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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(狂気の同調)――
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詰問からの脱出④


「他人ごとだと、たかをくくって……どれほどの人間が苦しんでいるか理解できるか!?」


 悪鬼は攻撃の手を緩めなかった。

 寧ろ、一撃殴ったことで抑えていた感情が爆発したように、鬱憤を晴らすように殴りつけてくる。


「自分が助かればいいと思うのか! 村の者が苦しんでいるのを見て何も思わないのか!」


 あたしは歯を強く食いしばった。丸太で殴られているような激しい痛みが体中に広がる。特に腹を何度も殴られる。


「このひとでなしが!」


 それはあんただろうがああああああああああああ!


 激しくツッコミしたいが今は沈黙を貫く。

 口を開いた瞬間に拳が顔面に当たれば、顎の骨が砕けたり歯が飛んだりするし、万が一にでも舌を噛んで切ってしまったら、それこそ取り返しがつかない。

 眼球への損傷も極力避ける為、目も閉じている。


 そのまま衝撃に耐えることと。そのついでに悪鬼の自分の事を棚に上げた罵倒を聞く事、およそ数十分。


「さあ、喋れるうちに答えろ」


 息を切らせながら悪鬼が拳を引っ込める。彼の手には返り血がべったりとついていた。

 殴って疲れたのか、焦っているのか、優位に立っているにも関わらずに余裕を感じられない。


「まだ喋れるだろう。気を失ってもいないようだしな」


 まぁ、喋れるけどな。胸糞悪くて喋る気力がない。


 結局、顔が二発と腹部が五発で合計七発殴られた。

 数は少ないが一発の威力を考えると、数掛ける三倍のダメージは蓄積されている。

 顔面と腹部は内出血だらけだし、やっぱり口の中切ったり、胃が切れて血反吐吐いたり、骨も数本イッたし、内臓も損傷を受けた。


  はあ。とため息を吐こうとして、全身に激痛が走る。

 

 うーん。満身創痍だ。

 しかし意識を保てるギリギリを狙っているから頭部へのダメージは最小限に留めた感じだな。

 まぁ、悪鬼の狙いはあたしの命ではなく、病に関する情報だから、それを聞くまでは生かすつもりなのかも。


 だったら、偽の薬とはいえ作り方を教えたら用済みとして殺されるかもしれない。

 結果を待ってくれるタイプじゃないだろうし。

 黙秘が正しいのかもなぁ。


 悪鬼があたしの髪を掴んで持ちあげる。振動で口から大量に流れている血液が顎からぽたぽたと垂れて床に落ちた。


「薬はどこだ」


 睨む悪鬼の目には憎しみしか籠っていない。

 あたしの髪を掴んでいない手ではすでに握りこぶしを作っている。


 やれやれ、これはもうちょっと拷問続くなぁ。

 こいつの出方をみたいから、次の攻撃で意識を失うフリでもしておくか。


「薬はどこだ」


 あたしがこんなに冷静なのは拷問の経験があるからだ。

 っていうか、モノノフになるためには拷問の体験は必須だった。


 里の中で突然拉致されて大勢で殴られるという経験を一年に一度、ゲリラ的にやられる。あたしも拷問うけたし、拷問側になって大勢で一人を殴り倒したこともある。


 なので、この程度では心が折れないし、その反対に……殺意が増す。

 こいつ全力で殺す。

 ここまでやられて「ハイさよなら」なんて出来ないぞ。


 静かに怒りを携え、その気持ちが前面に出ないよう抑えて様子を伺う。

 ワンチャンは絶対やってくるはずだ。

 その時までに闘気を練って蓄えなければならない。


「チッ。強情な」


 悪鬼が舌打ちをして髪から手を離すと、あたしの背中が壁にドンと当たった。全身に痛みが広がる。

 この程度でも痛いなんて、動ける状態かなこれ。


「ナルベルト様、荷物をチェックしましたが所持はしておりません。この者の言うことは間違いないでしょう」


 あたしのリュックの中身が調べ終わったようである。種類別に丁寧に置かれた台を眺めて、老婆と中年女性は困った様に首を振り、落胆しながら報告をする。


「一般的な薬は携帯してますが、特に変わったものは持っていないようです」


「残念な結果じゃ」


「そうなんだ……」


 村長も木こり達もガッカリしていたが悪鬼だけは違った。


「もう一人のガキに全部使ったか」


 一度思い込んだらもう抜け出せないんだな。

 なんだかちょっと哀れに感じてしまう。


「そうなんだろう! 畜生! ちくしょおおおおお!」


 悪鬼の声はくぐもっていた。まるで泣き声のような印象を受けた。

 かんしゃくを起こして叫びわめき散らし、八つ当たりするようにあたしの頭を殴った。

 首がべギっと変な音を鳴らす。折れていないけど関節は痛めた。


 悲しみと憤りを乗せた拳を振るってくる。


「はぁ。はぁ」


 数発殴って少し落ち着いた悪鬼が肩で息をしつつ、あたしを見下ろす。

 

 攻撃が終わったので、あたしは薄目を開けた。

 頭部から生暖かい血がぽたぽたと垂れ、肩を真紅に染めていく。

 

 うーん。裂傷が大きくなって、出血もちょっと酷くなってきたな。

 これ以上拷問を受けると本気で気絶してしまう。


「まだ意識はあるな。さぁ喋ろ」


「……」


 反応が薄いあたしをみて、眷属達は笑い声をあげた。


「これはこれは、我慢強い」

「死んでも喋りそうもありませんなぁ」

「素直に喋れば助かるものを」


 台に置いた荷物に興味を失くして、ゲラゲラと笑いながら悪鬼の周囲に集まり始める。


 あたしは眼球の動く範囲で周囲を見渡す。

 鬼の顔に囲まれるって、恐怖心煽られるな。と、ぼんやり思った。


「助かりたいなら意地を張らず素直に答えるがいい。そうでなければ……」


 悪鬼はあたしの胸倉を掴んで持ちあげた。


「なぶり殺しに遭うだけだ。さあ! 出せ!」


 最終警告とばかりに目じりを尖らせ、強い殺気を放つ悪鬼。

 無理矢理視線を合わされ、あたしは心に激しい怒りが灯る。


 無いって、最初っから言ってるのに。

 疑って、疑って。

 そして勝手に落胆しているあいつらの姿を見ていると、無性に腹が立つ!


(……)

 

 怒りでふつふつ腹が煮えたぎる最中に――――どこからか声が聞こえた気がした。



次回更新は木曜日です。

面白かったり続きが気になったら、また読みに来て下さい。

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評価とかブクマだと小躍りします。

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