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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第三章 ラケルス町のニアンダ
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休息場を求めて①

新章になります。

ミロノの休息と観光メインです。

<休むために移動するけども、辛い!>

 

 うーん。思った通りだ。

 あたしはげんなりしながら寝袋から這い出した。


 適度な場所にテントを張って24時間、その場から動かず、回復薬を飲みながら様子を見ていたが。

 寝返りする度に、というレベルではなく、安静にしていても体幹に痛みが走る。安全な町に移動してしっかり静養する必要があるなこりゃ。


 まあ。こうなる事は分かりきっていたので、特に何も思わないが。休む場所を探すのが億劫だ。

 

 眠るのも億劫になったので、時刻を確認しようとテントの入口をめくる。満天の星空が広がっていた。まだ深夜か。

 もう少し寝たほうがいいんだが。痛みで目が冴えてしまったな。


 テントからでると冷たい空気が纏わりついた。一昨日から気温が下がってきたが、今宵は特に冷える。


 ふぅ。と息をつくと、リヒトがあたしを一瞥した。

 あいつもテントを張っているが、焚火の番をするために外に出ている。


 あたしが焚火の傍に座ると、リヒトは怪訝そうに片眉をあげた。

 あたしは片手を挙げて、提案する。


「傷を治すために少しの間、町で養生したい」


 肺に息を入れるのが辛いが、声のトーンや大きさは普段と同じにしている。普通の状態と思わせるための、長年の癖みたいなもんだ。


「はっ」

 とリヒトが鼻で笑った。


「流石に泣き言を言い始めたか」


「そうだ。体を酷使しすぎた。野宿では休めないので、宿屋でしばらく静養したい」


 あたしがすんなりと頷いたので、リヒトはすぐに笑うのを止めた。


 数秒間、観察するような視線があたしの顔面にぶち当たる。『疑う』というよりは、『測る』という印象だ。


「まだ動けるか?」


 なんの感情の揺れもない淡々とした口調が飛んできた。あたしにはもう分かる。これは結構、リヒトが気を遣っている台詞だ。


「今は大丈夫だ。移動速度は落ちるが、あんたの手を借りる必要はない」


 そうか。とリヒトは頷き、すぐに指で8時の方向を示す。


「なら、すぐにラケルス町へ向かう。この森を突っ切ればすぐに到着できるから、それまでは歩け」


「ラケルス町? そこに安全な宿があるのか? しばらく床に臥すので周囲の警戒が出来ない。治安が悪い町や宿は遠慮したいぞ」


「問題ない。身を隠すのにうってつけの宿がある」


 リヒトは真顔でキッパリ言い放った。自信に満ちた目をしている。


 あたしはジト目になり、腕を組みながら頭を傾げる。疑うわけではないが、質問の内容を変えて確認した。


「そこ、あんたがくつろげるの?」


「俺がくつろげる」


 即答するリヒトをみて信ぴょう性が増した。

 くつろげると豪語したぞ。つまり安全面に問題が無い上、プライバシーが守られ、衛生的にも問題がないってことだ。

 里以外でそんな場所あるのか?


 しかし、あいつは誤魔化すことはあっても、嘘は言わない。信用しよう。


「わかった。そこへ行く」


「よし。夜明けになっていないがすぐ出発する。準備しろ」


 あたしが頷くと、善は急げとばかりに、リヒトは手早く火の始末をして野宿道具を撤去しはじめた。


 いや。動くの早くね?

 まだ日が昇ってないから真っ暗だぞ。


 と思っていたが、リヒトの周囲に火の玉がプカプカ浮かび、明るく照らした。直径2メートル弱の光が5つ。野宿場所を囲うように浮かんでいる。


 あー。これならよく見えるわ。


 あたしは横髪を指で触りながら、一応聞いておく。


「あんたは寝なくていいのか?」


「見張りも碌に出来ない奴が寝言を言うな。俺の体力があるうちに移動を終えたい」


 こちらを見ずにテキパキと準備して、あっという間にリュックに収まった。


 もう『夜明けになってから移動しよう』と提案する事は出来ない。

 寝るかどうか聞くタイミングのときに、止めるべきだったかな。


「わかった」


 あたしはゆっくりした動きでテントを片付け始める。

 三十分かけても何も言われなかった。遅いと文句を言われると思っていたんだけどな。

 怪我を考慮しているからだと思うんだけど、死に水を取られるようで落ち着かない。

 まだ大丈夫なんだから普通にしてほしい。




 さて。話によると、ラケルス町は真っ直ぐ森を突っ切って三日ぐらいかかるそうだ。

 まぁ、なんとかなるか。

 下手に体力を使わなければ問題ない。そう思ってたあたしは、リアの森の恩恵に頭を抱える。


「ううう。採取したい衝動を抑えるのが、こんなにつらいなんて」


 あっちこっちで貴重な薬草や素材が目につく。

 ちょっとした岩に鉱石がハマっていたりする。

 希少動物に遭遇する。


 うわああああ。採取したいいいいいい!


 叫ぶと体力削れるので、心で絶叫して奥歯をギリリと噛みしめる。


 ダメだ、ダメだ、ダメだ。


 移動中、常に葛藤。

 探索して採取したい衝動が何度も沸き上がるが、その度に『今は我慢だ』と己に言い聞かせる。

 

 体は棺桶に足を踏み込んでいる状態だ。

 無茶な動きをすれば、致命的なダメージを負う。

 下手すると即死案件だ! 重々分かっている!


「く! でも、これは必要」


 あたしはしゃがんで、目の前に沢山生えている薬草を毟り取る。毟った草は小さな袋にこれでもかと押し込める。


 これは寄り道してでも揃えないといけない材料だ。一日に何回も飲んでるとすぐ無くなるから、仕方ないんだ。


 あ。ついでにこの水の鉱石も拾って。

 あ。ついでにこのキノコも。美味しいんだよね。

 うん、仕方ない、仕方ない、これは仕方ない。

 薬草のついでだから。


「は……!」


 チクチク視線が頭部に刺さり、あたしは正常な思考を取り戻す。

 前方を見上げると、数メートル先を歩いていたリヒトが振り返って、白い目を向けていた。


 チクチク刺さる視線が『いい加減にしろ』と、伝えている気がするが、あたしは無視して薬草を採取する。


 いつの間にか日が暮れてきた。

 野営の準備をして簡単な食事を済ませてから、回復薬を作り始める。

 草を削る音が響き、特有の匂いが周囲に漂った。

 薬草を粉砕して練って、成分を抽出して混ぜ合わせる作業を行う。


 回復薬は瞬間的に傷の完治させるわけではない。

 流した血は戻らないし、えぐれた肉が戻るわけでも、失った手足が生えるわけでもない。

 自然治癒力を促進させて10日かけて治す傷を、3日で治すようにする感じだ。


 そして回復薬の効果を更に高めるためには、安静及び栄養睡眠が必要不可欠。

 動き回ると4割の効果しか得られない。

 

 あたしの場合、痛み止めを服用して無理矢理動いているので、実際の効果は4割以下だと思う。

 まぁ、仕方ないよね。自業自得だし。


 二百年前では、今の手法でもっと凄い薬が作れたらしいが、いくつかの材料の消失により現在は再現不可能だ。残念だなぁ。



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