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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(閉鎖された村)――
113/279

リヒト視点:霧立つ森に閉ざされた村⑪

<寝起きの俺に何を聞こうとしてるんだ? あとモブの視点が最初にあるぞ>


 時刻はミロノが帰宅する十分前。

 宿屋が開いていることに気づいた木こりの青年が、何故営業しているのかと尋ねてきた。

 霧が発生し、風土病が流行り始めてから一か月も経たないうちに、外部の者が村へ来ることが出来なくなり、孤立している。

 彼が不思議に思うのは当たり前だった。

 顔なじみのマーベルは嬉しそうに昨日の出来事を話して聞かせると


「そんなバカな!? 旅人がやってきただと!? 在りえない!」


 青年は驚愕してすぐに否定した。

 村の現状を誰よりも正確に把握している彼にとっては、外からの来客は在りえないことだった。


「本当だとも、疑りぶかいねぇ」


 マーベルは「昨日の夜から旅人が二人泊まっている」と再度教えるが、青年は信じられないと首を左右に振る。その表情はお世辞にも明るいとは言えない。

 黒い影を落とし、目を窪ませ、疑心暗鬼に陥りながら


「だって、そんな信じられない。生きて村へたどり着くなんて不可能だ。あの霧が、村を囲うように覆って……」


「でも本当の事だよ」


 屈託なく微笑むマーベルを見ながら、青年は奥歯を噛みしめるように硬く呟く。

 

「そいつは、どこにいる」


「え?」


「そいつはどこだ!」


 突然怒りに染まった青年に、マーベルは「え?」と目を見開き固まる。青年が客室のある階段の方へ向かっていくので慌てて駆け寄り「お待ちなさい!」と制止しようと試みるが……そんな微々たる力で青年を止められるはずがなかった。

 





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 やけに静かな空間だった。

 草の濁った匂いにあとに、掃除されていない埃の匂いが鼻について不快だ。

 体を動かそうとすると、横になって寝ていることに気づく。いつの間に寝ていたのだろうか。

 四肢を、胴体を、動かそうとすると倦怠感が強く、なかなか体が言う事をきかない。

 まだ微睡の中に居るような気がするが耳が起き始め、周りの気配を探ろうとしている。

 瞼から光を感じてゆっくり開いた。


 どこだここは? と声にならない声を出す。


 ぼんやりと視線が定まらないが、時間をかけてそこがどこかの天井だと理解した。

 小さく頭を動かすと枕があった。柔らかい布団の間にいる。どうやらベッドに寝かされているようだと理解する。


 窓から入りこむ日差しの明るさに昼頃かと思い、ゆっくり上半身を起こした。

 汗がべっとりと肌に貼り付いている服は、いつのまにか部屋着になっている。服を着替えた覚えはない。


「……?」


 腕が妙に痛いので袖を捲ると、包帯が巻かれて手当されている。怪我をした覚えがない。


「……?」


 思考が定まらず頭を軽く振ると、喉の渇きがあった。

 水が欲しくて部屋を見渡すと、横の棚テーブルに水差しがおいてあった。冷えた水だったのか、水滴がびっしりついてテーブルに滴り落ちている。

 水差しと横に置いてあるコップを取ろうとして、傍に置いてあった小さなメモに気づいた。

 水を汲んで飲みながら、メモを手に取って文字を読む。


 『ヂヒギ村の村長宅へ向かう。あたしが帰宅するまで安静に ミロノ』


「……ああ、そうだった」


 喉が潤ったので声が出る。

 冷たい水のおかげで思考が少し回復した。

 ヂヒギ村に行く途中だった。


 途中でどうなったか? 

 なんで俺は倒れている?


 まだ記憶が混濁していたが、ふと、赤い色がフラッシュバックする。


「そういえば、霧が…………?」


 真っ赤に染まった空気の中に入って……そこから記憶が途切れている。


「そこから、どうなった?」


 思い出せず眉間に皺を寄せる。

 落ち着いて考えたかったが、廊下からドタドタした足音と、パタパタとした足音と


「どけ!」


「ダメです、お連れさんは寝て居て」


 と、騒がしいやり取りをしながら、誰かが部屋に近づいてくる。


 何事だ? と思った瞬間に


 バン! 


 ドアが乱暴に開き、閂型の鍵が壊れてパーツが飛び床に落ちた。

 テン、テン、と、少しバウンドして床にゴロゴロ転がってく鍵を眺めていると、壊した張本人が悪びれもせずズカズカと中へ入ってきた。

 その後を追うように老婆、マーベルが侵入者の前に立ちはだかり引き留めようとした。


「やめなさい!」


「ほら、起きているじゃないか」


 マーベルを軽く押しのけ、青年はリヒトを見下ろす。ベッドのすぐ脇にきたのは、身長190センチの大柄の青年で、年齢は二十代だろう。

 短い赤茶の髪に日に焼けた肌、黒いタンクトップに茶色の上着を羽織り、同じ茶色のズボンを履いている。腰の後ろに大きい斧がベルトで固定されていた。


「森を抜けた旅人はお前か!」


 不審者を見るような視線を向け、リヒトの胸倉を掴んで自分の方へ乱暴に引き寄せた。


「!?」


 倦怠感に包まれた体は言う事をきかず、腰が浮くぐらい持ちあげられベッドの端に引き寄せられた。

 このまま手が離れたらベッドから落ちてしまうだろう。


「なんとか言え!」


「……?」


 リヒトは慌てることも怯えることもせず、怪訝な面持ちで青年を見返す。


 誰だこいつは……?

 

 記憶を漁っているが思い浮かばない、間違いなく初対面だ。

 初対面の人間に物を聞く態度ではないだろう。最低だな、と内心軽蔑する。


「どうやって森を抜けた! 霧をどうやって抜けたんだ!!?」


「おやめなさい、ナルベルト!」


 マーベルがナルベルトを止めようとするが、体格も筋力も青年の方が上である。彼に縋り付いて止めるよう制止する言葉しか出せない。


 記憶が混濁している中で聞かれても、答えることが出来ないんだが……。


 それでも思考に一石投じられたように、記憶が徐々に鮮明になっていく。


 そうだ、霧。

 霧を吸って倒れた。


「霧が……そうだな。赤くて……それから……」


 リヒトはぽつり、ぽつりと声を出す。

 質問に答えるというよりも、思い出した記憶の断片を拾って繋げようとしていた。


「霧の中に入ったのか!?」


 ナルベルトの声のトーンが更に高くなった。

 鼓膜がキーンとなるのを感じながら、リヒトは首を左右に振った。


「覚えていない」


 言葉を濁しながら答えたところで、完全に思考が覚醒した。リヒトは苛立ちながらナルベルトの腕を強めに握る。


「いい加減に離せ、脳筋馬鹿」


「その通りよ! この子を離しなさいナルベルト!」


 マーベルが金切り声をあげながら怒鳴ると、ナルベルトは渋々リヒトを離した。乱暴に落とされベッドの上で跳ねたが怪我はない。しかし気分は最悪だ。


「何を聞きだしたいのか知らないが、俺は覚えていない。今は調子が悪いんだ、出直して来い」


 ナルベルトの声を遮って、リヒトは冷たく言い放った。


ブクマありがとうございました!!(((踊)))

励みになります!!


次回は一癖ある村人に危機感満載です。

木曜日更新です。


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