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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(狂気の同調)――
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リヒト視点:詰問から脱出する少し前②


 住宅区に入り、家が立ち並ぶ横の道に足を踏み入れたところで、リヒトは呪印がひどく熱くなるのを感じ胸骨辺りを押さえた。


「なんだ!?」


 次に悪寒がしてその方角の空を見上げる。


 空が割れて暗雲が突然現れた。遠目からでもわかる邪悪な気配が空と村を覆い始める。

 空から一本の糸のように魔王が振ってきたのが肉眼で確認できた。

 魔王が依代に憑依した。と直感する。


「まさか……新たな災いが現れたのか!? この場所に既に災いがあるというのに!」


 思い違いをしていた。


 一つの場所に一つではない。

 人の願う行動が魔王を呼び寄せ、複数体の魔王が災いを同時期に発生させる事もあるということだ。


「神に見放されたこの世界は、願うことすら許されないのか……」


 衝撃を受け、立ち尽くしていたリヒトだったが、すぐに異様な気配を感じて我に返る。


「ちょっと待て。なんだこの気配」


 空から魔王が降りた瞬間、あっという間に災いの気配が増えている。それが瞬く間に村中に広がりをみせていた。


「数が……増えている? 眷属が……。何が起こって」


 黒い靄が広がってきている。あれは魔王の力だ。とても強大な力を感じる。

 憑依して間がないのにこの影響力は何故だ。

 オルゴールに取り憑いた魔王の方が日数が経っていたのに弱かった。


 今の段階じゃ全く何も分からない。


 黒い靄が居住区を飲みこもうとしているので、ここに居てはマズイ。靄に興味はあるが今は脱出することが優先だ。


 リヒトは畑の方へ移動して靄から逃げつつ、慎重に走る。

 門に近づくにつれて邪悪な気配がどんどん大きく、数も増えてきた。


 伝わる負の感情がチクチク胸を刺す。それは比喩ではなく、実際に呪印が熱くなりすぎて痛みを感じているからだ。


 後悔、憤り、絶望、苦しみの感情が伝わってくる。


「この思考は村人だ。眷属に成り下がったか」


 魚の時と同じだ。力を蓄えて眷属を増やし周囲に影響を与える。


「だとしても、現れてすぐこの状態になっているのが理解できない。何がきっかけで……」


 脳裏にナルベルトの行動が過った。

 宿で起こった押し問答が蘇る。


 村から出ようとしたミロノと遭遇して、また押し問答が始まって、そこで。


 そこで、絶望に打ちひしがれて……祈ったとしたら?


 強い祈りは魔王を招き災いを呼ぶことは分かっている。依代がナルベルトになってしまったら、そのターゲットは。


 考えるまでもない。


「出遭った可能性が高い。だとすると、運がないにもほどがある」


 呆れたように呟くも、表情焦りの色が出始める。急いで合流しなければと、リヒトは速度をあげた。


 たまに居住区が視界に入ると、明らかに誰か探している村人がいた。鬼の風貌になり近寄ると危険だと全身で現している。


 慎重に進んだ結果、リヒトは誰にも擦れ違うことなく、見つかることもなく草原へ到着した。


 草原は血の匂いが充満している。風が吹いても匂いは薄れない。

 外壁も草原も血まみれで、死体がそのまま放置されている。その数はざっと80人はいるだろうか。一戦終えた後だと容易に伝わる。


 その惨状をみて、リヒトは倦厭するように目を細めた。


「予想していたが死屍累々だ」


 リヒトは周囲を観察しながら歩く。


 地面が荒れて草が飛び散り、土塊が散乱し、凸凹していて、人の血液で赤く染まっていた。

 壁にも広い範囲で血痕がついている。

 どうやったらあんな高さに血がつくのだろう。とリヒトは上を見上げる。


 幾つかの場所で数十人の死体がまとめられている。

 撲殺されたのか刺殺されたのか分からないが、一斉に数人、もしくは数十人からの攻撃を受けて絶命したようだ。混乱した意識が機能を止めた肉体に残っている。


 リヒトは顔をあげた。すぐに周囲を読み取ろうとするが、魔王の気配が強くて鮮明に伝わってこない。


「マズイな」


 リヒトは門をみる。扉が閉まっているので脱出は出来ていないはずだ。


 放置された死体を粗方確認したが、ミロノの死体はない。

 死んだので戦闘が終了したわけでないと分かると、ちょっと安堵する。


 村人が眷属に変わったので、逃げるため場所を変えたのだろう。そう考えていたが。


「あれは」


 草原に刀が置き去りにされている事に気づいた。

 毎日見ているからすぐにわかる。ミロノの愛用の刀だ。

 

 リヒトの表情が曇った。


 拾い上げると、刃についている血は少なかった。

 刀で斬殺された死体は数体あったが、あとは違う武器で絶命している。


 それはすなわち、村人を気にして攻撃の手を緩めていたと容易に想像が出来る。


「はぁ。あの馬鹿が」


 命の危機でさえ第三者を気にするなんてどうかしている。と毒づいて、ガシガシと乱暴に頭を掻いた。


「死体がないなら捕縛された可能性がある。生かしたまま捕らえる目的は……尋問だろうな」


 ナルベルトの言動をもう一度思い浮かべる。

 彼は必死に『薬があるはずだ』と繰り返していた。


 だから殺さずに。とリヒトは静かに呟いた。


 予想とは違う斜め上の最悪な状況だ。と辟易するが同時に、ミロノの運の良さに苦笑する。


「運が悪いくせに、運がいいやつだ。しかしどうしたものか……」

 

 もう一度住宅区に視線を向ける。その視線は鋭く尖っていて、瞳に怒りの炎がチラチラと灯り始める。


「気配を探りたいが、こうも魔王の気配が強いとかき消される」


 陽動をするにしても現時点での居場所の特定は必要だ。敵がミロノから離れたタイミングで助け出さなければならない。


 探そうにも潜入するの困難だ。村人達は普通の様子に戻っているがその思考は異質。人間の思考ではない。

 見つかれば命の保証はないだろう。


 時間をかければかけるほど、生存の可能性が低くなるし、命は助かってもその他失うことになってしまう事もある。


 仕方ない。とリヒトは諦めた。

 使いたくない能力をフル活用することにする。


(おい間抜け。今何処にいる? 生きているなら応えろ)


 彼は強く念じながら、直接ミロノの脳内に呼びかける。


次回はミロノ視点に戻ります。

更新は木曜日です。

面白かったり続きが気になったら、また読みに来て下さい。

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