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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(狂気の同調)――
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詰問からの脱出⑥

 

 怒涛の喝采に思わず苦虫を噛み潰したような表情になってしまった。


 搾取するのに一滴残らず絞るとか、アホみたいな発言をしていて白ける。

 人間一人でどのくらいの量がとれると思ってんだ。


 血液量は体重の約1/13くらい。あたしは53kgだから4.0kg。血液1リットルの重さは約1kgなので、あたしから搾取できる血液は4リットルくらいだ。


 一人あたり、どのくらいの量を使えば効果がでるか実験もしない。症状の進行度合いも視野に入れず、単純に与えればいいだなんて。……片腹痛いわ。


 この村の人口は知らないけど、数人に与えたら終わりだと思うぞ。


 まぁ。そんなことは教えない。

 あたしには一切得がないからな。後々困ってしまえ。


 そんなことを考えながら村人たちの喝采を聞く。耳障りだが聞こえるから仕方ない。


 あたしは木こり達に押さえつけられたままだ。油断している今がいいタイミングなんだが、力が出ないから振りほどけない。

 もう少し体調万全なら逃げ出せるんだがなぁ。

 うーん。残念だ。


【魔王は救世主だった……俺たちを救う手立てを教えてくれた】

「これで村が……皆が……」

「あああ、魔王様……」


 喜びすぎじゃ……って引くぐらい、彼らは滅茶苦茶長く喜んでいる。


 さてと。

 もう少し考える時間があるようだ。


 何故、血が特効薬とバレたんだろう?

 特殊な機材がなければ判明できないはずなのに。


 それに魔王が依代に直接教えていた。実際にこの目で見たが信じられないな。

 あたしに聞こえないように色々アドバイスも行っていたようだし……意味がわからない。

 

 そもそも魔王って何がしたいんだ? 

 器がなくてもこうやって救うふりをして災いをまき散らせばいいのに。

 器を手に入れる理由ってなんだ?


「では早速、採血と行きましょうか」


 白衣の老婆が手を叩きながら明るく言ったので現実に思考を戻す。老婆と中年女性がにこりと満面の笑みで近づいてきた。


【そうとなれば首を落として血を抜き取ろう】


 悪鬼の一言で、老婆と中年女性の動きがぴたりと止まり、驚きで目を見開く。

 彼女たちと同じタイミングで「は?」とあたしは間抜けな声をあげた。


「おい、まて……」


 どうしてそんな結論に達した。と聞きたかったが、二の腕を掴まれた途端、あたしの体は宙を舞って何も置かれてない台に叩きつけられた。


「ぐはっ」


 腰と背中を強打してジーンと痺れる。すぐに木こりが手足を抑え込み拘束する。


 イラっとして殴りたくなるが、いたずらに体力を消費するのはよくない。安静にしているだけで多少は回復する。今は回復に専念しよう。回復するまえに死ぬかもだけど。


 悪鬼は床に落ちていた斧を拾ってあたしを見下す。成人男性の腰の高さくらいの台だが、その3倍くらいの身長横幅になった悪鬼は、背中をまるめるようにしないと台に斧が届かない。


 ちょっと滑稽な姿だな。と失笑する。


【首を落として逆さにすれば血が取れる】


 悪鬼の言葉に村人数名が動揺して「うぇ?」と声を出している。多分女性たちと村長だ。


 気持ちはわかる。それは血を抜くというか、血が噴き出して勿体ない事になる。

 心臓から脳へ血をり込むときの圧は強い。動脈静脈同時に切断した場合、あたしの体重なら多分2リットル以上の血が一気に噴出する。


 あはは。ほとんど血が体に残らないな。

 自分のとった結果で悪鬼ががっかりするのも面白そうだが、あたしもまだ死にたくないので説得をしてみるか。


 あたしは失笑したまま悪鬼に呼びかける。


「おい。この馬鹿。ちょっと聞け」


【なんだ? 命乞いか?】


 こいつ。初めてあたしの声に耳を傾けたぞ!

 ふざけんな!


 そう罵倒したいのをぐっと堪えた。


「血が薬になるって本気思ってるのか?」


 あたし言葉に、ずっと黙っていたもう一つの顔がニヤリと笑った。

 すると悪鬼の目と口がすっと閉じて寝ているような顔になった。


【我の目は誤魔化されない。貴様の血は希少価値がある。毒を無毒化し耐性を得る、それを人に投与すれば同様の効果を得ることができる。人間とは思えない傑作品だ】


 こっちが魔王か。

 完璧に分析されてるんだけど、何故?


「理解できない。……魔王は心が読めるのか?」


【見定める。器に足り得る肉体かどうかを。……品定めをすれば色々解るものだ】


 斧を持っていない手であたしの頬を指でついっとなぞる。出血跡にうっすら線ができる。

 頬をなぞった指はそのまま顎にいき、首を這い、胸骨部へおりる。


 うっわ。ナチュラルにセクハラしやがる。


「やめろ、気持ち悪い」


 軽蔑した眼差しを向けると、魔王はせせら笑った。


【貴様も良き器になりそうだ。我を求めればこの状況をあっさりと打破できよう。ははははは】


「遠慮する」


 そうきっぱり言い放って、あたしはふと、魔王と普通に喋っていることに気づく。

 会話を成立させているなんて、どういうことだ?


「……なんであんたはまともに話ができる」


 無意識につぶやいた言葉に耳を傾けた魔王は、あたしの体から手をひっこめ、物欲しそうな目つきになる。


【奇怪なことを述べる。我と相まみえたことがあるのか?】


 この話に頷くべきではない。


「噂話で、魔王は話が通じないと聞いたことがあったのでな。噂は所詮噂かと思ったんだ」


【ふぅむ。我を倒せる者が育っているということか。それは良き器だ。できれば我を求めてほしいものだ】


 魔王が感心したように喋るその横で


【早く、早く、血を】


 悪鬼の顔が痛みに呻くように左右に振れて無理やり言葉を話し出す。

 魔王の顔は眼だけ悪鬼の方向に動かすと、嘲るように笑みを浮かべたかと思えば、すっと目と口を閉じて寝ているような顔になった。

 表情豊かになった悪鬼は充血した眼球を隣の顔へむける。こいつら同時に喋れないのかもしれない。


【今は邪魔をするな。こいつを殺して、首を切って、血を沢山、はやくしなければ、妻が】


「おい。聞け馬鹿の方」


 呼びかけたら悪鬼があたしに視線を落とした。


「村を覆っている毒の霧も災いで風土病も災いだ。あたしの血で病だけ治そうとしても治らない。すぐ再発するは……」


【それがどうした?】


 悪鬼は理解できないとばかりに首を傾げた。


「はぁ。なんだ分からないのか。風土病はそれを起こしている魔王を倒さない限りいくら治療をしても意味がない」


 この病に対する処置ができたと気づかれれば、別のもっと厄介な病が蔓延するだろう。


「あんたとは違う考えをもつ魔王がいるんだ。そいつをなんとかしなければ、あんたのやることは無意味だ」


 魔王を倒さないと根本的解決にはならない、と他ならぬ魔王に言っている現状にこんがらがりそうだ。

 力の根源は一緒でも、扱う者によって考え方は千差万別。

 個人に憑依する魔王に連携などない。個人プレーで好き勝手やるということだ。


【ふむ】


 伝えようとした意味が全く理解できないようで、悪鬼は目を細めて眉をしかめた。あたしをバカの子と認定したような冷ややかな目を向けて首を左右に振った。


【妻が治ればそれでいい】


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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