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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第三章 ラケルス町のニアンダ
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ニアンダの治療法③

「はい、到着~!」


 うわぁ。なんだここ。


 部屋の中に入ったが、予想斜め上の内装に絶句する。

 まず壁紙の模様。花や葉っぱ、果実が描かれたパステルカラーで、薄い色ながら賑やか。


 こんなポップな装いの部屋に入ったことないぞ。

 

 いやいや。壁紙で判断してはいけない。

 とりあえず立派な部屋だ。空調設備はいいし、埃臭くもない。居心地がいいと思うから大丈夫だ。


 担架からベッドに寝かされた時に否応なく家具が見えて、反射的に叫んでしまった。


「子供部屋かよ!」


「違うわよ」


 ニアンダは両腕を腰に当てて否定する横で、男性たちが肩を震わせて笑いに堪えている。


「仕方ないですよジールさん。そう思いますよ」


「夢がないわねー」


 男性の一人が苦笑ながらあたしの意見に同意すると、ニアンダ殿は腰に手を当てため息をついた。

 その間、あたしはベッドに寝かされる。そっと掛け布団を胸辺りにかけると、体勢は大丈夫かと聞かれた。あたしが大丈夫と答えると、男性達はニアンダ殿のところへ行き、軽く会釈をする。


「ではジールさん。これで失礼します」


「はーい。ご苦労様」


「おつかれでしたー」

「お先に失礼します」


 二人の男性は担架を持って部屋から出ていった。


 あたしは顔を動かして部屋を見渡す。

 自分で言っておいてなんだが、子供部屋ではないようだ。大人用家具が置いてある。


 部屋の広さは四畳くらい。壁に大きなクローゼットと全身鏡が埋め込まれている。

 クローゼットはハート型のドアで虹の絵が描かれて、全身鏡の装飾は動物をポップに彫られている。

 カーテンは薄桃色のシックな色合いで、カーテンをまとめる紐は、薄い赤青黄色の三つ編み紐。

 天井は星型に加工された光輝石があった。


 テーブルは虹色。馬のような牛のような、動物を模造した形がはめ込まれている。

 テーブルに納められているイスは、ハートの形の背もたれがついた虹色。

 椅子の上に星型のクッションがある。色は黄と水のグラデーションだ。

 ベッドは薄紅色の雲の装飾が彫られており、薄紫色のフカフカの布団と大きめの枕が敷かれていた。


 そしてあたしは、そのベッドに寝ころんでいる。

 落ち着かない。場違いな気分だ。


「どうどう? 可愛いでしょ?」


 自慢げに、ふふん、と鼻を鳴らしドヤ顔のニアンダ殿を眺めながら、あたしは曖昧に頷いた。


「そうだな……かわいい……な」


 『可愛い』の暴力に囲まれて、どうしていいか分からなくなるけど。


「でしょー! ここ、女性に人気な部屋なの!」


 まぁ。一般女性は好きそうだと思う。

 武器に囲まれた部屋で過ごしてたから、あたしは楽しめないが……。

 とりあえず、この場の空気を読んで乗り切るか。お勧めの部屋を用意してくれたんだ。好意を無下にできない。


「堪能させていただく。しかし、これだけの物を揃えるのは大変だな」


 ニアンダ殿は呑気な口調で、そうなのよ。と頷き、得意げに胸を張った。


「この家を建てるときに、折角だから部屋を一つ一つ特色を持たせようと思ったのよねぇ。他の部屋もカントリー風だったり、モノクロ風だったり、色々あるわ。趣味みたいなものね。そして……」


 ニアンダ殿はバッと両手を広げて、天井の輝光石の光をその身に浴びた。


「この部屋のコンセプトは乙女の夢! 忘れかけた純粋を取り戻すために童心に還る。汚れて疲れた心を動物たちが癒やしてくれるわ」


 道の真ん中で立ち往生した気分になり、あたしは途方に暮れた。

 無難な対応が思い浮かばない。


 返答に困っていると、ニアンダ殿と目が合う。

 キラキラ輝く乙女のような瞳をして反応を待っている。


「旅で色々汚いもの見てたようだから、ミロノちゃん喜ぶかなって」


 改めて対応に困るなー。

 邪気はないが圧がすごい。彼女の背中から来光が発生した気がする。

 悪意でも困るが、見当違いの善意も困るもんだ。


 あたしはひきつった笑みを浮かべた。


「…………有難う」


 気の利いたセリフを選びたかったが、これが精一杯だった。

 気分を害していないと良いけど。


「それなら良かったわ」


 ニアンダ殿は満足そうに頷いた。

 相手の都合を考えるよりも、自分の欲求を満たせば満足するタイプの人間かもしれない。

 目立って逆らうのはやめよう。


 ニアンダ殿はクローゼットを示した。


「あそこにミロノちゃんの荷物全部入ってるから、後で確認してね。汚れていた服は洗濯消毒してから返すわ。治療中はクローゼットに入っている服を着て頂戴ね。そして」


 ニアンダがあたしの両手を布団から出して、強く握りしめた。


「是非とも! 着てね! 絶対に、着てね!」


 おしとやかに微笑んでいるが、目は笑っていない。

 服を着てほしいと期待しまくっているのは明らかだ。

 何かこだわりが…………まさか。


「あの、どんな服があるんだ?」


 待ってました! とばかりにニアンダ殿の声が弾んだ。


「ミロノちゃんに似合う可愛い室内着と外着を用意するわ! ロマンティックでスイートなワンピースや上品な服もいいわねぇ」


「……ヒュ」


 喉から変な声が出た。

 あたしを着せ替え人形にする気だこの人!

 やばい。嫌な汗が出る。


 あたしの顔色が変わった事に気づいたニアンダ殿は、きょとんとしながら、何かを閃いてポンと手を叩いた。


「ここに置いてある服はね。人から貰ったり、古着を安く買ったものよ。でもたまーに、一目ぼれで買ったりすることもあるけど。年齢気にせず、あとサイズも確認せずに買っちゃうから着れる人が中々いなくって。だから気兼ねなく着てちょうだい」


 確認しろよ! 

 ツッコミしたかったが我慢した。


「それに滞在中、天気の関係で洗濯しても乾かずに服が足りなくなることがあるじゃない? その人達用に貸出してるわけ。年代別と性別に合わせて、室内着はある程度用意しているよ」


 この部分だけ切り取ると気配りがあると思うが、絶対に彼女の趣味だ。断言できる。


「本当に気を使う必要はないからね! しっかり着て! 気に入ったのがあっても無くても袖を通してみて!」


「部屋着持ってるので……」


「洗濯はこっちでするから気・に・せ・ず・に!」


「あの……」


「いやいや。ほんっと気にしなくていいから! さっそく明日からお着替えさせて、ミロノちゃん!」


 ダメだこれ、是が非でも着せようとしている。

 呆れて閉口していると、ニアンダ殿は

「あら?」

 と首を傾げた。


「もしかしてコーディネート自信ない? 私がコーディネイトするから問題ないわ!」


 鼻息を荒くして力強く宣言されてしまった。

 あー。逃げられないこれ。諦めよう。

 

「…………わかった」


 あたしは苦虫を噛み砕きながら返答する。

 了承に気を良くしたニアンダ殿は、うっとりした表情を浮かべた。


「ミロノちゃん良い素材だから楽しみ。リヒトくん、よくやった。可愛い娘連れてきてくれてありがとう!」


 あたしは胃痛を押さえるように目を瞑る。

 郷に習うは郷に従え。これも旅の醍醐味だと暗示をかける。


「でも当分は寝巻中心ね。外出できるようになってからしましょう」


 そうか、と頷いて、ちょっとホッとすると、彼女の目がきらりと光った。


「安心して! 虹の部屋にぴったりの可愛い寝巻があるから! ワンピースとか、着ぐるみ系とか、柄も色々あるのよ!」


「勘弁してくれ!」


 たまらず拒否したが


「じゃぁ。明日は花柄のワンピース着ましょうね」


 それが受理されることはなかった。




 一段落ついたあとに治療方針を聞いた。

 服よりもまずは、これを最初に伝えないといけない内容じゃないか?

 心の中でツッコミだけしといた。

 専門家に口を出すのは憚られるからな。


 要訳すると、動くな。


「トイレと食事以外は寝て過ごすこと。毎日診察しに来るから、私の許可が出るまで絶対安静。お風呂も少しの間我慢して。湯あみ用のお湯はすぐ持ってくるから、それで体拭いてあげる。いいわね? くれぐれも、無理な動きをして傷を広げない事、いいわね?」


「……分かった」


 なんて威圧感だ。綺麗な笑顔の分、視線の鋭さが際立つ。傷を開いた暁にはどんな雷が落ちるか分からない。


「素直でよろしい」


 何も言っていないが、ニアンダは満足したように頷いた。おそらくあたしの心を読んだのだろう。本当に油断できない。



 次は家について説明うけた。


 一階はリビングが三つと風呂と台所、そして使用人の部屋がある。

 二階と三階フロアに八室あり、各フロアに男女別にトイレが二つ設置されている。


 ニアンダの部屋は二階の真ん中にあるが、殆ど病院で過ごしている。

 リヒトの部屋は三階の西側の角にある。


 住み込みのメイドが二名いて、家事を一手に引き受けている。


 食事の時間は決まっていて、時間外にメイドに料理を頼む際は別料金が発生する。

 パンやおかずの作り置きが台所に用意されているので、自由に食べていい。ただし、自分で食器の後片付けをすること。


 入浴をしたい場合は、入浴前若しくは入浴予定時間をメイドに必ず口頭で伝える。

 お風呂は一つしかないので、トラブル回避のため、勝手に使用しないこと。


 現在は、商人夫婦とニアンダ殿の友人達とリヒト父の友人とその弟子が泊まっているそうだ。



「大商人やちょっとした貴族みたいな感じだな。これらを全てニアンダ殿が賄っているとは素晴らしい、感銘を受ける」


「いやー。仕事に専念したいから、家事一般は全て使用人任せにするつもりだったし。元々、豪邸建てたかったのよねー」


 椅子に座っていたニアンダがうっすら微笑んだ。


「有難いことに、仕事が順調で儲けたから、豪邸建てちゃった。でも、あんまり家に居ないから勿体なくて。だったら格安で友人に宿として使ってもらおうと思ったわけ。そしたら兄ちゃんが『知り合いにも宿として貸してほしい』って言いだした結果。ルーフジールと親密な知り合いが泊まる宿になったのよ」


 にやりと笑って、指でお金のマークを作る。


「私の友人は格安で提供。兄ちゃんの知り合いはここら辺の定価よりもすこーしだけお安くしてるのよね。ふふふふ」


「商魂たくましい」


 感心しつつ、あたしは笑ってしまった。


「なら。あたしの宿代はいくらになる? 治療費とは別に請求するだろう?」


「治療費込で……って言いたいけど。リヒトくんが無理矢理連れてきたから、宿代は無料にしてあげる」


「え? 何日泊まるか分からないのに、そんなわけにはいかない」


「あらやだ、いけない。もうこんな時間だわ」


 あたしの言葉を遮って、ニアンダは席を立った。


「ニアンダ殿、まだ話が」


 咄嗟に上半身を起こすと、ニアンダが両肩を掴んでぐっとベッドに押し付けてきた。

 抵抗してはマズイと思い、あたしはベッドに沈む。


「動かないの。じゃぁミロノちゃん、また明日。すぐご飯持ってくるから少し休んでなさい。あと、何か分からないことがあったらリヒトくんに聞いてね」


 ニアンダ殿はウインク一つ投げてから

「じゃあねー!」

 と手を振って、ぱたんとドアを閉じた。

 すぐにガチャっとドアに鍵がかかる。


 閉じ込められた。

 いや、内鍵もあるからこの場合、防犯の意味で鍵をかけたんだな。


「あー…………、マジか……」


 ゆっくり起き上がって両手で顔を隠す。


「一日の宿泊料、教えて欲しかった」


 タダほど怖い物はない。

 親切すぎると恐縮してしまう。

 とはいえ、それは後々考えよう。


 あたしはベッドから立ち上がり、ドアへ歩く。

 トイレの位置を確認がてら、所用を済ませ部屋に戻る。

 廊下とか落ち着いたモダンな内装なのに、なんでここだけシュガーポップ系なんだよ。

 鍵をかけてから警戒網を張ろうとして、止めた。

 ニアンダ殿のお眼鏡に適わなければ、泊まる事が出来ないようだから、不埒な輩はいないだろう。

 完治するまでリラックスしよっと。


 そそくさとベッドに潜り込む。

 もふもふしていて気持ちいい。


 目を瞑ると、リヒトの姿が浮かんだ。

 あいつは大丈夫かな。怪我はなくても、大分疲労が溜まっているはずだ。体調が悪くなってないといいな。


 うつらうつらと意識が遠のいてきた。

 やっぱ疲れてる。ご飯食べる前に少し寝よう。


 念のために、もう一度気配を確認する。

 屋敷の中に数人の気配を感じるが敵意はない、外の気配も平穏そのものだ。

 あたしは久しぶり穏やかな眠りについた。


あけましておめでとうございます

本年もよろしくお願いいたします


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら反応していただけると創作意欲につながります!

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