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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(狂気の同調)――
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詰問からの脱出③




 あたしは両腕を上にさせられて手首を縛られている。フックに縄がひっかかり足先が宙に浮いているため手首に縄が食い込む。

 ブーツを脱がされた足にも縄がくくられている。靴下は取られなかったが、どうあがいても皮膚に縄が食い込む。


 これから起こる展開は余裕で予想がつく。拷問は確定だ。

 近々起こる未来に怯えて半狂乱になってもおかしくない状況だが。


 あたしは、ふー。と小さく息を吐いて、冷静に現実を受け止める。


 吊るされていようが。

 鬼の顔になった村人に取り囲まれようが。

 巨体の悪鬼に真正面に立たれようが。


 あー。面倒なことになったなぁ。


 場慣れしすぎたことが原因で、これしか思い浮かばなかった。


 悪鬼の横にいる村長が和やかな雰囲気をかもしつつ、右手を肩の高さまであげ、提案する。


「旅の方、ナルベルト様は平和的解決を求めておられる。どうか村の者を助けてくれないだろうか?」


「どこが平和的解決だ。すでに何人の村人が犠牲になった?」


「彼らは仲間ではないから当然の処置じゃ」


 にこりと村長は笑った。


「仲間だろうが。少なくても、悪鬼に操られるまでは」


「提案は『病に効く薬を提供すること』。力になってくれるのであれば、旅の方にこれ以上乱暴な事をしないと約束しよう。どうじゃろうか?」


「あのさぁ。この話題、何度も繰り返してるんだけど。あたしの返事は『無理』だ」


「ナルベルト様は旅の方が持っていると言っている。だから持っているのじゃろう?」


「あたしにはあんた達の力にはなれない。出来る事と言えば、毒耐性を活かして毒の霧を命懸けで突破し助けを呼ぶくらいだ」


「ナルベルト様は旅の方が持っていると言っている。だから持っているのじゃろう?」


「リュックの中は何もないだろ?」


 村長の後ろで老婆と中年女性がリュックの中身を確認していた。


 これもちがう、あれも違う。と、怪我や腹痛や痛み止め薬を台に出している。

 この花も違う、この草も違う、この石も違う。と、薬の原材料の野草や花もまるっと出されて丁寧に調べられている。


「ありふれたモノしか持っていない」


「ナルベルト様は旅の方が持っていると言っている。だから持っているのじゃろう?」


「だから」


「ナルベルト様は旅の方が持っていると言っている。だから持っているのじゃろう?」


「あんたは蓄音機かっっ!」


 イラッとして怒鳴った。

 相手の神経を逆なでしないよう大人しく、理性的に行動しようと思っていたが、無理だった。

 話が通じないにも程がある!


「あたしは薬を持っていない! 助けを呼びにいくことしか出来ない! って説明してるだろーが!」


「旅の方、それじゃ困る。なんでも良いんじゃ。持っていなくても。その薬は連れの方に使ってしまったからないんじゃろう? ほら、薬の情報を教えてくれればいいんじゃよ」


 村長は説得するつもりか微笑みを崩さない。敵を睨みつける目に少しだけ憐憫が浮かぶ。


 んーー、情報?


 村長の台詞でハッと気づく。

 何も馬鹿正直にならなくてもいいのではないかと。

 時間稼ぎのつもりで、適当な材料で適当な配合を薬の情報として伝えるのも良いかもしれない。

 即効性ではなく、遅延性だと言えば……。


 あ、いや、待てよ。

 リヒトの件と比較されそうだ。

 半日で効果が出なければ嘘だとバレる。


 でも半日あれば抜け出せるチャンスはくる。この悪鬼さえいなければ、手負いのあたしでも眷属化した村人くらいは蹴散らせる。

 悪鬼に偽薬を渡して、この場から去ってから脱出するのもアリだ。


 となると、どの薬草を教えるか……だな。

 きっと様々な薬草から薬を作って試しているはずだ。ありきたりな薬草での調合はすぐバレる。


 この辺りにないもので、比較的薬としてあげられるものは……。


 バキっと骨がきしむ音がして、頬に鈍痛が響く。


「……ぅぐ!」


 考えている途中で魔王に顔面殴られた。


「っっ!」


 不意打ちに近い状態だったので、モロに脳が揺らされて意識がブラックアウト……しかけて、踏みとどまった。口の中に血の味が広がる。


 いきなり殴ることはないだろ! 

 一声くらいかけてくれよ!

 首がもげるかと思った。


ギロっと悪鬼を睨むと、彼は村長と立ち位置を交換しあたしの上に覆いかぶさるように立つ。


「ナルベルト様。まだ尋問の途中で……」


「もう待てん」


「分かりました」


 村長が困った様に目じりを下げつつ大人しく引き下がった。悪鬼がでかいので視界の大半が阻害された。


「無い。では話が進まない。出せ。出す以外の選択肢はない」


 この辺に生えてない薬草をいくつか思い浮かべる。はて、リュックに残っていただろうか。


「……薬はつ」


 薬を作ってみる。そう言いかけたんだが、腹部に鈍い衝撃がきて息が詰まった。

悪鬼の太い拳がみぞおちから下にめり込んでいる。黒くて太い丸太で腹を突かれたような錯覚が起こった。


「ぐっ!」


 即死させないように手加減しているだろうが、それでも威力は重く内臓への衝撃が強い。

 シルクチェインが変形して皮膚や筋肉に食い込んでくる。衝撃を吸収するのに長けている防具だが、耐え切れなかったようだ。おそらく威力の半分ほどのダメージは体に届いている。

 

 胃から逆流してくるモノを吐きつつ、ふっと薄く笑った。


 あってよかった防具! 

 これ無かったら確実にアウトだった、気絶してた!

 半分でも四分の一でも、威力を減らしてくれればそれだけ耐える事ができる。

 致命傷を負わなければなんとかなる!


評価とブクマ有難うございました!

大変励みになります!


読んでいただき有難うございます!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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