伝言は短めに④
「おとぎ話。学問の先生が絵本で読んでくれた程度」
あたしは記憶を遡る。古すぎるし興味もなかったので、曖昧だ。
「えーと、確か、暴悪族と揶揄された魔術を扱う民族がいて、精霊を食べる妖獣を使役して領地を広げる為に、戦争が度々発生していた。百年近くにも及んだ戦争だったけど、最後の戦渦『暴悪の終焉』の最中に、敵国の王を倒して暴悪族の殲滅に導いた二人の英雄が、剣術の天才で精霊術が使えるミロノと精霊術と言霊使いリヒトだった。王国を勝利へと導いた双子は勇者と讃えられた。シュタットヴァーサーの国王が、二人に褒美をあげて、めでたしめでたしおわり」
「俺も子供のころ、そう教わった。でも父上の話は全く違った」
リヒトの眉間に皺がよる。
考え事をする時に皺を寄せる癖があるのかもしれない、気難しい表情だ。
「暴悪族を鎮圧した双子の勇者は、王の娘、ミウイ姫に求婚を申し込み、それが原因で仲違し決闘を行った。最初に死んだ奴がミロノらしいから、リヒトに殺されたんだろう」
「うわぁ」
自分の名前が出てきて、しかもリヒトに殺されるとか、良い気分はしない。
「ここからが問題だ。死んだミロノの恨みが呪いになり、リヒトを呪い殺したそうだ」
「わぁ」
「呪い殺されたリヒトは死の間際に、呪った奴へ呪い返したそうだ」
「どこまで仲が悪い……」
「お互いを呪いながら死んだ後、怨みが強すぎて呪いの媒体になり、果てることもなく転生することもなく、世界に飛び散り災いを与え始めた」
「へぇ……」
「その災いは暴悪族との戦争を思い出させ、魔王の再来だと恐れられ、いつかしか『凶悪なる魔王』と呼ばれるようになった」
「えーと、やっぱり、勇者と呼ばれた人間が堕ちて、魔王になったってことだよな?」
あたしの問いかけに、リヒトは「多分」と答えた。
「俺の家では『魂が呪いに変化したが、一部は輪廻転生に則り、浄化され天に上りまた肉体を得て降りてくる。そして自身の呪いを解くだろう』って、言い伝えがあるらしく、その魂を持つ人間がルーフジール一族で生まれるんだって、言われた」
「うわぁ…」とあたしは額を押さえる。
「尚、呪いは本人しか解けない魔呪術だそうだ」
「最悪!」
「この石」
リヒトは憎き石を上着のポケットから取りだした。
「父上が何も言わずに、いきなり俺に持たせたら胸に呪印が出てきたんだ。そこで今の説明を父上から受けた。もう一人一蓮托生できる相手がいるから、魔王退治の前に迎えに行けってな」
リヒトは目を吊り上げながらギュッと石を握り絞める。
「流石に父上を殺してやろうかと、本気で思ったぞ」
「温厚ね。あたしなら問答無用で斬り倒してる」
「俺の知っている事は以上だ。殆ど情報を貰っていない。だから武神の所へ行って話を聞いたんだが、まぁ、全然だった」
「そうだろうなぁ。親父殿だもんなぁ」
お互いに「はぁー」と肩で息を吐く。
冷静になったリヒトが石を袋に入れて、また服のポケットに突っ込んだ。
「入れるんだ」
「一応、失くさずに持って帰れって言われてる」
可哀想に。
「あと、父上の話だと、俺とお前に浮き出ている呪印を解くには、全ての凶悪なる魔王を倒さないといけないらしい」
「全て……そこが引っかかる。そもそも『凶悪なる魔王』って、自然災害の呼称じゃないの?」
「父上は『人間のタガを外すスイッチ』で『望む姿に進化』をさせることが出来る『精神寄生体』と言った。その結果、自然災害レベルの災いが発生するとも」
「うーん」と、あたしは唸る。
「つまり、人間に憑依する霊魂みたいな。御子が活躍しそうなやつ?」
「その御子にも憑りついて、周囲に自然災害を起こすのが凶悪なる魔王なんだとさ。だから当面は、不穏な事件や災いの噂を追う感じになると思う。何が出てくるか皆目見当がつかない」
「うーん」と。もう一度あたしは唸る。
「無視して世界を観光したい」
「奇遇だな。同意見だ」
でも無理なんだろうなぁ。
あたしは空を仰ぎながら額を押さえる。
「無視できる位置に呪印が出てくれればよかったのに」
「俺、額じゃなくてよかったー」
リヒトがにやりと笑った。
「くっそ! わざとらしい笑顔で……殴りてぇ!」
災いについての話はここまでにした。
あとは野となれ山となれ。遭遇するうちに色々気づく事があるだろう。
「じゃぁ。次はお互いのルールでも決めとくか?」
「そうだな」
次は今後の生活の役割分担とルールを決めることにした。
食事は一日三回の交代制。火おこしや水を交互に行うことになった。
野宿は交互に就寝、火の番と周囲の警戒。宿は各自必要なら警戒。
洗濯は各自。
金銭についてはどちらかが懐に入ったとしても二人で分け合う、もしくは使う事。
戦闘など、トラブルがあった場合には一緒に行う。
限りなく見捨てずに、一蓮托生。
ある程度決まったところで、お開きになった。
あとは一緒に動いてみて、その都度変更すればいいだろう。
今日の最初の見張りはあたしなので、焚火に鍋を置いてお茶のお代わりを作る。
「ふう」
思わず深い息を吐いた。
戦闘時のルールを決める時、揉めるどころかお互いの考えが一致していて怖い。
数もわからない敵に向かって、一人で呪印を解除するのは至難の業だから、逃げないようにお互いがお互いを監視する、って所で意気投合してしまったし。
思ったよりもキッチリしっかりしている奴だ。ある程度は信用できるだろう。
でもまだまだ、背中は預けられない。
「ふう。なんでこんなことになったのかなぁ」
焚火を眺めながら、今まで聞いていた災いの噂を脳内で反芻させる。
正体不明の自然災害レベルを倒す。
それ太刀打ちできる? そもそもすぐに出遭えるようなものなのか?
そんなことを巡らせながら、もう一度大きなため息を吐いた。
一章終了です。
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