毒霧の森を進む②
まず、どの魔王を先に倒すか話し合った。
森を移動するのに毒霧が邪魔だ。という意見を述べたリヒト。毒霧の魔王の方が斧男よりも弱い可能性があると予想。
まぁ。どっち先にしようがあたしは構わないので、リヒトの案に沿った。
かくして、毒霧を発生させている魔王目を指して、森を歩くこと丸2日。休憩を多めにとり、ゆっくりと移動している。
「……ん? この感じ」
額にほんのり熱さを感じはじめた。西南の方角、そこに魔王がいる。あと2日くらいはかかりそう……かな?
「よいしょっと」
低い段差をジャンプして降りる。リュックが背中で少し跳ねるが、背中は全然痛くない。
あたしの怪我が急速に回復しているのは、絶えることなく回復薬を飲んでいるお陰だ。
ストックしている数は10本。朝昼晩と、痛み止め代わりに飲んでいた。
本当なら2日で無くなる量だが、リアの森で材料が全て揃うため、必要な時に必要な量を作れてしまった。
「採取楽しいな。希少価値がある薬草があっちこっちにあるって最高!」
あたしは薬草についた土を手で振り払う。
薬草袋の厚さを手で確認しながら、嬉しくてにやっと笑う。
そんなあたしの行動を気にすることなく、リヒトは黙々と歩いていたが、空を見上げて足を止めた。
「おい、ここで野宿準備するぞ」
あたしは空を見上げる。
太陽が西に傾いていた。もうじき日が暮れる。
「わかった」
返事をしながらリヒトのところへ向かう。数十メートル開いていたがすぐに追いついた。
リヒトが立っている場所は、木々の隙間が広く平らだ。下草が少ないので、焚火や寝床確保で草を刈らなくていいな。
「準備する前に簡単に薬草の種類分けをさせてくれ」
あたしは地面にリュックを下ろして、中からコンパクトに畳んだ布を取り地面に広げて、その上に薬草袋を置いた。
それを見たリヒトが呆れたようにため息をつく。
「採取するために歩いているようだな」
呟きが聞こえたので、あたしがパッと顔を上げると、リヒトはビクッと肩を小さく震わせ、無感動に見下ろしてきた。
あたしはグッと親指を立てた。
「この森は宝の宝庫! 素晴らしい森だ! 回復薬だけではなく別の薬も作れるし、希少価値の高い薬草もある。怪我なかったら一週間ほどお暇をもらって採取に明け暮れたいぐらいだ! 種とか入手できれば持って帰って里で栽培できるか試してみたいな!」
楽しくて浮かれたまま喋ると、リヒトは眉間のシワを濃くした。苛立つというよりは、言葉の意味を考えているようだ。
数秒間を開けて、首を少し傾げるリヒト。腕を組み不可思議そうにみてくる。
「まるで調合師と話をしているようだ。それで……寝る間も惜しみ回復薬を何本作る気だ?」
「空の容器の数だけ!」
多分10本くらい。
乾燥が必要な物もあるからトータル4、5時間くらいかかる。でも小型抽出機材使ってるから、これでも早い方だけどね。
リヒトはジト目になって軽蔑感を顕にするも、あたしが歓喜している事に諦観したのか、それ以上何も言わなかった。
さて、本日の野宿の内訳。
あたしが焚火。
リヒトは水を貯める太いツルから水を取り出す。
ご飯は各自で用意。
って言っても……固形の携帯食を食べるだけ。
ふふ。お湯で溶かさずに固形のまま食べられるようになった。ガリガリパサパサな穀物味だが、溶かしたモノよりは美味しい。
お茶で一服したあと包帯を取り替えた。傷の深さがゆっくりと浅くなっている。ほんと回復薬様々だ。
今日もあたしから就寝。今夜こそ見張りの時間に起きないと。
………………。
……。
夜明けで空が白い。早朝5時くらいかな。
「また眠りこけてしまった!」
あたしは勢いよく、寝袋ごと上半身を起こす。
イモムシの背伸びのようにグインと起きると、焚火の傍にリヒトがいて、あたしの動きに目を丸くしている。
「気にせず起こせ!」
開口一番に怒鳴ると、リヒトはゆっくりと肩をすくめた。
「知らねぇよ。時間になったら自分で起きろ」
そしてあくびを噛み殺す。
あたしは急いで寝袋から抜け出すと、焚き火の傍にあぐらをかいて座った。
「くっそ。返す言葉がない」
リヒトは迷惑そうに首を左右に振った。
「あんたは今から昼まで寝ろ。五時間は寝れるから少しは解消できる」
「必要ない」
「あるだろ! 目にクマできてるぞ!」
あたしが指差しすると、リヒトはしかめっ面になった。指差しが気に入らないとばかりに睨んでくる。
「そりゃクマぐらいある。数日の徹夜なら活動に支障ない」
リヒトはキッパリと拒否して、片手鍋に水袋の水を注ぎお湯をつくり始める。
「だから寝ろって! 大分回復してきたんだから見張りくらい出来るわ!」
あたしは自分の胸をドンと叩く。しかしリヒトの表情は変わらない。ヒヤッとした冷たい雰囲気をまとい「で?」と聞き返す。
「聞き返すな!」
大声をだすと、リヒトはジト目になり、一度瞼を閉じてため息をついた。両手を膝の上に置く。
「……全く寝てないわけじゃない。一時間寝て、一時間起きるを繰り返している。だからある程度は睡眠を取っている」
「駄目だろそれは寝れてないやつだ! 疲れが取れないって!」
ツッコミの代わりに地面を叩く。
ダァン、と大きい振動がおこり地面が震えると、火にかけていた片手鍋がズレてバランスを崩す。
「あ、やべ」
あたしは浮腰になり咄嗟に前へ出ようとしたが、リヒトがサッと取っ手を持ち、元の位置に戻した。
「おい。加減考えろ」
目に怒りを宿しながらリヒトが睨む。
「すまない。でもこれでわかっただろ。回復してるからあんたが休んでも大丈夫だ」
リヒトは若干視線を和らげてから、コップにお茶の袋を入れる。
二分ほど間を開けてから、あたしの方をみる。
「気配はどのくらい探れる?」
「……半径三メートルくらいだ」
自分で言っときながら凹む。これは文句言われるかもと身構えていたが。
「……その距離なら、俺もすぐ対応できる」
「ちょっとまて! なんであんたが対応しようとしてんだ!」
「お前は魔王に集中しろ」
あたしは驚いて目を丸くする。それと同時に右手の人差し指でリヒトを指し示す。
「そんな思慮深さいらない! 逆に不愉快だ!」
「……」
リヒトは口を開くが、二の句が告げないのかすぐに口を閉じた。そして表情が消える。
憂い雰囲気を感じとって、あたしは気づいた。
これはあいつなりの配慮だ。
しまったなー。
あたしはすぐに指し示した手を下ろして、正座で座り直す。
「いや。あの。言い方を間違えた。不愉快というか、変に気を使われていると調子が狂うんだ。そしてあんたに倒して申し訳ない気持ちになるから、いつも通りの冷徹さをだしてくれ」
「……人を冷徹呼ばわりするな。申し訳ないと思うんならさっさと回復して万全の状態にしろ」
リヒトが呆れたように呟く。
雰囲気が戻っているので、あたしの言いたいことは伝わったみたい。ほっとする。
コポコポとお湯が沸騰し始めた。
リヒトは片手鍋を持ちお湯をコップに注ぎ、終わると鍋に水を足し、また火にくべている。
「わかった。だからあんたは寝ろ」
あたしが念を押す。
寝ろ寝ろと心の中で唱えながら、じっと睨むこと数分後。根負けしたようにリヒトが首を左右に振った。
「わかった。三時間寝かせてもらう」
リヒトが立ち上がり焚火の傍から少し離れ、リュックから寝袋を取り出した。
使ってねぇじゃん。ほんとに途中で仮眠していたか疑うぞ。
あたしがジト目で眺めていると、リヒトがこちらを見る。
「そこにくべてある鍋のお湯。好きに使え」
「ん?」
あたしが首を傾げながら、焚火にくべられている片手鍋に視線を向ける。
戻すとリヒトは背を向けて寝転がっていた。規則正しい呼吸音が聞こえる。寝落ちしているかもしれないので声はかけない。
あたしは地面に突っ伏して、無言で悶えていた。
だから微妙に優しいのは何故だ!
薄気味悪いというか、鳥肌モノなんだけど!
弱っているから一時的に世話をしているなんて、イメージになかった!
でも悪い気はしない。
普段優しくないやつが優しさを魅せるなんてギャップ萌え。里の女子が好きなアレだ。
狙ってやる奴はよく見るが、素だと邪念が一切感じられないのか、勉強になった。
でもなぜだ、妙にむず痒い。
そわそわして落ち着かないので、あたしは地面に突っ伏したまま、片手鍋から聞こえる煮えたぎる音をしばらく放置していた。




