこれで良しとしてあげるわ。はー。ミロノちゃんを見ているとリーンと初めて会った時を思い出すわね」


 ネフェ殿が懐かしいと呟く。


「貴女はリーンの若い頃によく似ているわ。でも目の形と目の色はファスさん似かしら?」


 ずいっとネフェ殿の顔が寄って来たので、あたしは一歩下がる。


「ネフェーリン。ミロノさんが困っていますよ」


 長殿が一声かけてきた。すでに席についている。

 大きい長テーブルの座席はリヒトが真ん中、左にクルト、右にあたし。

 長殿はリヒトと対面になっている。


「そうだったわ」


 てへ、と舌を出しながら自分の頭を軽くコツンと叩いたネフェ殿は、長殿の隣の席に座り、あたしと対面になる。


「いきなりグイグイいっちゃ駄目よね」


 いや、すでにグイグイきていたんだが……。


 ネフェ殿が「そうかしら?」と呟く。不本意だといわんばかりに眉間にしわが寄っていた。

 長殿が「では、始めようか」と食事の挨拶を始める。


 いや。なんか。いつも遊びに来ている友人の子供をもてなしているような対応に戸惑うんだけど……。

 初対面なのに一家団欒の中に放り投げられた時、どんな顔をすればいい?


 考えても仕方ないので、とりあえず料理は遠慮なく食べることにする。

 食事中はわりと賑やかだった。長殿やネフェ殿はたわいもない日常の話をしたり、リヒトに旅の様子を聞いたりしていた。リヒトは当たり障りなく災い以外の内容を淡々と答える。旅の話でクルトが驚いたり感動したり。

 あたしは話を聞きながら、スープと鶏肉料理美味しくて舌鼓を打っていた。


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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