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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(共有された秘密)――
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腹を割って語り合う夜⑥


 こいつほんとにサトリなのか?

 さっきの会話、どこをどう捉えたらそんな結論になる?


「何言ってんだよ。あたしは自分の保身を確実にしたいだけ。催促されて再々血を与えるなんてゾッとするし、他所に情報が流れてもゾッとする。素知らぬふりを貫けって念押ししたいだけだ」


「それだけか?」


 念を押されたので頷く。


「それ以外になにかある?」


「あるだろう」


「じゃあ。気を付けてほしいことは何だよ。あー。分かった。サトリについてだな。それを言うなってことだろ。もちろん秘密にするぞ約束する」


「……は?」


 リヒトは再度、間が抜けた声をあげた。

 鳩が豆鉄砲を食ったように目をきょとんとさせている。


「『は?』じゃない。違うのか?」


「いや……」


 リヒトは困惑したように瞬きを繰り返す。

 あたしはピンときた。やっぱり血清について根掘り葉掘り聞くつもりだ。呆れたと軽蔑の眼差しをむける。


「あんたもしかして、毒とかバンバンに受けても平気って安易に考えてるよな。残念だがこれは奥の手だ。滅多な事じゃやらないからな! 普通の毒消しを頼れ!」


「……な、……え?」


 リヒトは驚愕の表情になって右手で頭を触った。理解できない、耳を疑うという動作にみえた。


 なんて奴だ! あたしの危機感理解してないぞ!


「うっわ! マジで人を毒消しに使う気だったのかこの鬼畜! 人でなしが!」


「……ちょっと待て」


 リヒトは狼狽しながら立ち上がった。あたしは冷ややかな眺める。


「ちょっと待て! ちょっとまて!」


「何だよ、この人でなし鬼畜小僧」


「サトリであろうがなかろうがどうでもいいって本気か!? 奇人変人の類かよお前は」


 思いっきり指差しされた。

 腹が立ったのであたしも立ち上がる。痛いので動かないけども。


「誰が奇人変人だ!」


「お前だ! なんでそう平然としてるんだ意味わかんねぇ! 心を読まれると気づいたら、もっと不気味がったり、軽蔑したり、逃げたり、果てはサトリ能力がある連中から問答無用で殺されそうになるんだぞ!」


「なんか。どっかで聞いたセリフだな」


 あたしはポンと手を打った。

 ルイスだ。あいつも同じようなことを言っていた。強すぎるサトリは迫害されるのかもしれない。気の毒なことだ。


 そこまで考えて、会話がかみ合ってないことに気づく。

 あたしの伝えたかった事は『血の特性』について。それ以外に興味はない。

 しかしリヒトは『サトリ』について考えていたようだ。

 お互いが自分の秘密について警戒しているならば……あいつが驚いている理由は一つだ。サトリと知られても攻撃されなかったことだ。


「なーるほど」


 同情心がでてしまって、あたしの怒りが鎮火した。


「あんたがさっきから不機嫌だったのは、あたしが殺しにかかってくると思って全力で警戒してたってことか?」


「……っ!」


 図星だったようだ。バツが悪そうに押し黙る。

 リヒトのことだ。すぐに攻撃に転じられるよう密かに攻撃の準備してたはずだ。


「ははは。残念、期待外れだったな」


 あたしは控えめに笑う。本当は腹を抱えて笑いたいが傷が痛いのでこれで精一杯だ。


「……」


 リヒトが失態に気づいて右手で口を押さえる。視線を泳がせたが、どう言っても今更取り繕うことはできないと思い直し、ぷいっとそっぽを向いて座り直した。

 両腕を組みながら、吐き捨てるように己の正当性を口にする。


「大体の人間の反応がそうなんだよ。お前は違うって保証はなかったからな」


「はははは……」


 あたしは軽く笑いながら、またしてもデジャヴに襲われていた。

 ルイスも同じ事を言って泣き叫んでいたなぁ。類は友を呼ぶとはまさにこのこと。

 そんなふうに思い出していると、リヒトが烈火のごとく吠えた。


「同類にすんな! あんなに女々しくねぇし、一線は越えてねぇ!」


 この場合の一線は『嬉々として殺してない』っていう意味だろう。

 同族嫌悪という言葉が頭に浮かぶ。

 カチンときたのか、額に血管を浮かせてリヒトがまた吠えた。


「あのクソガキと同じ扱いするな! 俺はあんな志の低いやつじゃない!」


「落ち着けよ」


 あたしは両手の平をリヒトに向けた。敵意なしアピールだ。大分興奮しているので少し落ち着いてもらいたい。


「似てる言葉を発していると思っているだけで、性格が似てるなんてこれっぽっちも思っていない」


 怒りに支配されてているリヒトから睨まれる。圧が強い。ほんと目力強いなぁこいつ。

 なんだか可笑しくなって、あたしは逆に肩の力をすっかり抜いた。癇癪を起した子供を相手しているような気分になってしまう。


「念を押すけど、あたしはあんたを殺そうと思わない。そして心が読めるからと避けたりし怖がることもしない。今まで通りというか……災い倒して呪いを解くまでって事で手を組んだだろう。変更はない」


「----!」


 口を一文字にしてリヒトは黙る。

 数秒、探るような視線を向けてきたが、すぐに目をそらした。無言のまま静かに座ると、左手を額に当てて深呼吸をする。ゆっくりと息を吐いた。すーっと怒りの波動が弱くなって、消える。


「……そうだ」


 吐き捨てるような口調で、同意が返ってきた。


「呪いを解くまで。……手を組んだままでいい」


 パチっと薪が火の粉を撒き散らして跳ねる。燃えて木炭になった木が灰になり崩れ落ちた。積んである木の総量が少し減る。

リヒト脇に置いてあった細い枯れ枝をペキッと真っ二つに折り、焚き火に投げ入れて火の調節を始めた。

 いつもの野宿風景が戻ってきた。ひと段落ついたのであたしも座る。

 うっ。体が痛い。もう今日は寝てしまおう。


「悪いが先に寝る。いつも通り三時間後に起こしてくれ」


 返事はない。

 了承だな、とあたしは寝袋のところへ行って潜り込む。


 ふぅ。やっと一息つける。

 やってくる睡魔を捕まえて瞼をおろそうとして


「お前、俺に怯えないんだな」


 リヒトの声が聞こえてゆっくり瞼を上げた。


 この話題まだ終わってなかったのか?



読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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