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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(共有された秘密)――
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腹を割って語り合う夜⑤


リヒトは視線を外して押し黙り、そのまま沈黙する。妙な重い空気が周囲に漂う。

お互い隠していた秘密があって、それがお互いにバレたということ。

バレるきっかけを作ったのはあたし。


「気づいたよな?」


静かに話を切り出す。

あの時、あたしは『血』の特性を心で叫んだから伝わっていても不思議じゃない。

だってリヒトはサトリだ。

それもおとぎ話で知るレベルの、強力で強大な力を持つサトリ。

でなければ、声を頭に届ける事なんて出来ない。

まして、会話することなんてできるわけがない。


「テレパシーを送れるくらい強いんだから、あたしの体質について読めただろう?」


リヒトは自嘲が含まれている笑みを浮かべた。


「……ああ。お前が考えてることで正解だ。俺はサトリだよ」


どうやら白を切るつもりはないようだ。


「なら……」と聞き返すと、彼は面倒だと言わんばかりにゆっくりと首を縦に振った。


「お前の秘密も知った。何で医者を恐れていたのかの検討もついた。毒を摂取するとすぐに耐性と血清が出来るんだな。だから毒が効いても死なない。俺が倒れた時も解毒を含む血液で助けたってことか」


「正解。あたしが隠していたのはソレだよ。全く、我ながら面倒な体質だ」


「お前こそ、サトリ以上の異常体質じゃないか」


「異常者って失礼な。特異体質って呼んでよ」


「どっちでもいいだろ?」


リヒトは淡々とした声で平然と言ったが、顔から表情が消えている。そのままじっとしていると人形のようだった。だけど焚き火の灯りが目に映って、そこだけは強い意志が汲み取れる。


あいつ、めちゃくちゃ警戒し始めたんだけど。何事だ?

周囲にはなにも居ないような気がするんだけど……。

妖獣の気配でもあるんだろうか?


あたしは眉をしかめつつ周囲を見回して異常がないことを確認してから、警戒する真意を探ろうと、穴が開くほどリヒトをジッと見つめた。

居心地が悪そうに肩を揺らしつつ、リヒトは顔をそむけて焚火の方へ視線を落とす。

警戒しているだけか。そう感じ取って、あたしは気を緩める。


「言い方に悪意がありまくる。まぁいいけどさ」


肩をすくめながら、ふと、ルイスのことを思い出した。

何か引っかかるものがあると感じていたが、そうか、少しだけあの子と似ているのか。と苦笑する。


「だからあんた、ルイスを目の敵にしてたのか」


イラっとした空気が伝わる。同じ括りにしてほしくなさそうだ。

でも仕方がない。あたしから見れば二人はほんの少し似ていると思うからだ。


「あんたがどうしてあんなにムキになるのか不思議だったけど、これで納得できた」


目すら合わない会話を区切るように、パチっと焚火の木が弾けた。周囲に大きな音をたてる。

一休憩とばかりに、あたしは沸いている湯にポトンとお茶の塊を入れてゆっくりと飲む。


重苦しい空気が流れている。あいつは負の空気製造機か。

勘弁してほしいものである。もう子供じゃないんだから言いたいことくらいは言ってほしい。

そこまで考えて、あたしは「ふぅ」と音を出した。口腔の温かい空気が指にかかる。


さてと。話を進めよう。

あたしは鋭い視線をリヒトに送る。


「あたしから提案がある」


彼はコップの端を口につけたまま動きを止め、目だけであたしを見た。少しだけ落胆しているような光を宿していたが、


「……分かってる」


そう静かに言いながらすぐに視線を逸らして、ズズズっと茶を飲む。

妙に重い口調だったが、気のせいだろう。


「そうか! 話が早くて助かる」


あたしの要望をくみ取っていたようだ。一から十まで説明する手間が省けたことに、そして容易に受け入れて貰えたことに手をたたいて喜んだ。


あれ。なんか空気が重くなった気がするな。

多少は頼ろうとしていたのかもしれない。注意事項はしっかり伝えておこう。


「ならばこの件は他言無用で。血清は頻繁に使うとすぐにバレてしまうから、毒消しが効かない上、生死に関わる時しか使用しないのでそのつもりでいてほしい。あたしからは以上だ」


コトン


リヒトが真顔のままコップを落としてお茶を零した。

中に入っているお茶は足にかからず地面を濡らし、遅れてコップも地面に落ちた。


「…………」


コップを落とした姿勢のまま数秒固まっている。

珍しくコミカルな姿を晒しているなぁ。と思いながら眺めた。


「なにやってんの? 笑えるんだけど」


「……はぁ?」


思わぬ事態に吃驚した表情になっているリヒトが可笑しくて、あたしはつい笑いがこぼれてしまった。


「だから傷に障るから…………だめだおかしい! ふはははは! どうした! どうしたんだ一体!? イタタタタ! 傷が!」


「ちょっと待て」


コップを拾い上げたリヒトは少々動揺したように首の後ろをこすった。少し汗をかいている。

そのまま数分沈黙して、こちらを一瞥した後に言葉を続けた。


「心を読める奴がいたら気持ち悪いから、今後は別々に旅をして災い退治をする。……という提案じゃないのか?」


「はあ? なにそれ?」


急に突拍子のない事を言ってきたので、今度はあたしが目を丸くした。


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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