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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(狂気の同調)――
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詰問からの脱出②

==補足==

セクハラ描写があります。どちらかといえば胸糞悪いタイプ。



 あたしは誰かに向かって話しかける。


 

「ふぅーん。病院の地下だから薬の貯蔵庫かと思ったけど……なんか雰囲気違う」


「ここはリアの森で捉えられた動物を解剖したり研究したりするための、簡易施設なんですよ。調べるついでに素材をはぎ取るので、木こりたちからは解体場って言われてしまうんですけどね」


 白衣を着た老婆が薬草を手に持ちながら返事をしや。

 鬼の表情で柔和な口調ってちょっと怖い。


「しかし。簡易施設と言うには設備がなさすぎる。今ついているランプでは灯りが確保できていないし、貯蔵水もカラではないのか?」


 木こり達と医者達の手が止まる。


「光輝石は産地でないから消耗すれば補充できないとしても、水石は産地なのだろう? あれは使わなければ長期保存できる。指一本なら2ヶ月ほどだが、掌になれば毎日たれ流しでも約4年は使えるはずだぞ? 簡易解体場というわりに、水回りの設備が疎かでは?」


「見事な着眼点ですね」

「旅人さんは物知りじゃ」


 白衣の老婆と村長が同時に褒めた。

 そして老婆は移動し、貯蔵水があるはずだった岩から一つの灰色がかった木炭のような鉱石を取り出す。手のひらよりも更に大きな鉱石のクズだった。


「これは水石でした。一年半前頃に急に使えなくなってしまったんです。手のひらサイズを3つ、新しいのを入れてたのですが、3つとも同時に壊れてしまって」


「は? 3つとも同時に急に使えなくなった?」


 鉱石の力はいきなり途切れない。徐々に減っていきやがて枯渇するものだ。


「光輝石もほぼ同時期に一斉に使えなくなりました。用事がないときは利用していないので、こんなに早く消耗するとは思ってなくて。道も閉ざされているから仕入れることも出来ず……」


「ありえない。そんな事が起こるのは精霊の力、加護が消えたとき……」


 加護が消える?

 魔王の力がリアの森と村の中で起こっているから、精霊の力が弱まるのか?


「他に、早く使えなくなった鉱石はあるのか?」


 あたしの問いかけが呼び水となったように、村長と白衣の老婆は会話を始める。


「そうですなぁ。地下室で使っていた鉱石ですかのぅ」


「ええ。一階や二階の鉱石は問題ありませんね」


「地下に貯蔵していた道具屋も未使用の鉱石が使えなくなっていると嘆いておったわい」


「特に水石の消耗は激しいですねぇ。森の中に取りに行きたいけど、霧があっては……」

 

「火石は物持ちがいいから春まで保つとしても、水石は死活問題じゃ。村のあちこちで不具合が起こっとる」


 特に水属性が消耗しているか。

 魔王の力となにか関係があるんだろうか?


 あたしが二人の話に耳を傾けていると、

 

【こいつの装備を外せ。尋問する】


 魔王に肩を掴まれたのでめっちゃびっくりした。


「わかりました」

「大人しくしろ」


 命令に反応した木こりたちが村長を押しのけ、あたしを組み敷く。

 腕を魔王が、足を木こりの一人が抑えつけ、もう一人の木こりが縄をほどく。


 拘束が外れて暴れるチャンスだが……魔王の拘束力が強いっっ!

 万力で締められているようだ。腕が動かない。


「くっそ!」


 木こりを蹴って時折足が自由になるものの、すぐに全力で抑えつけられる。


「離せ!」


 手際よく羽織と上着と小手と靴を取り外された。

 目についた暗器は全て外され、リュックと同じ台に置かれる。


「あ、暗器の数がこんなに。い、異常だ……。なんだこいつ」


 木こりの一人が怯えたように呟き、人外を見るような視線を向ける。


 鬼のツラのヤツに言われたくない。


「モノノフは戦闘狂と伝わってますからのぉ。質の良い暗器じゃ。欲しいのぉ」


 村長がのんびりした口調で暗器が壊れないよう丁寧に置いていた。


 人の事言えないだろうが。こいつも戦闘狂である。


「ナルベルト様。どこまで装備を取りますか?」


 あたしの足に乗って体重で押さえている木こりが指示を確認する。


 ちょっと待ってくれ。

 

 あたしは現在、タートルネックのノースリーブ型シルクチェインの上着と、ゆったりモノノフズボンである。


 ズボンを脱がされても、その下にはスパッツ五分型のシルクチェインをつけているが、それを全部脱がされると、キャミソールとブラとパンツである。

 

 今から拷問が始まるなら、シルクチェインはつけておかねば間違いなく死ぬ。

 

 あと下着姿は恥ずかしい。

 普段は意識していないがあたしも女だ。想像しただけで恥ずかしい。


 女性のモノノフの中には裸でも平気という強者がいるが、まだその境地に達していない。


「シルクチェインっていうのは防具でしたっけ。脱がしますか?」


 タンクトップ型のシルクチェインのお腹部分を捲られそうになり、あたしは全力で首を左右に振った。


「ま、まて! 暗器は全部取られている! こ、この下は下着なので、勘弁してくれ!」


 どうやったら聞き入れて貰える!?

 とりあえず懇願しよう。恥ずかしい言えば聞いてもらえるかもしれない!

 ええと、里で教わったのは同情を惹くやり方だったな!?

 で、出来るか? あたしに……。

 でもやるしかない!


「た、頼む。下着姿は恥ずかしい。見逃してくれ……後生だ」


 頬を熱くしながら泣きそうな声を出して頼むと、あたしの正面に座っている木こりと、防具をとるため横に座り込んでいた木こりがピタっと動きを止めた。


 これは成功したか。と期待したがその直後、木こり二人の目の瞳孔が開き不穏に光った。

 にやり。とゲスな笑みを浮かべて、喉を鳴らす。


「これは、しっかり装備を外したほうがいいですよね?」


「そのほうがいい。全部外してしまおう」


 あたしは恐怖を覚え少しだけ後ろに身を引いた。悪鬼がいるので全く下がっていないけども。


 これは……逆効果だったようだ。

 やる気に満々にさせてしまった。

 なんでだろう……。


 何が悪かったのか。を今は考える余地がない。


 木こりたちはタンクトップ型のシルクチェインやズボンを脱がそうとしてあたしに覆いかぶさり、遠慮せず衣服の中に手を入れてくる。


「っっ!」


 明らかに木こりたちの手つきが変わった。

 肌に触れないように気を使っていた感じだったのに、今は、どちらかといえばイヤラシイ手つきになっている。


 必要以上に肌を触られて、気持ち悪くて、悲鳴をあげそうになった時に


「いい加減にせぬかバカ共が!」


 村長が上着に手を入れている木こりを蹴った。木こりは台の足に頭を強打する。


「何をやっているんだいこの阿保共は!」


 白衣の老婆がズボンの裾を持つ木こりの頭を叩き、


「それ以上脱がしてどうするんですか! 服の下は下着って言ってたでしょう!」


 中年女性がその木こりの襟首を引っ張って、あたしの足から落とした。


「……いてて。あの」

「ええと」


 身内から怒られるとは思っていなかった木こりたちは、正座をしながら茫然と村長達を見上げる。


 「でも」と口答えしようとした木こりに、村長はガッと牙を剥いた。


「でも。じゃなかろうが! 旅人さんは若い女性じゃぞ! 下着姿にしてどうするんじゃ! 若い娘さんを辱めてどうする! 恥を知りなさい!」


「で、でも、ナルベルト様が……」


 狼狽した木こりが悪鬼に助けを求めるが、当の本人は全く興味ないようで


【終わったなら吊るすぞ】


 とだけ告げた。

 ある程度の武器防具を外した事で満足しているようである。


「終わりましたナルベルト様。さっそく吊るしましょう」

 

 村長がにこりと笑顔で次へ促すと、木こり達はガックリと肩を落とし、あたしはほっと胸を撫で下ろした。


 ううう。助かった。


 あたしは村長達のおかげで下着姿のまま吊るされるという、一歩間違えれば色事になる事態は免れた。

 そして防御力ゼロで筋肉だけで暴力に耐えるという地獄を回避できた。

 本当にありがとう。


 まぁ次の危機がくるから、喜べないんだけどねぇ。


 悪鬼があたしの腕の縄を結び直した。今度は頭の上で腕が結ばれている。吊るす気満々だ。


 魔王に運ばれて、壁の突起に両腕のロープが引っ掛けられあたしは固定された。

 ギリギリ足先がつく状態で腕が痺れそうである。


「でもあれ、さっき村長が防具って」

「ほんとほんと。折角……なぁ」

「なぁ……」


 と、何かを諦めきれない木こりがぼそぼそと呟く。


 最低な奴らだ。


 あたしが軽蔑した視線を向けると、それに気づいた木こりが目をそらして黙った。


「さて、これでのんびりお話できますな、旅の方」


 村長が嗤って見上げる。


 全然危機は回避されていない。

 寧ろ、今からが本番だ。


次回更新は木曜日です。

面白かったり続きが気になったら、また読みに来て下さい。

イイネ押してもらえたら励みになります。

評価とかブクマだと小躍りします。

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