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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(閉鎖された村)――
114/279

旋回する質問と渦巻く暗鬼①

<この村人たち、人を疑う事しかしないのか>

 結局、リヒトの様子が心配で、村長宅から真っ直ぐ帰ってきた。

 もう少し村の中を探索して、風土病ことローレルジ病について調べてみたかったが、もしかしたら目を覚ましているかもしれない。

 状況を伝えて共有しないと、彼との証言が食い違う事は、とても危険すぎると判断する。



 宿に到着し二階に上がるが、どうも少し様子がおかしい。

 開けっ放しのドアを見て反射的に、うわぁ、と声を出すと、


「おかえりなさいまし!」


 あたしの姿を確認したマーベルが、慌てて部屋から出てきて「申し訳ありません」と深々と謝罪した。その表情は疲れ切っている。


「……ん?」


 ドアの鍵が壊れている。

 鍵がついていた金具がもぎ取られるので、強い力で押して無理矢理開けたようだ。マーベルには出来ない荒業だ。元気の良い乱暴者が来たようである。


「勝手に入られると困るんだけど。何があったか説明してもらえるか?」


 問いかけると、マーベルは輪をかけて申し訳なさそうに深々とお辞儀をして


「大変申し訳ありません。木こりの若者が勝手に鍵を壊して、お連れ様に少々乱暴を」


「ひぇ。そいつにはそんな趣向が」


 あたしが茶化すとマーベルは慌てて否定した。


「いえ! 単に霧について話を聞きたかったみたいですが、少々やり方が乱暴で。許可なく突然押し入ってしまいました。止めようとしましたが力及ばず……」


「はぁ。血の気多い奴なんだな」


「木こりの……村の自衛団リーダー、ナルベルトです。彼は森に入り素材を確保することと、村の治安を守る活動をしており、この度のことで心身ともに……」


 話が長くなりそうなので「うん、分かった」と遮った。


「じゃぁ、鍵のかかる部屋を別に用意してほしいけど、出来そうか?」


「勿論、そうさせていただきます。ご用意しますので少々お待ちください」


 足早にマーベルが去ったのを確認して、あたしは部屋に入った。


 あ。ごはんの美味しい匂いが漂っている。


 リヒトはベッドに座ってスープを咀嚼していたが、


「村長はどうだった?」


 と、あたしを見て声をかける。

 見た感じ、体調は良さそうだな。


「その前に。あんたの体調は?」


「変な奴に怒鳴られて最悪だ。耳が痛いし服引っ張られて持ち上げられた」


 イラッとしているが、怒る元気があるのは良い事だ。


「良さそうだな」


「一応な。……俺の事はもういいだろ。お前の話をしろよ」


「話は部屋を移動してからだ。鍵がかからないのは落ち着かない」


「同感だ」


「……ん?」


 スープの匂いに混ざって薬湯の匂いがする。辿っていたらリヒトの傍に寄っていた。


「なんだよ」


 嫌そうに顔をゆがめるリヒト。彼の前に置かれているお盆にスープの他にパンとお茶がある。コップに半分ほど残ったそれは、例の薬湯だった。


「あー、これ飲んだのか。っていうか、出されてたんだ」


 あたしが嫌そうな表情をしたのを不思議に思ったのか、リヒトがお茶の入ったコップを見る。


「なんだ? 普通のお茶として出されたぞ」


「風土病の予防に飲まれているらしいよ。あたしは飲まなかった」


「………」


 リヒトは露骨に顔をゆがめた。


「なんだよその顔」


「お前が嫌がる食べものは碌な物ない。野生の勘は従ったほうがいい」


「野生の勘ってなんだよ。でもまぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ってことは、そのお茶で予防できてないってことだよな。薬として珍重されているようだけど。効果なさそうだから飲まなかっただけ」


「なんだそれ? 効果ないのになんで飲まれてるんだ?」


「さぁ……? 解らない」


 あたしは村長夫婦を思い出し、思わず鼻先で笑ってしまった。


「うーん。思い込み?」


「ハッ。思い込み? 馬鹿じゃねぇの?」


「言うな。村人に聞こえると反感を買う」


 声を低くして囁くように注意すると、リヒトは窓の外から見える人影に視線を向ける。「気を付けよう」と頷き、小声で話を続ける。


「だとしても。効果が見込まれないと知っても、別の薬を探さないなんてなぁ。そんなにコレを盲信しているのか?」 


「ちょっと批判したらしっかり非難された」


「そうか。迂愚(うぐ)の集まりか。飲んでも悪化するだけなら、病気を促進しているのと同じだろうに」


 呆れたように肩をすくめるリヒト。

 あたしが飲まないだけで、そこまで言われる薬湯が少し哀れであるが、同意見なので頷いて……。


 んんんん?

 あれ? 今こいつなんて言った?

 病気を促進する?

 滅茶苦茶嫌な予感がした。


「ちょっとごめん! これちょうだい」


 リヒトの合意を得ずに薬湯を手に取り匂いを嗅ぐ。村長の家で出された薬湯と同じものだ。

 コップに残っているそれを一気に飲み干した。

 ぎょっとして固まったリヒト。

 阿呆が愚行をしたとドン引きした眼差しを向けてくる。

 そんな事を気にもせず、自分の体内で起こる凄まじい反応に納得して何度も頷く。

 外れてほしかったが、当たってしまった。


「うん。うん」


 お盆の上にトンとコップを置く。

 体内反応から考えると未知の毒。血が腐っていくような嫌な感覚がする。

 そして魔王の力を感じる。これは呪いであり災いだ。


「あんたの考え正解。濃度は薄いけどこのお茶に毒が含まれている。これが病気を発生させている可能性が高い」

 

 渋い表情になって告げると、リヒトは理解できないと首をひねった。


「は? なんで分かるんだ?」


「仕方ないだろう、解るんだから」


 堂々と言い返すと、リヒトは本気で呆れかえったように目を丸くした。大きいため息を吐く。


「俺はまだ本調子じゃない。倒れるなよ」


 ストライト湖の毒魚の件を示しているのだろう。

 あれは酷かったと思い返す。

 でも、今回もそれに近い感覚がある。前回で耐性を得たのでこの程度で済んでいるかもしれない。


 「大丈夫」と言って「しかし」と付け加える。


 一つだけ疑問が生まれる。

 発病するには毒の濃度が薄すぎる。ちょっとしたアルコールくらいだ。肝臓や腎臓機能低下をしていなければ体外へ排出されそう。

 

「この薄さですぐに症状が出るなんて考えられない。別の要因もあるはず」


「黙れ、話はあとだ」


 リヒトが鋭く言うのと階段から足音が聞こえた。

 毒に集中して気配に気づくの遅れたから助かった。


 開けっ放しのドアをトントンとノックしてから「失礼します」と一声かけて、マーベルが部屋に入ってきた。あたし達をみてお辞儀をする。


「角部屋を用意しましたので、移動をお願いします」


 新たに用意された部屋は、今いる部屋の反対側で、一番端っこの部屋だ。


「こちらは夕日が当たると村の光景が綺麗なんですよ~。では後ほど」


 どうやら景色が綺麗な部屋に案内するようだ。


ブクマ有難うございます!!〜〜((踊))〜〜()

励みになります!!


次回更新は木曜日です。

面白かったらまた読みに来て下さい。

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