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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第三章 ラケルス町のニアンダ
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休息場を求めて②


 四日目の早朝、やっとリアの森を抜けた。

 草原を歩くとすぐに、整備された馬車道や石畳の道に出る。


 体力の具合を考えると、ギリギリだった。

 途中何度も吐血したぞ。

 真っ黒い血を吐いたからびっくりだ。胃を負傷してるんだろうな。

 一回の量はおよそ50ミリリットルとはいえ、吐血の量も、ついでに血尿の量も、少しずつ増えているから、ちょっと怖いんだよな。


 前を見る。6メートル先にリヒトが歩いていた。

 あたしは今、あいつと距離を取っている。


 動く為に気を張っているから、アドレナリン沢山出てきてイライラしてしまう。

 あと弱っている姿を見られるのは苦痛だ。

 更に今の状態で罵詈雑言を浴びせられた日には、ダメージを気にせずに喧嘩吹っかけてしまう。

 

 近づかないでほしいっ


 その気持ちが通したのか、あいつは一度もこちらを気にしなかった。助かる。


 




 最初はぽつぽつと人影が見えていたが、一時間も歩けば、商人や馬車、冒険者や旅人の姿が多くなた。

 ずっと人気のない獣道を歩いていたので、同じ方向を歩く人を見るのが新鮮に思えた。


 目的地に向う間に、街道分岐をいくつか通りすぎる。まだ村や街の影はない。

 森から街道に出たため、あたしは方角が分からない。地図を開けばいいのだが、そんな元気はなかった。

 なので、必然的にリヒトの後ろをついて歩く。


 人が多くなってきたから、3メートルほど近寄った。背中、というか、揺れているマフラーを眺める。


 なんだかあいつ、また背が伸びたみたいだ。

 あたしの額の高さに肩があるっぽい。

 いいな。あたしはどうやら背が止まったようだ。平均身長はありそうだが、欲をいえば、もう少し背丈が欲しい。


 よそ事を考えていたら林が見えた。その中に石畳が通っている。馬車も人もそこを通る。あたしも通る。人の手で整備されていてとても歩きやすい。


 馬車が通ったので道の端っこによる。その近くの木の幹に、薄くやや錆びた金属製の四角い看板が針金でくくりつけられていた。

 『ラケルス町にようこそ』と書かれている。


 どうやら外壁はないようだ。

 治安がいいのか、大きい町なので作る意味がないのか、強い傭兵でもいるのか理由は分からないが、大変珍しい。


 歓迎を知らせる看板の近くを見渡したが、門番が待機する小屋はないようだ。なんか不思議だな。


 歩幅の合った数人と、列をつくるように歩いていた。そのまま林の道を抜けると、1.5階建ての木造住宅が立ち並ぶ町の通りに出る。

 ここは各家に庭があり、家庭菜園や家畜の放牧、花や薬草が植えられていた。

 家から若くて屈強な女性がジョウロを持って出てくると、花に水をあげ始めた。


 武術やってんなあの人。

 動きをじっと眺めていたら

 

「町の郊外に住んでいる人間の一部は傭兵だ。日常生活を送りつつ、妖獣や危険性のある人間が侵入しないよう見張っている」


 リヒトが肩越しに後ろを向き、話しかけてきた。

 説明してくれたから助かるけども、唐突なので吃驚するぞ。


「雇われ?」


「そうだ。町全体で生活面を保証している。宿はこっちだ。ついて来い」


 リヒトが誘導する先に、高い建物の並ぶ姿と時計塔が見えた。

 見える範囲全てに建物がある。奥の方に工場が煙をあげている。王都よりは小さいが、通常の町の広さの四倍はありそう。思った以上に大きな街だ。



 郊外を抜けると一気に喧騒強くなった。

 道がだだっ広くなり、馬車道が中央、その両脇に歩道、街頭と花壇、そして四階建ての石造りの建物が横一列に並んでいる。

 無駄なものを省いたようなシンプルさが目立つ。

 

 道行く人も建物から出てくる人も、それなりに裕福な出で立ちをしている。

 小奇麗な人々が歩いているので、あたしは自身の服装を確認する。血は目立たないが、斬られた跡、穴あき、ほつれ等、結構服が傷んでいる。

 手直しする暇がなかったので汚い旅人と化しているが、ジロジロと嫌悪の目でみられなかった。


 よくよく見れば、あたしのように小汚い格好で歩いている旅人もいる。このくらいなら目立たないようだ。


 村や町の規則によっては、見た目が悪過ぎると治安悪化に繋がるとして、町の中まで入れないこともあるが。ここは大丈夫そうだな。


 ちょっとだけ安堵して、のんびりした風景と雰囲気に、しばし痛みを忘れて景色を堪能していた。


「……ん」


 突然、胃から込み上げて吐きそうになったが、即座に飲みこむ。

 町の中だし目立つから、絶対に吐かない。


 ふー。と息を吐くと、リヒトが不意に話しかけてきた。


「俺の村では、ここに買物にくる奴が多い」


 気晴らしに会話しよう。


「あんたの村はここから近いんだ」


「ここから更に一週間ほどかかる」

 

「案外遠い……いやいや。あたしの村から一番近い町の時も、一週間くらいは歩いたような気がする。こんなもんか」


 近い、の距離感がわからないや。


「一番物資が集まるのがこの町だ。工業地区もあるし、仕事の種類も豊富で給料も高い。出稼ぎに出る奴はここを選んでいる」


「あんたもよく来てたのか?」


「そうだ」

 とリヒトが頷く。


「だったら田舎者じゃないな。くっそ」


 町よりも遥かに大きく栄えている。なんだか負けた気分になった。


 リヒトはキョロキョロと周囲を観察し、人が多そうな場所を避けた。小さく手招きをしてあたしを誘導していく。

 人とすれ違うのも疲れるので助かる。


「人が多いから、よろけてぶつかるなよ。相手が怪我させたと罪悪感を抱く」


 この軽口がなければもっと楽なんだがな。


「失敬な。当たり屋と同じにするな」


「だといいが」


「……」


 いつの間にか、リヒトはあたしの真横を歩いていた。1人分のスペースを開けているとはいえ、かなりビックリした。思わず歩くのを止めると、あいつは数歩進んで止まった。


「どうした。こっちの道を通るぞ」


「あー。なんでもない。こっちか」


 戦闘以外では滅多に横に並ばない。

 なんだか落ち着かないぞ。


 誘導に従って歩くと、町の中心部に向かっているようだ。途中に大きな川が流れており、向こう側に行くためにアーチ橋を渡るようだ。橋は金属製で300mほどの長さがある。

 橋の上には多くの馬車、人、家畜などが行き来していた。横幅の広さは十分あり、馬車や人が通行できる位置も決まっているので、ストレスもなくスムーズに移動できた。


 川は町を分断するように流れている。そのため大きいアーチ橋は5つ、細いアーチ橋が十数本かけられていた。川岸には岸壁が作られいくつも船が泊まっていた。

 小型船や客船や運搬船もあった。人々が船から降りたり乗り込んだり、荷物を積み上げたりおろしている。河川舟運かせんしゅううんによる貿易が盛んなようだ。


「貿易が盛んだな」


 感心して呟くと、リヒトが頷いた。


「盛んだな。川が近くにあると物流が発展しやすい。他のエリアにある町二つがこの川で繋がっているのも、町が発展した理由の一つだ」


「そっか」


 橋を渡りきると店が並ぶ通りにでる。商店街は人がごった返していた。

 そこを通し過ぎると、今度は鉄柵に囲まれた鐘の搭を背負った建物があった。遠くから見えた時計塔はこの建物みたいだ。

 白い石壁で作られた長方形の建物に装飾はなく、実用的な半円柱窓が嵌められている。やや丸みを帯びた屋根は黒いレンガで作られており、白と黒のコントラストが厳かな雰囲気を醸し出していた。


 囲いを出入する鉄ドアが開いていたので、興味本位で近づくと、この建物が精霊崇拝堂だと気づいた。

 びっくりして思わず鉄の扉の前で立ち止まる。

 建物を見上げていると、礼拝堂から背の丸い老夫婦や若い夫婦、3人の年配の女性が出てきた。会釈をしながらあたしの横を通りすぎる。


 入ってもいいかもしれない。と思い、あたしは崇拝堂の敷地に入った。


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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