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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第一章 劇的な巡り合い
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出会いは突発的に②


 商人の噂話で友人たちと盛り上がって、深夜回って帰宅し。簡単にシャワーだけ浴びて仮眠していたら。


「ミロノーー!」


 どうやら夜が明けたらしい。

 良く澄んだ大きな声が耳に届いて目を開けた。一階から母殿が呼んでいる。


「はーい」


 質素なベッドから起き上がり、大あくびをしながら返事をする。

 カーテンに陽の光が当たっている。既に日が高く昇っているようだ。

 

 手短に身支度を整えて二階の自室から出ると、すぐにセンサーが反応して、ガチャン・ガチャン、と金属音が鳴り響き始めた。

 

 センサー切ってほしい。


 廊下を少し歩き、階段を降りて一階に行く。のだが、階段の幅一杯に、忙しなく行き交うトラップがある。

 上下左右縦横無尽に、縫うように刃物が踊っている光景を眺める。

 

 ダンジョンのギロチントラップのようでもあり、ギロチン振り子と槍が突き出る階段、とも言える。

 これは親父殿特製の仕掛け、つまり罠だ。

 

 廊下から階段にかけて不自然に厚い壁なので、壁に収まる用に作っていると思うが、あたしは立ち入り禁止なので詳細は不明。

 毎回違う動きをするから、ランダムに発生させてるんだろうけど、仕掛けが謎すぎる。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。


 階段を使って一階へ降りないといけないから、面倒なんだ。

 観念して降りるけど……。

 

「って、ぅお!」


 今日はスピードが速い。仰け反って鼻を守り、二十段の階段を降りて廊下を歩く。

 一定の距離、歩数で言えば5歩ぐらい、遠ざかれば仕掛けは静かになる。


 いつかセンサー壊してやる。


 静かになったので階段を覗くと、土壁が隙間だらけだ。土壁も床板も色や素材を変えているので、アートに見える。不思議だ。

 

 さて、母殿は台所だったな。

 

 階段を降りて廊下を数歩歩いたところで、


 シュン


 風を切る音がしたので、立ち止まる。

 

 トシュ!


 数本の小さなナイフが壁に刺さった。

 

 あたしはゆっくりナイフに視線を向ける。

 廊下にまで仕掛けてある、だと? これ母殿怒らないか?

 

「廊下は止めようよ親父殿……」


 呆れながらナイフを一本だけ壁から抜く。

 銀色や金色、果ては鈍色に輝くナイフの刀身は澄んでおり、薄暗くても微かな光で輝いている。

 物凄く切れ味がよくて、素手では刀身を触ることは出来ない。

 

 ナイフの刀身の端っこに名前が彫られている。

 ルゥファス=ルーフジール

 あたしの父。武器や防具を作る職人で、武術の達人の名だ。強すぎるためについた二つ名は武神。

 村長よりも地位が高く、村を護る立場にあるため親方様と呼ばれている。

 

 そんな彼の趣味が武器製作。

 細部にまでこだわりセンスも良く、耐久性及び切れ味が半端なく鋭いため、商人達から『武人の武器』と重宝されている。

 余談だが、親父殿は作った作品全てに名を刻む。


「おやおやミロノ。そんな所で何をしている?」

 

 ナイフを見つめて立ち尽くしていたのを不審に思ったのが、大きな荷物を持った母殿が首を傾げながら話しかけてきた。

 

「べつに」

 

 ナイフを袖に隠す。

 

「丁度よかった。これ運んで」

 

 野菜が入った籠を持たされてしまった。

 籠の野菜達はボロボロになっている。おそらく、母殿の握力でボロボロにされたのだろう。

 大根の葉っぱも素手で毟ろうとしたのか、萎びているのを通り越して水抜きされている。

 

 もっと力加減しろよ、というツッコミは口の中で転がして

 

「わかった」


 大きく頷いてから、階段のすぐ隣にある倉庫へ持って行った。

 倉庫は複合石の力で簡易氷嚢室になっている。いざといときに籠城できるように、避難大人五人入っても生活できるよう広く作られている。


 食糧が置ける場所を探そうとしたら

 

「どこでもいいわよ」

 

 母殿があっけらかんと言ったので、その辺にどすんと置いて、壁際に寄せる。

 

「ご苦労さま」

 

 母殿はにやりと笑って倉庫から出た。


 母殿の名はネフェーリン。

 艶々した黒髪の背丈の低い痩せた五十代の女性だ。

 日光が眩しく常に細目をしている。

 糸目でのっぺりした顔に思われがちだが、暗闇に入ったら目がひらき、瞳孔が見えるほど瞳が大きくなり、猛禽類のような顔つきに変わる。

 

 細見で色白なので、一見して病弱体質に思われるが、母殿は闘気術を極めた無手の達人。トラウマになるほど怖い。

 嫁になる前は盗賊稼業と調合師をやってたらしい。妙な職歴だ。


 「あ」と声をあげ、母殿が困ったように眉をしかめながら、廊下の壁に近づいた。あたしも倉庫から出て後を追う。


 ああ。壁かぁ。

 

「また……」


 細い目がナイフの刺さる壁に注がれ、眉を潜めてハァとため息を吐き、ナイフを抜いてあたしに顔を向ける。

 

「ミロノ。全部手で取らないと、壁が傷むでしょ?」


「いつもの事だけど、家の中で刃物から身を守っている娘に対して言う台詞? 親父殿に文句いってくれ」

 

「ミロノだったら余裕でしょ? いついかなる時でも手抜きはダメよ」


「あんたが言うな」

 

 母殿は兎に角雑だ。大雑把だ。 盗賊稼業やってたなんて嘘だろう? って疑うくらい不器用だ。そして基本なんでも他人任せだ。あたしに丸投げしないで!

 

 心の中でひとしきり文句を述べると、母殿は笑顔になった。


「後で壁を修復して頂戴ね」

 

「でもそれ、親父殿が」

 

「お願いね」


 一蹴された。

 不満を言っても仕方ないので、頷く。


「……分かった。それで用って?」


 名前を呼ばれる、イコール、用事があるってことだ。

 

「………」

 

 一瞬母殿は無言になった。そして思い出したように手を叩く。

 

「お父さんが呼んでいるわ。一緒に居間に行きましょう」


「忘れてたな」


 っていうか、時間結構経ったけど、大丈夫なのか?


「さぁ、行きましょう」


「今度はなんだろうなぁ」


 鍛冶の手伝いだと楽なんだが、もしかしたら昨日の今日でまた討伐命令かもしれない。三か月のサバイバル生活兼課題を片付ける、とかかもしれない。

 

 ちょっとは遊ばせてほしいんだけど……。

 でも親父殿の命令は絶対なんだよなぁ。

 はーあ。まともだったらいいなぁ。

 

 がっくり肩を落としつつ、母殿の後に続いた。




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