霧立つ森に閉ざされた村⑩
文字数1900くらい
ギルド説明の箇所を直しました。
二人は首を傾げながら「そうですか」と頷き、村長が話しを始める。
「霧が発生したのを確認したのは木こりの連中です。二年半前ほどですかな? 最初はごく一部だったのが、日を追うごとに広がり続け、村を囲うほどの規模になったと報告を受けた」
そこで間が空く。
村長は辛そうにギュッと瞼を閉じて、ゆっくり目を開けた。
「原因はわからん。霧の発生源を探そうと中に入ると、すぐに死んでしまいますので」
「なんですぐに死んだとわかるんだ? 倒れただけだとは思わなかったのか?」
「最初は霧が発生してもすぐに消えたんじゃ。なので、遺体を確認出来た。それが段々と、霧が居座る時間が長く。そう。広がる範囲と居座る時間が比例するように長くなっていった」
言い淀んだ村長に変わるように、老婆が話を続けた。
「ローレルジ病が流行したのも殆ど同じ時期です。こんなに爆発的に病人が増えたのは、村始まって以来のこと。以前は一年に一人か二人患えば多い方でした」
「ふむ。では霧と風土病、どっちが先に被害が出た?」
「霧じゃ」と村長が即答する。
「霧が発生した場所に、何か思い当たる節はあるか? 例えば動物の不自然死があったとか。もしくは不可解な死因や理不尽な死を遂げた者がいたとか?」
村長夫婦の表情がピクリと動いた、気がした。
動揺は見せずに、だが思い当たる節はありそうな反応だった。
「わからんのぉ」
長老は重々しく首を左右に振った。
シラをきっているようにも捉えられる。
あたしは二人の些細な変化を感じ取ったが、今は触れるべきではないと判断して、気づかなかったフリをした。
「そうか。あとは、発生した場所を知りたい」
「ええと、これを」
老婆が地図を持ってきてくれた。
ヂヒギ村の真南、村からの距離は五キロ辺りを村長は示す。
「ここで木こりが見かけたのが始まりじゃ。そのあとは左右にゆっくり伸びていたらしい。半径二キロほどの奥行があるらしいが、今はもっと増えているじゃろう」
「増えている。正確な距離はわからないが、二キロ以上の距離はあった」
あたしの言葉に村長は「そうか」と重々しく頷いてから
「外部からの助けは期待できそうかの? 籠城すれば霧は凌げるが、風土病は感染率が高い。籠城すればするほど病人が増えておる」
「そうだな……」とあたしは腕組みをして考える。
村長は前のめりになって、期待をもった視線を投げつけてきた。
「どうせなら綺羅流れを連れてきてもらえんかの!? 彼らなら原因を究明できる! 是非特効薬を作ってもらいたいんじゃ!」
綺羅流れはギルドの名である。アニマドゥクスを巧みに扱う者で結成されており、吟遊詩人、研究者、調合師など真理を求める集団で構成されている。
このギルドの活動は、環境や妖獣など通常では考えられないような異変があると、調査しにやってくる。そして解決糸口を探り、事態を収束したり助言を行うそうだ。
ギルドの長は『賢者』と呼ばれている。
アニマドゥクスに長けた上、この世の理を理解した者と言われている。
病気の解明、異常気象の究明、妖獣退治、災いの鎮火まで多岐に渡って活躍しており、その地名度は大陸中に広まっている……と、旅の途中で知った。
「どうじゃ旅人さん! 呼んで来てもらえるかの!?」
熱い眼差しが飛んできたので、あたしは眉を顰めて唸る。
「今は難しい。が本音だな。連れが動けるようになったら森を抜けて、村に生存者がいることを知らせに行く。そうしたらドエゴウ町で何かしら動きはあると思うんだが。災いが発生していると周知されているから、どう対策するのか見当がつかない」
「そうですか」と、村長夫婦は目に見えて落胆した。
「やはり災いが発生していると、思われているんですね」
「ああ」と同意して、
「風土病が流行ったキッカケはどうだ? 些細な異変とか思い当たる節はないか?」
と聞いてみるが、「ありません」と村長は即答した。
老婆の方は「はあ」とため息を吐き、両手で顔を覆う。
「こんなに頻発する病じゃなかったのに。普段の生活だって、特に変わったことなんて……」
昔から根付いている病でも、そう頻繁に起こっているわけではなさそうだ。だったら、絶対何か要因があるはずだ。
「そうか……」とあたしが呟くと、村長がハッとしたようにこちらを見入る。
「旅人さんはもしや?」
長老の言葉の意味を正確にくみ取って、あたしは首を左右に振って否定する。
「いいや、違う。研究者じゃない。戻った時にある程度あっちに情報を渡しておいた方が、解決策が練りやすいと思っているだけだ」
目に見えてガッカリする二人。
あたしは「それに」と言葉を続ける。
「病気の辛さは解っているつもりだ。霧と同様に解決の糸口は探したい」
「ええ、そうです」
「その通りです」
村長夫婦が乾いた声をだしながら、深く、ゆっくりと頷いた。
次回更新は木曜日です。
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