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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(白色を纏う亡霊)――
171/279

彼らが選択した惨劇④


 シェイリーは村長達を見下ろした。真っ黒な瞳から憎悪が降り注がれると、彼らは身を寄せ合った。


『私、死ぬ時すごく痛かった怖かった。だから、みんな死んでほしいって思って、復讐しようって決意したの。そのやり方は直ぐに頭に浮かんだわ』


「まさか……この花は……」


 震えながらも医者の老婆が聞き返したが、すぐに頭をふった。


「でも、成分分析はした。そのときは全く同じだったはず」


 シェイリーはにやりと、醜悪な笑みを浮かべる。


『そだよ。全く同じ成分を凝縮させたものを作ったんだ。リリカの花は取りすぎると毒になっちゃうでしょ。それに毒に呪いをかけて更に悪いものにしたの』


 彼らはあんぐりと口をあけた。


『みんなリリカの花に絶大な信頼を寄せてるでしょ? 私の病気の原因だったから。みんなもリリカのお薬で死ねばいいんだ。あははは』


 シェイリーは医者と助手二人に近づきケタケタと笑う。幼女の表情を間近で見た三人は、青ざめ、凍えないよう、お互いに身を寄せ合っている。

 しかし誰一人として目を離さない。

 贖罪を受け止めているのか、現実を受け入れられないかは、分からない。


 シェイリーは村長夫婦と木こりに視線を向ける。


『薬で治ってほしいと思って沢山飲ませたんだよね。残念でした。本当は毒でーす! あはははは』


 くるりとステップを踏むシェイリー。

 沢山の白い花が村長達の周囲を飾った。


『村に流行らせたのは病じゃないの。毒だよ! みんなが! たくさんの毒を! 大切な人に飲ませて! 殺たんだよ! 私のように殺していったんだよ。あはははは』


 シェイリーはくるり、くるりと彼らのまわりを一周して、村長の目の前で止まった。軽蔑した眼差しで見下ろす。


『毒を飲ませて、苦しませて、死なせてたんだよ。ヂヒギ村のみんなが、自らの手で家族を殺したんだ! 残酷だねぇあはははは』


 大声で高らかに宣言するシェイリー。

 この場に駆けつけ、幼女の声を聞いた村人達は鬼から人へ表情が戻ると、顔色を失い地面に座りこんだ。茫然自失になり空虚を見つめたり、頭を抱えたり、独り言をブツブツ言っている。


 事実に押しつぶされているんだろうな。


『ねぇ? 今、どんな気分?』


 くるりと周りを見渡して村人達の様子を眺めると、シェイリーは愉しそうに唇を歪ませた。


『あはははははははは! いい気味! いい気味! 私を殺すことを決定した大人を生かして、その大切な者を殺す。私とお母さんにした事を、怨みを、そのままそっくり返してやった! いい気味だ! あはははは』


 シェイリーは壊れたように笑いはじめ、辺りをくるくる移動しながら大量の涙を流し始めた。


【あはははははははは!】


 体の白い部分が涙に触れると真っ黒になる。徐々に魔王の姿に変貌していった。幼女だった背丈は成長して青年の大きさになる。


『お、ねえ、ちゃん……おね、ちゃ』


 野太い笑い声の合間に、シェイリーが苦痛な声をあげる。白い部分は顔と足の一部分しか残っていなかった。


 踊りながら、必死にあたしと距離を詰めていく。

 その動きは、楽しそうでもあるし、助けを求めてすがるようにも見えた。


『だめ、もう、わたし、ころ、して。ころ』

【あはははははははははははははは!】

『つ、らい、やだ、たすけ、た』


 高笑いと泣き声が混じる。

 そろそろ限界のようだ。シェイリーは約束通り、自分が消える事を教えてくれた。

 結構根性あったな。


 さて。切るか。

 大振りで拳を振り上げたナルベルトを足払いして転がす。その隙にシェイリーに駆け寄った。

 真っ黒い塊は村人を睨みつけている。あたしに気づいてないのは好都合だ。


【愛しき姫を害する虫は死ぬがいい!】

「シェイリー、感謝する」


 あたしは小さく礼を言って、背後から魔王の呪印を横に凪いで真っ二つに裂いた。

 衝撃で驚き魔王は振り返る。

 表情もなにも読み取れない真っ黒な影なのに、泣きそうな顔で微笑んだように見えた。


 あり、が……。と口が動いたような気がするが、


【あ? れ? ぎゃあああああああああああああああああ!】


 断末魔の絶叫が口から迸る。

 魔王の頭部から額半分がずり落ちて、地面に落ちると塵になって霧散した。


【何が、何がおこって、あたまがっががはががあああああっ】


 すぐに体に起こった異変を察知したのか、消失した頭部を両手で押さえ、痛みに耐えるように走った。

 魔王は座っている村長達へ突撃して、村長と若い助手に覆いかぶさった。恐怖により村長達は声が出せない。


【我、は、許さない、いい、いいいいいいいいいいいっっっ! おのれええええええええっ】


 魔王は彼らの目の前で、怨恨の断末魔をあげると、あっけなく空気に溶けていった。


 ぎゃあああああああああああああああああああああああ!


 溶けたように消滅した魔王を間近で見てしまい、村長と若い助手をはじめ、近くにいた木こりや医者や妻、村人達も叫び声をあげる。

 そのまま我先にと周囲の村人達が恐慌状態になり、動ける者がこの場から逃げていった。


 あたしはシェイリーを切り終わると、追ってきたナルベルトの攻撃を避ける。

 

 よし! 大惨事は免れた。

 あとはこいつだけだ。


 シェイリーが消えた途端、緑が枯れて溶けて消える。あっという間に元の村風景に戻った。

 やっぱり家々に火災の跡が残っている。


【ちょこまかと逃げるな!】


 あたしはナルベルトの拳を避ける。


ドッ!


 地面に小さなクレーターが出来ると、残っていた白い花の花弁が舞い散る。


 ナルベルトの攻撃は直撃を受けないように注意しないと。

 家の壁に穴があいたり地面が凹んでいるので、常に闘気で刀を覆わないとポキッと折れそうだ。

 まぁ。攻撃が大振りなので、避けるのはわりと容易いんだけど、


【くたばれ!】

「やだね!」

【ぐがっ。ぐおおおお小癪なああああっ】


 あたしの刀がナルベルトの腕や足を深く切り裂くが、怯みもしない。

 怪我しているのに攻撃の速度も威力も変わらないんだが。痛覚なくなってるんじゃないか?


「流星花火!」

【ぐ、お!】


 両手で受け止められた! 

 でも傷口が深いから効いている。もう一撃だ!


「流星花火!」

【があああああああ!】


「くっそ!」


 額に攻撃すると両腕でガードして防御した。

 こいつ自分の弱点を把握しているぞ。


 奥義を二発お見舞いしてみたが、太い両腕でガードされて額に届いていない。


 その代りに右前腕が半分以上取れかけているので、もう何発か加えて両腕を切り落してから、額を切るのが手っ取り早い気がする。


【お前の血があれば! 助かったんだ! お前だけは必ず殺す!】

「知るか」


 ぶん!


 魔王が腕を揮う。傷の再生はなく、振り回すことでパクパクと波打っていた。


【ちょこまかと!】


 地面の蔓が消えると魔王のスリップ数が減った。

 下半身に力が入りやすくなったのか、少しだけ攻撃の威力が増す。


【くらえくらえくらえええええ】


 大振りで殴り、切り、潰そうとする攻撃を繰り返す。

 その動きを注意深く観察すると、攻撃時に体の重心が前に傾く瞬間がある。


 一瞬だけバランス崩しているな。攻めてみるか。


「一刀両断!」


 あたしは額に向かって攻撃を仕掛けると、ナルベルトは右腕だけでガードした。


 あれ? 右腕だけ?


 嫌な予感がしたが、振り降ろした勢いが強すぎて寸止めなんて出来ない。


 パックリあいた傷口に刀がめり込む。そのままスパンと音を立てて右前腕が上に飛んだ。やっぱり血は出ないようだ。


 三度目の奥義でナルベルトの右腕を切り落とすことに成功した。


【ここだああああああああ!】

「がはっ!?」


 腕が地面に落ちる前に、あたしの視界が高速で横に流れた。

 甲鉄の玉が高速で当たったような衝撃が脇腹に来た。ナルベルトの左拳が腹部にめり込もうとしたので、咄嗟に足を浮かせる。


ガッ ゴッ


 体が回転した。勢いに乗って地面を二回ほど高くバウンドして、最後に重力に添って地面に激突した。

 

 やべえ、目が回った。

 頭がクラクラする。


 衝撃を分散させて受け身をとったものの、あたしは地面に大の字になっていた。

 全身砂まみれ、打撲だらけだ。骨は折れていないし、刀離さなかったので十分マシだ。


 うーん。あれは、刀を振り降ろしたと同時に殴られたな。

 最初から腕を失う覚悟でカウンターを狙ってたっぽい。


 よくやるわ。感心する。


 あたしはゆっくり起き上がる。

 肋骨辺りと横っ腹に激痛が走る。肋骨数本は折れたっぽいけど、それでも腰に力が入るので筋肉は無事だ。


「ぃって。げほっ」


 血反吐を吐いた。内臓損傷はアリだな。

 

 仁王立ちして、口元の血を左手の甲で拭き取りながらナルベルトをみる。

 あいつも仁王立ちをしている。距離は開いているが、こちらに向かってくる気配はない。

 

 あれ? おかしいぞ?

 次の攻撃が来ない?

 一瞬でも無防備だったにも関わらず、連続して攻撃が来なかったな。

 何を企てている?

 

 あたしが攻撃態勢になると、魔王はこの場から逃げようとする村人たちを睨みつけた。


 うわ、めっちゃ嫌な予感がする。



読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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