表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(狂気の同調)――
129/279

疑心者は魔王に救いを求める⑥


「よし。やるか」


 あたしは刃を戻し、ナルベルトへ駆けだした。


「ひゃはははは! なかなかやるではないか。これは予想外だ」


 ナルベルトは愉快だと言わんばかりに笑っていて、迎え撃つように斧を構えた。

 魔王はあたしよりも頭三つ以上背が高い。

 切り降ろしで刃先が弱点に届くか、ちょっと不安だ。


「一刀両断!」


 出し惜しみはなしだと、奥義をぶちかましてみる。


 鋭い風刃を纏いつつ振り降ろした刀はナルベルトの額にギリギリ届きそうだ。

 しかし、黒い靄を纏った斧で受け止められ、あっさりとはじき返された。


 金属音が絡まり跳ね返る音が響く。

 あたしの手に振動の衝撃が伝わる。体勢は崩れないが予想以上の力が返ってきて度肝抜かれた。


 奥義を簡単に防がれるなんて、今までなかったぞ!?

 どうなっているんだ? 

 まだ憑依されて数分だというのに、今まで戦った魔王の中で一番の強さだ。

 

 驚愕で目が見開かれたあたしを嘲笑うように、ナルベルトは斧を振り回した。


 刀で受け流すものの、見た目の長さと攻撃の範囲にズレがあるので、反応が少し遅れる。


 くっそ。黒い靄が厄介だ。


 手首、肘、肩の動きでおおよその攻撃軌道は予想できるのだが、体を覆う黒い靄がその動きや長さを誤認させる。


 更に黒い色が距離感すらも惑わせてくるので、ナルベルトの本来の大きさがどのくらいか混乱しそうになる。


 胴を切った、額を切った、と思ったら、それは中身のない黒い靄だけだったり。黒い靄だけだと思ったら中に斧があったり、と自分の目測を崩されるので気分が悪い。


「あーあーあ! こうなったら全体攻撃技だ!」


 一人と思うまい。黒い靄を含めて二体相手にしている、という気持ちで、あたしは刀に闘気を流す。渦を巻いた竜巻のイメージを起こしつつ


砕波(さいは)の舞」


 素早く刀を下から振り上げ、斜めに振り下ろす。


 強風が発生し、ナルベルトの体に風が絡み一時的に動きを封じた。ついでに黒い霧も動きを封じる事に成功したようだ。


 風圧を起こすことにより気圧が下がり、ナルベルトは刀の方へ引っ張られる。


「お、お、お、お!?」


 ナルベルトが驚いたように声を出す。風圧に負けふわっと足元が浮かぶと一気にあたしの間合いまで引き寄せられる。


「渦!」


 飛んできたナルベルトの額めがけて刀を振り降ろす。あたしの闘気によって形成された風の刃50本も同じタイミングで降り注ぐ。


「ふぐ!?」


 計51本の刀の威力は、黒い靄の防御を貫通することが出来た。


 ナルベルトの全身から鮮血が飛び散る。傷ついていても四肢は無事。胴体も深い傷は負っていない。狙った額は何層にも重なった靄に覆われいたため、皮膚まで届いていないようだ。


 思ったほどダメージは通らなかったか。


「くらえ!」


 風の拘束がなくなった瞬間、ナルベルトはあたしに斧を投げつけた。至近距離から投げられたので、息を一回吸う間に顔面に迫ってくる。

 

 即座に上半身を捻って回避するが、横髪の束が切り取られた。

 あとで髪を整えなければならないなぁ。


「こ、こしゃくな真似を」


 ナルベルトはニタニタ笑顔に少し焦りを浮かばせた。ポタポタと草原に血が垂れている。浅くも深くもない傷ということかな。


「あんたの為だよ。早く魔王を剥がさないと、災いが起こるからな。これ以上、村が不幸になるのを望んでいないだろう?」


 とはいえ、あたしはナルベルトを助けられるとは思っていない。


 憑かれてすぐとはいえ、黒い靄をしっかり操っているようにみえる。魔王の力を使えば使うほど同化が進む。

 ナルベルトと魔王はもう引き剥がせない。そんな気がする。


「俺のためだというなら、薬をよこせ」


 ナルベルトの流血止まった。黒い靄の隙間から傷口が修復されているのがみえる。若干回復したようで表情に余裕が戻っていた。


 「却下だ」とあたしはため息混じりに答える。


「その話、何度したと思ってる。いい加減理解しろよ」


「嘘吐きめ。薬をよこせ」


 ナルベルトに纏う黒い靄が変化し、両手に斧の形が形成された。靄の癖に金属特有の光沢があり、よく切れそうだ。と思う。


 さて。強度もなんとなく把握出来た。

 靄には使える量があり、攻撃や防御など形を変える時に隙間があることも把握出来た。


 よし。次で仕留めよう。


 そう決めて闘気を練り奥義を放つ準備をしていたあたしの耳に 


「なんじゃ。あれは?」


 老人の声が聞こえて、思わず視線を向けた。


 住宅の方向から人影、老婆と老人の三人の姿が見えた。


 やっべぇ! 嫌なタイミングで人が来たし!


「こっち来るな! こいつ理性を失っている! 殺されてしまうぞ!」


 あたしの叫びが聞こえたのか、老人達は足取りを少し重くしてこちらの様子を伺う。


 ナルベルトの表情と、倒れている木こり達の表情、そして血まみれで事切れているティンモの姿に愕然と顔色を変え、腰を抜かした。


「何事じゃぁ!?」


「倒れて。ひゃあああああ!? ティンモが死んどる!?」


「誰がやったんじゃぁぁぁ!? た、旅人さんとナルベルトは何をしとる!? ナルベルト、どうしたんじゃその姿は!?」


 ショックからいち早く回復した老人が、よたよたとこちらに向かってやって来た。


「だから来るなって言ってるのに!? 逃げてよ!」


 あたしが叫ぶと、その隙をついてナルベルトが攻撃をしかけてきた。二対の大斧がカマキリの鎌のように振り回される。


 受け止めると刀が欠ける気がしたので回避する。


 シュン、シュシュシュン


 耳に風を切る音がする。紙一重で回避するが羽織に細かな傷が入って傷んでくる。


 その間に老人たちはこちらへ距離を詰めてくる。倒れている木こりの安否を心配してだろう。

 気持ちは分かるけ、状況を把握してほしい。


 あたし、怖い鬼ような顔になって黒い靄を纏っている人に攻撃されてるんだけど。

 異常だろうが!?


 「逃げろよそこの人!? 」


 思わず絶叫すると、ナルベルトはくるりと老人たちに顔を向けた。

 

 いや。180度回転してんだけど。

 首柔らかいを通り越して、頚椎折って死ぬレベル。


 あまりの出来事に一瞬呆けると、


「病にかかる者達を助けたいと思わないか!」


 ナルベルトは空気を響かせながら声を出した。

 鼓膜にダイレクトに届き、あたしは反射的に距離を大きく取り、耳を塞ぐ。


「思うだろう!?」


 老人達が目を見開き、ナルベルトを凝視した。

 黒い靄が周囲にぶわっと扇状に広がっていく。


 これはもしや、老人たちも眷属にしようとしているのか!?


 止めなければ。と思った矢先にまた惨状を目撃することになった。

 

次回更新は木曜日です。

面白かったり続きが気になったら、また読みに来て下さい。

イイネ押してもらえたら励みになります。

評価とかブクマだと小躍りします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ