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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第二章 憶測飛び交う真偽の旅
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初めての町の噂②

 町に到着して真っ先に向かったのは宿屋だ。


 当たり前だが、別々に部屋を取って個人で貨幣を払う。頼まれても同じ部屋に泊まりたくもない、無ければ野宿するだけだ。


 初めて宿を利用すると告げると、マナーなどを丁寧にレクチャーしてもらった。嫌な顔一つもせずに親切に教えてくれてとても助かった。


 部屋番号を教えてもらったので向かう途中、リヒトに呼び止められ、荷物を置いてから食堂へ向かった。


 飲物を頼んで席につくと、


「一応教えとく」


 リヒトが偉そうに切りだしたので、一応大人しく聞いた。


 内容はザックリというならば


 『人が多い町ではまず寝床確保が先決』

 下手に野外に寝ると夜盗などに襲われる危険が高くなるのでやらないこと。


 『情報収集では役所と図書館を中心に探す』

 役所は町で発生している事件や注意する事柄、町の外で発生している問題を記載している。旅をする者の貴重な情報源になるそうだ。

 図書館及び資料館は鎮静化された問題や、その土地の歴史などを知ることが出来る。疑問について答えを探すならここが一番良いそうだ。


 『酒場は情報の坩堝』

 真偽は定かではないが、災いの噂もここが集まりやすく、住民が今何に関心を持っているかを知る事が出来る。また、旅人や冒険者の知り得た情報が流れていることが多い。


 ……って言うことを、丁寧に、嫌味タップリトゲトゲしい感じで教えてくれた。


 普通に言ってくれれば、こんなイラッとした気持ちにならないんだけどなぁ?

 

 思わず殴りそうになったけど、何度も手をひっこめたあたしは偉いと思う。


「分かったか?」


 話し終わったリヒトから確認がきたので、あたしは笑顔で「アリガトウ」とお礼を言った。口の端や眉に皺を寄せて、額に血管が浮き出ていたけど、礼はちゃんと述べた。


 それを見て、リヒトは嘲笑していた。


 あああああ、殴りたい。


「宿も決まったし、今度は情報収集に移る」


「へいへいへーい」


 あたしはやる気ナシで答えた。

 まぁ、彼の方も面倒臭いと言わんばかりに、グラスの氷をガラガラ鳴らしていたので、お互い様だ。


「役場と図書館、酒場。何処がいい?」 


「堅っ苦しいとこ嫌い」


「じゃ、お前は酒場担当。日が暮れる頃にやっているだろうから、夕方から夜中頑張れよ」


「よしきた! 別行動ね。清々する」


「遊ぶなよ?」


 リヒトが念を押してきた。


「遊ばないよ。あんたと離れるって事だけで妙に至福を感じてるだけだ、ハハハ」 


「ほぉ? 奇遇だな。俺も同じだ、ははは」


 お互い軽く笑ったがその声は棒読みで、更に目は全然笑っておらず真顔。

 不気味に思ったのか、カウンターキッチンで調理していた中年の女性が、珍妙な面持ちでこちらを見ていた。


「それじゃ、嫌だけど! また後程」


「ああ、顔を合わせたくはないが、また後で」


 こうして打ち合わせを終えたあたし達は、それぞれのタイミングで宿屋を後にして別行動をとった。


 出てきたのは良いけど……。


 あたしは人の往来を視野に入れつつ、ちょっと途方に暮れた。


 町の地図がわからない以上、動きようがないってことに気づき、役所に行って地図を確認することから始めた。

 メモに手書きでざっくり描き、明るいうちに酒場を下見することにした。

 決して観光ではない。情報収集のついでに観光だなんてそんなこと……やるしかない。


「うん、これ美味しい」


 お菓子屋で売られている一番安いクッキーを食べながら、あたしはうろうろと道を歩きまわる。一番の目的は酒場だが、メイン通りもある程度確認しとこう。

 頭の中に地図があると、いざっていう時に役立つからな。


「とはいえ、やっぱ時間かかるよなぁ。誰かに聞こう」


 適当に呼び止めた通行人に尋ねたら、酒場は二つあって、両方とも裏路地に店を構えていると教えてくれた。


 一つは豪華な酒場で町の中央付近にあり、もう一つの酒場は地味で正面門の近くにあった。

いや、地味ではないか。

 

 散りばめ花を象った光輝石が並ぶ豪華な酒場を見たから、地味に見えるだけで、正面門の近くの酒場も巨大な敷地に柱や壁に模様が掘られた立派な佇まいのお店だ。


 村にあるのとは比べ物にならない。

 良い酒が置いてあるといいな。


「先に行くのはどっちにしようかな」


 日が沈みだしたので、あたしはコインを取って弾いて手の甲に乗せる。表が出たら派手な方。裏が出たら地味な方。


「表」


 最初に行く場所が決まったので、宿屋に戻り食事を済ませて少しだけ仮眠をする。

 耳に届く喧騒は村とは違うので若干落ち着かなかったが、体を休めることは出来た。そのうち慣れるだろう。


「そろそろ行くかな」


 カーテンを少し開けると外は真っ暗だった。家からの明かりがちらほら漏れている。


「わぁ、明るい」


 驚くべきは道に灯りがあることか。夜道は明るそうだ。

 

 背伸びをして体を軽くほぐし、身支度を始める。

 刀を腰につけ、右太ももと左上腕にナイフを装備し、更に暗器を体中至る所にセットする。身体検査しても分からないよう絶妙に隠す。武器お断りだったら刀とナイフは外そう。

 

 宿は夜も自由に出入りできるようだった。鍵は自分で管理するスタイルなので、ポケットに入れておく。


 てくてくと、人通りが少なくなった道を歩いて数十分後、豪華な酒場へ到着する。


「うっわ。昼間かここは。目が痛い」


 きっとこの辺は光輝石が大量に手に入るのだろう。決して安いものではないが、この量を設置できるのならば、相当な財力があるのだろうなぁ。


 そんな事をぼんやり思いながら、物怖じせずドアを開けて中に入ると、真っ先に軽やかなヴァイオリンの曲とピアノの演奏が耳に届いた。


「わぁ」


 店内に居た客達は、酒場の外見に負けず劣らず派手な装飾を付け、質のよさそうな衣服に身を包み優雅に談笑していた。


 間違いない、ここは金持ちが集まる酒場だ。

 ちょっと場違いだったな。どうしようかなぁ。


 と、数秒ほど途方に暮れていたら、


「おい」


 後ろから胴間声で呼びかけられる。

 声の方に視線を向けると、執事服の男が見下ろしていた。どうみても上品さは感じない。


「お譲ちゃん。ここはてめぇみたいな身汚い輩が来るところじゃないぜ」


 口調はどこにでもいる普通のガラ悪い兄ちゃんだが、服装から判断するにここのスタッフだろう。

強面で威圧感たっぷりの無骨者に出くわせば、普通なら冷や汗をかいて怯えるだろう。村にこの手のタイプがゴロゴロいるので、あたしには全く効かない。


「さっさと帰りな」


 恐らく、この人は用心棒だ。

 あたしを不審者とみなして蹴散らしにきたのだろう、仕事熱心だな。

 しっかしまぁ、服が顔に似合ってないなぁ! その程度の着こなしだと服が泣くぞ!!


 あたしは少しだけ失笑をして、声をかけた若い青年に尋ねる。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「ああ? 何を聞くって? 金持ちに取り入ろうとかか?」


 あたしは即座に真顔で否定する。


「いいや。情報収集。災いの噂について聞きたいだけだ。あんたは何か知ってるか?」


「!?」


 男の顔色が分かりやすい程青くなったが、すぐに赤くなったと同時にこめかみに血管が浮かんだ。


「そんな話、知るか!」


「めっちゃ知ってそう」


「さぁさぁ! ガキは出ていった! じゃないと………!」


 眉間に皺を寄せて怒鳴るが、ふと、視線があたしの服に止まった。

 そして少し間を空けて真顔になると、男は片腕をぶんと振って払いのける動作をする。あたしには風がくるだけでギリギリ当たらない距離だ。


「ここじゃ噂は毛嫌いされてる! 他所へいけ!」


 男は凄い剣幕であたしを威圧する。


 あたしは半眼でそれを眺めつつ、軽く肩をすくめる。


「ふーん。わかった、お邪魔様」


 喧嘩しても勝つけど、ここで騒ぎを起こしてもなんの得にもならない。

 あたしは早々に立ち去った。


「なんなんだ。モノノフなら、もう一つの酒場に行けよ」


 耳に聞こえた音で背後を振り返ると、額を押さえている男がため息を吐いていた。ちょっと顔色が悪く見えるのは気のせいだろうか?


 首を傾げつつ、さて困ったと唸る。

 一つ目の酒場は五分ほどで終了してしまった。

 これは完全に選択ミスだな。

 時間を無駄にしてしまった。


 それでもまだ夜は深まったばかり、まだまだ酒場は営業しているはずだ。



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